潜在的記憶
セスナ機の飛行音が 私とNくん 2人共通の記憶を呼び醒ます。
大型旅客機でも戦闘機でもなく、セスナ機独特のふわりと軽く浮かび上がって穏やかに軽やかに気持ちよさそうにどこまでも飛んでいくような、音階で言えば“ファ(F)”の音階。
音、音楽、匂い、季節の移り変わりを頬で感じる温度。私たちの日常は、意図せずとも過去の記憶を呼び醒ます要素に溢れている。
物心ついた頃から毎日、近くの飛行場に離着陸するセスナ機の飛行音を聞きながら 私は大人になった。
そのことに気が付いたのは、結婚してのどかな地元を離れ、新興住宅地に馴染めず子どもができてから改めて引っ越したエリアが調布飛行場からそれほど離れておらず、ほぼ毎日セスナ機の音が聞こえることを 私自身地元を離れておよそ8年ぶりに認識してからだ。
『やっと故郷に、ホームに帰ってきた感じがする』とでも表現すべきところだろうか。
そして、Nくんが生まれた町と私が生まれ育った町がちょうど挟むように2つの町の境に小さな飛行場があったのだった。つまり物心つく前から、2人は同じセスナ機の音を毎日聞きながら成長したのだ。
私はNくんと再会して1ヶ月くらい経った頃から、その共通の記憶をいつかNくんに確認してみたいと思っていた。それというのも強烈に2人の絆を印象づける“音”なのではと感じるエピソードがあったからだ。エピソードというよりここでは“縁”と言うべきかもしれない。
私は自分の感覚だけを頼りに1つ1つのエピソードを繋ぎ合わせていく。それがこの物語『あなたとの再会の記録』である。
唯一無二のあなたとの物語
第1章へつづく…
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