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MIT MBA留学で学んだこと(7)~マーケティングの授業2 もう一つのケーススタディ~


今回はマーケティングの授業で扱ったケーススタディをもう1つご紹介したいと思います。マーケティングの授業では、以前のnoteで紹介した下記3つのフレームワークを使って、様々なビジネスケースを分析的に見ていく形で授業が進んでいきました。

①      Create Value?:顧客に対して価値を生み出せているのか?
②      Deliver Value?:価値を伝えられているか、届けられているか?
③      Capture Value?:価値を向上し続け、かつ参入障壁を作れているか?

Aqualisaのケースでは、①は〇、②と③は×という診断結果でした。この授業では他にも様々なケースを扱いました。①は×、②と③は〇など3要素のいずれかが欠けたケースを知る事で、上記のフレームワークを使ってビジネスを見る練習をしていきました。そして学期の最後に扱ったのが、今回ご紹介するケース『Indian Premier League: Bollywood and Entrepreneurship Transform a Sport』というケーススタディです。これはスタンフォードビジネススクールが発行しているケーススタディです。
※下記リンクから購入可能

ケースの概要

インディアン・プレミア・リーグ(クリケット)
~ボリウッドスターと起業家が起こしたプロスポーツリーグの変革~

◎背景
・国はインド、テーマはスポーツのクリケット
・クリケットは国際リーグのICC(International Cricket Council)とインド国内リーグの運営を管轄するBCCI (Board of Control for Cricket in India)の2つの団体がある
・今回BCCIがインド国内で新たなプロリーグIPL(Indian Premier League)を新設
・IPLでは試合形式をアレンジし、短期間でリーグを終えられる事にした事や、エンタメ性を高めてファンやスポンサーを多く集める事に成功し、クリケットがメジャースポーツとなっている各国からスタープレイヤーを集める事が出来た
・リーグの運営本部はBCCIが行い、各チームは大きなスタジアムがある都市ごとにホームを割り当て、選手をある程度揃えた後にオークションにかけて、オーナーを募集した
・結果的に、Bollywoodのセレブや成功した起業家などがオーナー権を買い、オーナーとして運営していく事になった

◎リーグ・試合の構成
・従来のクリケットは試合時間が長く5日間も続く。シーズンもほぼ通年であり(オフシーズンがほとんどない)、それぞれの国の中だけでリーグが行われる
・IPLはTwenty 20という方式を採用し、1試合は3時間で完結する。スピーディで選手たちは、ずっと全力でプレーしても体力が持つため白熱した試合になる
・IPLは6週間という短期間でシーズン全体が行われ、全59試合がわずか44日間で完結する。そのためファンやスポンサーの関心を短期集中で継続的に集める事が可能になった
・その6週間の期間も、BCCIは各国のプロリーグの日程を調査し、各国のオフシーズンが重なる4~5月を選択して設定した
・試合前後にはエンターテイメントショーが開催され、観客に新たなクリケット体験を提供

IPL Official Website

◎選手獲得
・BCCIはリーグ構想が固まった直後にICL(国際リーグ)でトップ80人のプレイヤーと契約を締結し、世界中の人気プレイヤーを獲得
・各プレイヤーが自国リーグよりも高い給与を獲得出来るように報酬体系を設計
・チーム間で力の差が出過ぎないように給与に上限を定め、選手との契約はIPL主催の選手オークションを通じてのみ認めるなどのルール導入、またトッププレイヤーは「アイコン選手」と定義し、各チームに1人ずつ割り当てるなど力の差が出ないように運営本部が様々な工夫を行った

◎チーム運営
・IPLはフランチャイズモデルを導入し、各チームが独立して運営されることで、地域ごとのファン層を獲得
・Bollywoodの映画スターがチームのFC権を購入し、彼ら自身もリーグのプロモーションに協力する事で話題を創出
・チケット収入、放映権、スポンサー料など様々な収入をIPLと各チームでwin-winになるようにシェア
・フランチャイズオーナーは、マーケティング戦略やチームの運営を担当し、地域に根ざしたブランドを構築

◎結果
・初年度から20億ドルの収益をあげてビジネス面で大成功
・インド国内だけでなく、世界中のクリケットファンを魅了した

ケースが33ページもあるため、要約しても長くなってしまいましたが、概要は理解いただけたでしょうか。

フレームワークによる分析

フレームワークでこのビジネスを見ていきましょう。市場構造はケースの中の情報だけをシンプルに表現すると、下記のようになります。今回はリーグ本部(IPL)の視点から見た場合を考えてみたいと思います。

クリケットリーグの市場構造

今回のビジネスをフレームワークの3つの視点で分析していきます。

①   Create Value ? (価値を生み出しているか?)
試合フォーマット:従来の長い試合時間を短くして楽しみやすい形式に変更した
スター選手の確保:各国のスター選手と契約を締結し、多くのスター選手の獲得に成功
エンターテイメント性:試合前後のパフォーマンス取り入れなどによるエンタメ性の向上
実力差調整:チームによる実力差が出過ぎないようにルールを整備

→IPLは顧客への付加価値を十分に創造出来たと言えると思います

②   Deliver Value ? (価値を届けられているか?)
スポンサーシップ:スポンサーはIPLが集めて来ており、それをIPLと各FCチームに配分する形だったため、窓口はIPL
放映権:放映権もIPLが直接、各国メディアに販売していたためIPLが握っている
チケット収入:スタジアムの運営など莫大なオペレーションコストや各地方に合わせたローカライゼーションが困難なため、チケット収入は各FCチームに任せており、IPLは直接顧客を握れていない。しかし各FCはリーグ本部から各種レベニューシェアを受けていることと、選手オークションもリーグ本部が握っているため、IPLは有利な影響力を持って各FCと協同が可能

→IPLはステークスホルダーに価値を届けていると言えそうです

③   Capture Value ? (価値を保持し続けられるか?)
First Mover Advantage:最初にこのようなリーグを新設したおかげでスポンサー、選手、ファン、メディアなどあらゆる注目を強く惹きつけ、二番煎じの競合が出てきたとしても、IPLよりも注目度は下がってしまう
Track record: すでに大成功を収めているので、売上やメディアの視聴率データなど、より多くのスポンサーやFCオーナーを集め、説得するための材料が揃っている。新規参入プレイヤーはそれがないので、説得力に欠ける
スター選手の確保:IPLはすでに各国のスター選手との契約を締結しており、かつ彼らのオフシーズンもこれ以上増えないため、別のリーグが新設されてもそちらでプレーするのは困難

→IPLは価値を保持し続けられると言えそうです。

このように最後に3つの視点を全て満たしたケースを見せてくれました。

その他の論点

その他の論点として授業で盛り上がったのは、
「では、IPLはバリューチェーン上でチーム運営に関してFCを募集する形ではなく、自分たちでチームも運営していたとしたら、バリューチェーンをより広範囲に自社で押さえる事が出来て、さらに儲かったのではないか」
という論点でした。

しかし、下記のようなデメリットが挙げられました。
◎Centralization or Delegation ?の論点 (Centralization=自社で運営した場合のデメリット)
財務的負担:自分たちでチーム運営も行う場合、より多くの資金が必要となっていたため、より大規模な資金調達を考え、実行する必要があった
実行スピード:本部運営だけにフォーカス出来ないため、リーグ立ち上げにより多くの時間がかかる
ローカライゼーションの限界:本部がインドの各都市のローカルニーズを把握し、それぞれカスタマイズをする事は難しい
プロモーション効果の低下:FCオーナーに映画スターや著名起業家を巻き込んだ事による広告効果、パブリシティ効果が得られたが、それらが無くなってしまう

なお、バリューチェーン上のVerticalな協同というのは、前回のnoteで紹介した下記の点も関わってきます。

(17): Collaboration or Compete ? w/vertical players
Question 1: Who owns customers ?
Question 2: Which differentiation customers would care the most ?
Question 3: How much do you want for your partners’ help to create value ?

今回のケースで顧客は強力なコンテンツを持つIPLが握っており、顧客が最も気にする差別化ポイントはスター選手が揃っている、という点かと思いますが、3点目で価値をより大きく、かつ早く、投資対効果も良く創出するためにはFCというパートナーの協力が不可欠、という話でした。

以上、4回にわたってマーケティングの授業や議論の内容をご紹介させていただきました。

留学の記事は留学時の生活などに焦点を当てたものが多く、あまりコンテンツを具体的に紹介する記事は少ないと感じていたので、このような形で具体的な内容に踏み込んで今後も紹介していきたいと思います。

フランクゲーリーがデザインしたMITでも一際目を惹く建築。様々な素材と様々な構成要素が複雑に絡み合っています。電気工学やコンピューターサイエンスなどの研究室・教室として使われているようです

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