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ペアリングのつくりかた①
①レストランの変遷・飲と食の近代史
嗚呼、とうとう禁断の領域に足を踏み入れてしまった・・・あくまで主観だということを冒頭で叫んでおこう。いつまでもコロナコロナ言ってても仕方ない。特にこれからの若いソムリエの皆さんに少しでも役に立つことを祈って。それではよろしくど~ぞ。
※今回は有料記事にするか結構悩みました。1章100円として10章トータルで1000円くらいはもらっても罰は当たらないエンタメ性になると思ってます。参考になるかは知らんけど(笑)。でもやっぱり無料で行くことに決めました。そのかわりっちゃなんですがモチベーションアップのために面白かったら一番下のサポート機能で投げ銭いただければ嬉しいです。なんなら記事にスキしてくれるだけでもモチベーションは保たれます(笑)※
①レストランの変遷・飲と食の近代史 ⇦イマココ
②ペアリングはソムリエの「成功体験」のシェア
③マリアージュとペアリングの相違
④食材×調理×味つけ 狙いどころの考察
➄意識するべき総アルコール量
⑥提供温度のコントロール
⑦ペアリングで演出する季節感
⑧核となるコンビネーションの決め方
⑨核を取り巻く流れの決め方
⑩これからのレストラン、これからのソムリエ
レストランにおけるスタイルの変遷~旧き良き時代~
昨今、世界中のダイニングでペアリングが取り入れられている。なぜ今、ペアリングというスタイルがこんなにも受け入れられているのか。そこから考えなければペアリングの構成はうまくいかない。この①ではレストランでこれほどまでにペアリングが普及されるに至った過程、レストランのスタイルそのものの変遷について解説したい。
フレンチとイタリアンのレストラン。20年ほど前、僕がこの業界に入った当初、日本でワインを飲む場所と言えばほぼこのふたつのジャンルのレストランに限られていた。ワインバーやその他の国の料理店も存在はしていたが現在と比べその数は圧倒的に少なかった。ワインを飲める場所の唯一の例外はホテル内レストラン、ほとんどの場合メインダイニングに併設された鉄板焼きダイニングだろう(ソムリエを共有しやすかったため)。
必然的に扱われるワインもこの二か国のモノが多くなり、従事するソムリエたちの知識もこの二か国に集中することになる。フレンチではフランスワイン、イタリアンではイタリアワイン。その他の国のモノは長い間、完全なるマイノリティであった。実際に当時自分が勤めていたホテルのメインダイニングのワインリストは実に95%以上(正確にはもっとかも)がフランスワインだった(シェフがフランス人かつフランス至上主義だったのもあるが)。
当時のレストランは現代と比べると品数が少なく一皿ごとの量が多かった。味付けも作りこまれたソースを中心に複雑な味わいのモノが多い。軽いもの、フレッシュな状態で提供される前菜から重くしっかり火入れしたメインディッシュへ。食事の流れも味わいの移ろいもハッキリしてとてもわかりやすい。言うなれば起承転結が存在しているからだ。
一皿ごとの量が多く味わいは複雑、軽→重という食事の流れ、となると合わせる飲みものも複雑玄妙な味わいのボトルのオーダーが中心となり、泡→白→赤と食事同様に軽いものから重いものへと移行するのが主流となる。
レストランにおけるスタイルの変遷~世界的新時代の到来~
現代ではレストランにおけるジャンルや料理のボーダーという概念は随分と薄まり、究極性よりも多様性が求められるようになった。例えばかつてのような伝統的とかクラシックと呼ばれるようなフランス料理店は僕の見る限りかなり減ったし、アジアや南米諸国の料理を現代的に昇華したダイニングが世界的にも急増してきた。サンペレグリノのベスト50ランキングを見てもそれは明らかである。是非は別として。
そして何よりも顕著なのは皿数の多さと味わいの変化である。皿数についてはアラカルトで前菜・メイン・デザートと自身の好みで選ぶ形から始まり、選択肢を残しつつ皿数を増やすプリフィックスの登場を経て現在のムニュ・デギュスタシオン(ザックリ言うとおまかせコース)へとレストランのスタイルは移り変わってきた。
ゲストがレストランで自分の食べたいものを選ぶ時代からレストランがゲストに食べてほしいものを少しずつ提供していく時代へ。入店後にメニューから料理を選ぶ手間と時間が省かれ、スムーズに食事をスタートさせることができるこの手法はいまや世界中のファインダイニングで採用されている。個人的にはアペリティフを飲みながらメニューを眺めるあの時間が失われてしまったことを悲しく思う瞬間も多々あるのだけれども。
変わったのはスタイルだけではなかった
もうひとつの変化は料理の味わいそのものである。前述したかつてのような重厚なソースのテイストはその出番を失い、皿数の多さや構成の流れのために全体に軽くシンプルに仕上げられることが多くなった。信じられない程に発達した現代の物流によって世界中の素晴らしい素材がフレッシュな状態でキッチンに届けられるようになり、その恩恵を受けて限りなく「そのまま」に近い状態でも美味しく頂ける素材が増えた。目まぐるしく移り変わる旬の食材を可能な限り多く使用したい料理人にとってこの状況は望ましく、月替わりのおまかせコースにしても十分に耐え得るだけの種類の素材で市場はまさに溢れている。
こういった「素材の味」を最大限に活かした料理群で構成されたコースに対し、かつての複雑な味わいの料理の時と同様のワインを当て込むとどうしてもワインの味わいの比重が勝ちすぎる。また主張と個性の強いクラシックなワインよりも現代的な香りや味わいの特化型ワインの方がうまくいくことが多い。このあたりはまた次章以降で触れたい。
このように物事にはそれなりの過程や歴史、そこに至るまでの必然性というものが存在するわけだが、ことレストラン、特に現代においてファインダイニングと呼ばれる業態における変化は渦中にいる人間から見ても激流に飲み込まれるような、「速い」というよりも「激しい」変化だった。
歴史を踏まえず現代を語ることの危険性
自分がペアリングについて何かを発言したり書いたりする際に、絶対的に気をつけていたことはこういった歴史を踏まえずに語ることの危険性についてであった。ペアリングという考え方やアプローチはいつの間にか生まれたものではなく、ファインダイニングがその姿を大きく変えたタイミングで必要に迫られて産み落とされた、ある意味副産物のようなものだと個人的には思っている。
必要に迫られたからこそ、そこには納得させられるだけの論理や説得力というものが必要となってくる。次章以降ではそれらのロジックについて詳細に記していきたい。
冒頭で叫んだとおり僕が今後述べていくロジックは僕個人の主観であり、それに対する反対意見もあるだろう。しかしながら僕はこうも思う。主観のぶつけ合いと相互の理解が極端にヘタクソな日本人にとって、異なる意見に触れることもまた人生において重要な機会になるのではないか。なかなか本記事のタイトルを書いてから筆が進まなかったのだがコロナによる自粛期間にいろいろと考えた結果、そう思えるようになった。
特に若いこれからの人材にとって参考になればと切に願う。
ではまた次回。
※ある程度書き溜めてからアップするという賢いやり方ができなかったため、次回の更新日は未定です。これまでの経験から相当期間が空くことも想像できますしゴリゴリに筆がノってハイペースで更新される可能性もゼロではありません。また、気晴らし程度の記事やまだアップできてないインポーターさんとの協力記事も挟んでいく予定です。何が言いたいかというとあんまり過度に期待せずにハンター×ハンターの連載再開を待つくらいのノリでいてくれたら助かる、ということです。そこんとこよろしく。
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