ペアリングのつくりかた⑨
⑨核を取り巻く流れの決め方
今回は前回お話した「ペアリングにおける核」を取り巻く流れの決め方、考え方のお話です。シンプルにコースとペアリングの流れの決め方、と表現してもいいのかもしれません。これまでにも何度かお伝えしてきた通り、レストランにおける「流れ」はその食事の時間のすべてを決定づける極めて重要なポイントです。「流れ」がスムーズでなければ違和感を覚えるし、淀みが生じてしまいます。如何に美しい「流れ」を演出できるか、ここがペアリングの肝と言えます。
※いよいよ最終盤となりました。次回が最終回と思うと感慨深いです。毎回たくさんのスキやシェア、投げ銭に励まされています。ちょっと(だいぶ、ですねすみません)ペースが落ちてきたのは単純に書き物の〆切順に書いていくとこれだけ期間が空いてしまっただけで決して途中で飽きてしまったわけではありません。あしからず。最後までどうぞお付き合いください。この全10章は今後有料化することにしましたので(恐らくお正月明け)、無料のうちにお知り合いには読んでいただけるようお勧めください。※
①レストランの変遷・飲と食の近代史
②ペアリングはソムリエの「成功体験」のシェア
③マリアージュとペアリングの相違
④食材×調理×味つけ 狙いどころの考察
➄意識するべき総アルコール量
⑥提供温度のコントロール
⑦ペアリングで演出する季節感
⑧核となるコンビネーションの決め方
⑨核を取り巻く流れの決め方 ⇦イマココ
⑩これからのレストラン、これからのソムリエ
「流れ」を意識する
そもそもレストランでの食事における「流れ」とは何ぞや?という話である。究極的には「気の流れ」みたいなスピリチュアルな要素も多分に含まれるのだがその話を掘り下げるととんでもなく長くなるので別の機会に置いておくとして、ここでは純粋な(物理的な)流れについて解説したい。
現在のレストランでのゲストの滞在時間は店のスタイルやゲストのペースにもよるだろうが平均すると2~3時間といったところだろうか。その限られた時間の中でコースとペアリングによって「流れ」を演出していくわけである。前章で解説した「核」となるペアリングを中心に肉付けしていくイメージで「流れ」を作っていく作業となる。
かつてのレストランにおける「流れ」は割と明確で、料理もワインも軽いもの ⇒ 重いものという決まり事が存在した故、料理人もソムリエもルーティンのように毎日の「流れ」を提供することができていた。僕自身、特に深く考えることもなく当たり前のように連綿と続く悠久の「流れ」に身を任せてきたわけだが序盤の章でも述べた通り、現代のレストランでのサービスはそんなにのんびりと構えていてはすぐに激流に飲まれて溺れてしまう。
前述した通り以前と現代で決定的に異なるのはコースの料理の品数だろう。料理ひとつひとつを点として、それらを結ぶと一本の線となるのだが現代は圧倒的に点(料理)の数が多くなっている。以前ならば粗いドット絵のように角ばっていた線が、点の数が増えた故に「流れ」をうまく描け、以前より滑らかな曲線となり、スムーズな流れを演出することができるようになった。
「流れ」の中の「核」
前章ではその「流れ」の中心となるべきペアリングのことを「核」と呼称した。僕自身はそのコースを印象付けるためのアイコン的な組み合わせのことをそう呼んでいるのだが、最初にこの「核」を決定してから「流れ」を意識するとうまくいきやすいという話は前述の通りである。
「核」を中心に据えて派生させるように前後のペアリングを考案していくとその頂点となる「核」からの坂道がなだらかになりやすく、体感するゲストもそこまで緊張感が求められないためリラックスした食事となりやすい。
逆に「核」から遠いところからペアリングを考えていくと、時に頂点(核)から急降下するようなペアリング構成となり、ゲストをジェットコースターに乗せるようなリスクを伴うことになる。ペアリング考案の初心者には前者のモデルで構成することをおススメしたい。ジェットコースター・ペアリングは提供する側にもそれを楽しむゲストにもある一定のレベルが求められることになるので「万人受け」とはいかないからだ。
「核」は少なくともひとつ、多くてもふたつ
「核」を中心に構成するペアリングにおいて、当然のことながら「核」が存在しない(=ゼロである)ということはあり得ない。アイコニックな組み合わせは少なくともひとつは必要だし(これがないと全体にボヤけ、悪く言うとまったく印象に残らない食事になってしまう)、多すぎても意識が分散されすぎてかえって印象に残らなかったりもする。
食後、ゲストに「特にあの組み合わせが凄かったなぁ」感じてもらうためには狙いすましたひとつ、多くてもふたつまで「核」を絞る必要がある。その他のペアリングは主役のペアリング(核)を引き立たせるための脇役だと考えてもいいのかもしれない。もちろん主役が実力以上に輝くためには名脇役の存在は必要不可欠である。
すべてのペアリングとその流れに意味を持たせることでコースの料理と相乗し、まるで生き物のようにダイニングが胎動を始めるのを感じることができるはずだ。自身が生んだペアリングが動き出し、ゲストと共鳴するのを目撃してしまったら病みつきになること請け合いである。
改めてペアリングのつくりかたとは
これまでに述べてきたように、現代におけるペアリングはそのレストランの業態によらず採用されるべき手法である。ゲストの限られた食事時間、もっと言うと限られた食事回数の中でレストランでの食事そのものを「楽しい」と感じてもらえるような仕組みが必要だからだ。
仕組みとしてのペアリングは実に優れている。ゲストがお見えになる前から提供するコースと飲料が決まっているというのはレストラン側・ゲスト側双方にとってストレスや無駄がなく食事をスタートできる方法だと言える。あとはその仕組みをどう作り、どうスタッフに共有させるかというのが現代のソムリエにとって最も大きく重要な作業と言える。
今回の全10回「ペアリングのつくりかた」は実際にペアリングをつくったことのない若いソムリエやそもそもソムリエのいないレストランの方々に向けて書き出したものなのでできるだけ難しい話にならないように、というところに注力したつもりである。ペアリングをつくるうえで重要なのは何度も言ってきた通り「経験値」である。それもただ経験しただけのものでなくそれを自分自身に落とし込むことができた「生きた経験値」である。
本来ソムリエは世界中の様々な食材や料理についてシェフと同レベルに知っている(経験している)必要があると僕は考える。そのうえで世界中の様々なタイプのワインをはじめとする飲料を学び(経験し)、料理と飲料、そのふたつを組み合わせた結果を自身が経験することで自分だけの「ペアリングのつくりかた」を構築していくわけである。途方もなく長い道のりに聞こえるかもしれないがだからこそ生涯を賭けて挑戦する価値のある仕事だと言えると思う。
模範となる先輩のいない若手のソムリエやサービスマン、またソムリエのいないお店のオーナーやシェフは是非僕にお声掛けを。こちらにコメントいただいても結構。できるだけコスト的にも負担にならないようにその方にあった「ペアリングのつくりかた」指導をさせていただこうと思う。最終的に仕組み作りそのものを僕に丸投げしてくれてもいい。その場合はコンサルタントとして全力でサポートさせていただく所存である。
ではまた次回、本編最終回で。
※なんと今回は前章から約三ヵ月も間が空いてしまいました。このnoteを書き出して以来、ワイン関連の書き物の依頼が増え(本当にありがたく思っております)、〆切順に逆算していくとどうしてもこのnoteが後回しになってしまいました。決して飽きてきたわけではございません。なんなら10章完結予定だったところを番外編として少なくとも1章書き出してしまう有様です。こちらも楽しみにお待ちください。今回も気に入っていただけた方はいいね!やスキ、フォローにシェアに投げ銭をよろしくお願いします。※