第三の答えーーAIとの対立から生まれる世界
前回の記事では、「AIという内なる「悪」を受け入れ、敵と共生するダークヒーロー像」を提示しました。
今回はより具体的に一歩踏み込んだ話をしたいと思います。AIと戦いながら創るというのはどういう意味なのか?
それがーー「第三の答え」です。
言葉の定義
創作における三つの答えについて、まず定義を明確にしておきましょう。
「第一の答え」:私たち人間の直感的な「内なる言葉」
「第二の答え」:AIが提示する論理的な「他者の言葉」
「第三の答え」:対立から生まれる新しい表現
「第一の答え」は、創作における核となる部分です。作家としての「なぜ書くか」に直結し、個人史から生まれる独自の視点である。しばしば非論理的で、はっきりとした形を持たない曖昧なビジョンとして存在します。
「第二の答え」は、AIから得られる意見やアドバイスです。論理的で明確な「どう書くか」の領域に属し、多くの場合、複数の選択肢として提示されます。
「第三の答え」は、前述の二つの答えから生まれる新しい表現です。対話から生まれる発見であり、感情と論理の統合・発展、「なぜ」と「どう」の統合によって実現される一人では思いつかない答えです。
シチュエーション別の考察
それでは具体的なシチュエーション別に、この三つの答えのイメージを膨らませましょう。
アイデア発想
第一の答え:
「スチームパンク風のミステリーを書きたい」
第二の答え:
- 蒸気機関が発達した架空の19世紀ロンドンが舞台
- 巨大な歯車仕掛けの時計塔での密室殺人
- スチームパンク的な発明品や機械を証拠や手がかりとして活用
- 貴族階級と労働者階級の対立構造
第三の答え:
「蒸気機関の仕組み自体をミステリーの鍵にしよう。
蒸気の『圧力』や『温度』が重要な役割を果たす物語。
機械的な精密さを追求する社会と、
人間らしい不完全さがもたらす洞察力を対比させて描く」
「スチームパンク風のミステリー」という漠然としたビジョンを思いつくことはありませんか?特に具体的なキャラクターや展開が書きたいわけではないが、純粋に何かが書きたいという衝動。それをAIに聞くとき、大体よくある話しか帰ってきません。ここのマインドとして、AIの提案に対する「それは違う」という感覚を大切にしながら、その違和感を活かして自分で考える必要があることです。
プロットの構築
第一の答え:
「主人公が記憶を失い、自分の過去を追究していく」
第二の答え:
- 定番的な記憶喪失ものの展開を提案
- 手がかりを徐々に発見していく構造
- どんでん返しで衝撃の真実
第三の答え:
「記憶を『失う』のではなく『上書き』されている設定に。
記憶は失われておらず、並行して存在している。
主人公は『違う人生の記憶』を持っており、
どちらが本当の記憶かではなく、
どちらの人生を選ぶかという物語に」
AIが提示する予定調和的な展開に対して、単純な否定ではなく、「否定の否定」を通じて新しい選択を見出していきます。記憶喪失という定番的な設定を、記憶の上書きという新しい視点で捉え直すことで、多少のオリジナリティを加えることができます。
キャラクターの構築
第一の答え:
「優しいけど弱い青年を主人公にしたい」
第二の答え:
- 典型的な優柔不断キャラの性格付け
- 成長物語の定番展開
- 最後は強い意志を持つ展開
第三の答え:
「『弱さ』自体を武器として使えるキャラクターに。
相手の弱さに共感できる『弱さの才能』を持つ。
むしろ強くなることを拒否し、
弱さを抱えたまま生きる覚悟を決めるアンチヒーロー的展開」
AIの予定調和的な性格付けを逆手に取り、むしろその「弱さ」を独自の強みとして再解釈する。
本文執筆
第一の答え:
「切ない夕暮れのシーンを書きたい」
第二の答え:
「夕陽が地平線に沈もうとしていた。
オレンジ色に染まる空が、静かな別れを予感させる。
彼女の横顔が影を落とし始める」
第三の答え:
「夕暮れは、ゆっくりと時間をかけて私たちを裏切った。
まるで、優しく包み込むように、
光は私たちの間から少しずつ消えていく。
影が生まれるたび、彼女の輪郭が現実味を帯びていく。
暗くなればなるほど、彼女の存在が鮮明になっていく」
本文レベルでは、AIの出力を文書としての最小単位まで分解し、再構築するのがおすすめです。定型的な表現を分解し、自分の世界観でリライト。完成されたレゴブロックを一旦崩して、組み立てなおすイメージですね(笑)。
改稿
第一の答え:
「主人公の独白シーンは残したい」
第二の答え:
- 独白は冗長で読みにくい
- 会話やアクションで表現すべき
- 説明的な部分は削除推奨
第三の答え:
「独白を『内なる声』と『外なる声』に分離。
実際の独白と、行間に潜む本音を
タイポグラフィの工夫で表現。
(例:
通常文:「大丈夫だと言った」
斜体:『震える声で』)
読者は二つの声の間で揺れ動く主人公の
内面を立体的に感じ取れる」
こちらも否定の否定。ダメ出しされたものをそのまま修正するではなく、自分なりに咀嚼して改稿。友達にシナリオを読んでもらう時、このようなことを無意識的にやっている人が多いではないでしょうか?
AIの「他者性」
AIは「シナリオに詳しいけれどあなたのことをわかっていない友人」のような存在です。そういううるさい友人は周りにいませんか(笑)?
シナリオを読んでくれるけど、でもやはりわかってくれない、「他者」なのです。
この「他者性」こそが、実はAIを創作に使うときのポイントです。
反発と受容の繰り返し 「この人わかってない!」→「でも、言われてみれば...」 「いや、でもここは譲れない」→「ここは取り入れよう」
自分の書きたいものの明確化 相手の「誤解」が、かえって自分のアイデンティティを確立させることがある 「わかってない」という感覚自体が、自分の本当に書きたいことを明確にする
その「他者」と対立しながら、創作を行っていくのです。
AIが出て来てから、このプロセスを一人でも回せるようになりますよね。
終わりに
ヘーゲルの弁証法の枠組みで考えると、この創造プロセスはより明確に理解できます:
正(テーゼ):人間の直感
反(アンチテーゼ):AIの論理的出力
合(ジンテーゼ):対立による新しい表現
小難しいのでここでは展開しませんが。
私の実体験としては、それぞれの答えを採用する割合は第一の答え(自分の答えを信じる)は30%、第二の答え(AIの出力がいいと採用)が20%、第三の答え(新しい何かを思いつく)が50%です。
AIの性能が向上するほど、または自分の作品の解像度が低いほど第二の答えを採用する割合が高まるが、AIとの会話で作品の解像度を上げて行くと第三の答えの採用が増えます。
そして、生成AIの真の価値は、単に「答えを出す」ことではなく、私たちに「考えさせる」ことで第三の答えへと導くことにあります。すべてを第二の答えに委ねることは、まさに「内なる悪に飲み込まれる」ことを意味するではないでしょうか。
この対立から生まれる「第三の答え」こそが、AIを使わない人には見えない新しい世界の地平を切り開いていくのです。
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