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第1章 再会のとき
誰かとの出会いをきっかけに、自分が今まで生きてきた人生が総精算させられてしまうなんて、俄には信じがたいだろうか。
私も実際に “その出会い” を経験する前までは、そんなの実際には在るはずもなくて、あるのは当然ドラマの中だけ。人生がガラっと変わるようなことは頭の片隅にすら浮かばない、平穏でどちらかと言えば順風満帆な毎日を過ごしていた。
そんな平穏な日々をすっかり変えてしまうような “その出会い” は、この世に生を受けてから約2年後からずっとすれ違いを繰り返し、時には後から聞けば歯痒いようなニアミスも何度となく繰り返しながらおよそ39年の歳月を経てようやく再会を遂げた “魂の記憶” の再会だった。
正確には “魂の記憶を思い出すような再会” であったのだろう。
それまでは、“魂” なんて目に見えないもののことを言及する人たちをどこか引いて見ていた私が、“魂”が探していたのでなかったとしたらこんなにも度重なる偶然を繰り返していた “私たち” のことをどう説明すれば良いのだろうかと思ってしまうようなものだったのだから。
* * *
『生きていて、よかった…』
そんな感情が五臓六腑から自然と込み上げて来るような再会の仕方を、普段の日常生活を送るなかで体験するとは思ってもみなかった。それも天変地異などの直後だった訳でもなく、ふいにその人と目があった瞬間、突然にだ。
それが中学を卒業してから実に四半世紀を経た頃、Nくんとの偶然の再会だった。
この不思議な感覚は、もちろん自分が生きていてこそだけれど、ここでの主語は、Nくんだ。『Nくんが、生きていてよかった』そう私が痛烈に感じたのだった。
* * *
私は少し後ろ髪引かれるような気持ちになりながらも、『またきっと後で会えるから』という根拠のない自信をどこか自分自身への願掛けのようにそっと抱きながら、乗換駅でNくんと乗り合わせた電車の車両から、あえてNくんの姿を改めて確認することなく目的の駅で降車した。
こんな風にして、私は小中高生の頃、バスや電車で乗り合わせて目が一瞬あった見知らぬ誰かとその後ばったり出会えたことなんてあっただろうか。私は過去を振り返る。いやどう思い返してみても一度もなかったような気がするのに、こんなにも会える確信を得たかのようなある種の高揚感があるのはこの後に同窓会が控えているからだけなのだろうか。その時の私は知る由もなかった。
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目的地は地元の百貨店と言えば馴染みの深い“まるひろ”だ。その まるひろ百貨店 ではここ近年、5月のゴールデンウィーク明け頃から屋上ビアガーデンが開催されている。元々屋上には “わんぱくランド” という屋上遊園地があるのだが、今夏でその わんぱくランドが閉園してしまうというニュースを皆聞き付けて『同窓会をやるのであれば是非ともここで!』という意見が多かったようで、まるひろ屋上遊園地に併設されたビアガーデンで同窓会が開かれることになったらしい。
そこは、まるひろに家族で買い物に来たことのある子どもであれば一度は遊んだことがあると言っても過言ではない、小さな観覧車やモノレールもある形容するのであれば昭和レトロな屋上遊園地である。屋上へは一階からエレベーターでダイレクトに上がるのがスムーズだ。
エレベーター前に到着すると、既に同級生の元バドミントン部の女子がエレベーター付近に立っていた。声を掛けると仲良しの女子とそこで待ち合わせしているらしかった。もう女子とか言うような歳はとうの昔に卒業したのだけれど、ここは同窓会へ向かう前にばったり会った同級生を目の前にしているのだ。女子と呼ばせてもらっても構わないだろう。
私はエレベーターの上昇ボタンを押し、そのままその元バド部の女子と暫し話ながらエントランスからエレベーターへと続いている通路をそれとなく気にしながらエレベーターを待っていた。
そして遂にその瞬間は不意打ちのようでありながらも、既にずっと前からそうなることが決められていたかのように突然に訪れた。私との距離約5、6メートル。行き交う人の間からすり抜けるように長身のNくんが姿を現し、私を瞬時にその瞳で捉えた瞬間に
「さっき同じ電車乗ってたよね!」
そう満面の笑みを浮かべながら言い放ち、Nくんが私の目の前に再びやって来たのだった。
『この感情が溢れんばかりの嬉々とした笑顔が見たくて、私はさっき電車内でばったり乗り合わせて目があった時、声を掛けなかったんだ…』そう確信した。
それが一生涯忘れることのない、Nくんと今世はじめて交わした会話のワンシーンとなったのだった。
「うん!乗ってた!(私が同級生だって)わかってないのかと思って声掛けなかったんだよ」
そう会話を始めたとき、ちょうど上階行きのエレベーターが到着した。私はバド部の子に先に会場に行っていることを告げ、Nくんと共に屋上へ向かうエレベーターに2人で乗り込んだ。
「いや、どこかで見たことある顔だなって思ったんだよ。でも仕事柄毎日色んな人に会うから、どこで会ったかわかんないことあるからさぁ」
『見たことある顔だと思ってたんだ。あんな一瞬目があっただけだったのに…』と、Nくんの言葉に内心ドキッとしつつも、いざ話し出したら会話が止めどなく溢れてくる。
何だろうこの安堵感は。流れ着くべきところへようやく辿り着いたような、ずっとここまで話ながら一緒に来たような、もっと2人で話していたいような不思議な感覚に包まれながら、Nくんとエレベーターでの会話は続いていった。
つづく