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キャッシュレス社会に関する一考察

この間、職場の新入社員の女の子におごったとき、「paypayで自分の分出します!」と言われ、「お、おう」としどろもどろになってしまいました。若者の借りを作らない価値観とかに思いを馳せるそれ以前に、さっさと○○payを導入しないといけないな、と思いました。(導入するとは言っていない。)

禍前の勉強会シリーズで盛り上がった回を紹介しています。もうこの数ヶ月後にはこういう会が開催できなくなることを知る身としては、改めて哀惜の念を覚えますが、もうすぐ全世界のみなさんが5GおよびWi-Fiに接続すれば、障壁無く繋がり合える日々がまた来ると信じましょう。

2019年12月30日(月)13:15~14:15

現金

井端 キャッシュレス社会に関する一考察ということで、福留さんにやれといわれたのでやりますが、この分野は本職では無くて、みなさまの前で発表するほどの知見があるかといわれるときわどいのですが(笑)お話しさせていただきます。

そもそもキャッシュレス決済の定義は、「物理的な現金(紙幣・貨幣)を使用しなくても活動できる状態」ということで、クレジットカード、電子マネー、デビットカードなどいろいろありますが、様々な還元キャンペーンを行うことで、政府としていまこれを推奨しています。

なんでこんなことをやっているかというと、まず、現金は悪用されることが多いですよねということで、最近でも(桜を見る会の)領収書が云々とか揉めていますけど、詐欺、贈収賄、脱税、国際的な資金移動など不透明な決済をやりやすいので、減らしていこうと言うこと。

また店舗でも現金の輸送コストや管理コストがかかっている。大手行の一部では、現金管理に伴う社会的コストが年間8兆円くらいと。輸送にかかる警備とか、ATMの管理コストを全部含めるとそれくらい。それを削減できるんじゃありませんかと。

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キャッシュレス決済比率というのがあって、分母に個人がどれくらいお金を使ったか、分子にキャッシュレスでどれくらい支払われたかという比率ですが、諸外国と比べてもこの比率が日本は低いですよね。18.4%。韓国はカカオPayというメッセージアプリと連携した決済システムが発達していて89%と非常に率が高く、中国でも60%と。

ただちょっと日本の数字はディスカウントされている部分があって、日本では公共料金を銀行口座に直接振り込むということが多いですが、その決済方法が含まれていない。このデータの分子はクレジットカードや○○Payの数字なので、銀行から直接引き落としたとか、大きい買い物を相手先に直接振り込むような決済が捕捉されていなくて、日本は文化的にそうした決済がそこそこの割合を占めているはずなので、そこはちょっと割り引く必要があるんですけれども、それを加味したとしても、割合がちょっと低いですよねという問題意識があります。

それで政府としては2025年までに現状18.4%なのを約2倍の40%にするという目標を立てているところです。40%であればアメリカや大陸欧州の国くらいで、かつさっきの銀行口座の決済を含めれば実質的にはもう少し高い比率になるというところです。

なぜ日本で現金主義が根強いのかということですが、まずそこら中にATMがある。かつ銀行インフラががっちりしているので、現金を引き出すコストが、いまはATM手数料がかかることもありますが、非常に低いと。

次に一万円札って結構高額じゃないですか。例えば中国はキャッシュレスが進んでいますが、中国でいま一番の高額紙幣って2~3,000円くらいの価値の紙幣です。こういう高額紙幣の存在は大きくて、過激派の人はもうそもそも一万円札と五千円札を廃止したら相当キャッシュレスは進むだろうと言っている。ただ一万円札は、お札のデザインが変わりますよね。渋沢栄一に。あのニュースが出たときに識者の間では「デザインを変えるということは、一万円札の廃止はしないんだね」と、そういう捉え方もされている。なので当面の間は廃止と言うことにはならないでしょうから、高額紙幣が存在する限りは現金を使い続けるハードルは低いままであると。

あと日本の紙幣は清潔ですよね。ピエール瀧が捕まったときに、韓国の紙幣(長さと柔らかさがコカイン吸引にちょうどいい)みたいな話もありましたが、海外の紙幣はペラペラで衛生的にもよくなくて、中国だと紙幣に触った銀行員はそのあとで必ず消毒をする、そうしないと病気になるという話があるくらいです。日本の紙幣は処分のサイクルが早いので清潔だし、すぐにどこでも下ろせるしということで、それが便利だということです。2つめ、3つめでキャッシュレス業者側の問題とその他国民性というのは、あとで詳しくご説明します。

キャッシュレス手段の棲み分けのイメージですけれど、だいたいみなさん、決済金額が高い場合はクレジットカードを使って、一方で少額決済でもコンビニやチェーン店であれば、○○Payや交通系マネーにだいたい対応しているので使えますよねと。問題はどこかというと、現金決済になるのは、決済金額が安くて、かつチェーン店ではないような個人商店では、あまり○○Payなどは使わないですよねと。いま政府がやっているキャッシュレス還元というのは、ここの還元策によって、この領域の商店が○○Payなどを導入するインセンティブを与えようとしているのだと、という認識であっていますでしょうか。

福留 と、このように進めさせていただいてよろしいでしょうか?

荒木 そういうことではないかとわたしは理解しております。○○Payというのは加盟店手数料が安いので、小規模な店舗でもキャッシュレスを普及させやすいというメリットがあるんですよね。そういう普及をさせたいと言う話を後で説明していただけるのでは無いでしょうか。ネタバレをしすぎたのでこのあたりで。

井端 そうですね。(笑)

クレジットカード

井端 それで、まず○○Payではなく先にクレジットカードの方から見ていきたいと思います。

導入しない理由ということで、さきほどちょっと説明いただいたとおりですが、個人商店が○○Payやクレジットカードを導入するのに一番ハードルになるのは手数料です。

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クレジットカードについては、手数料が高い、導入費用が高いというのが上位に来ます。だから手数料が高いというのがネックになっている。だからいまのキャッシュレス還元策の対象になる業者は、決済手数料が確か3.25%とか上限がある。やたらと高い手数料を取っている場合は還元の対象にならないんですね。ではクレジットカードをすごく流行らせたいのだったら手数料を下げたらいいんじゃないかと思うんですが、ただ実はそうもいかないんだと。

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それは何かというと、クレジットカードは結構色々なコストがかかっているんですよ。例えばわたしは楽天カードで、JCBブランドのカードを持っているんですが、その場合はまず楽天カードがJCBにブランド手数料を払っている。さらに言うとデータのやりとりをするNTTデータとか、こういう図に挙げているような、すごくたくさんの関わっている人が居る。

ここ(アクワイアラ)が楽天カードですよね。これが全銀システムを通して手数料を払って、国際ブランドだと例えばJCBにブランド手数料を払っていると。さらにCAFIS(キャフィス)というNTTデータのサービスですが、ネットワークを使うことによる手数料が生じると。実はカードにはいろんな人が関わっていて、そのたびに手数料が高くなりがちなんですよ。

海外ではみんなカードを使っているじゃないかと思うかも知れないですが、海外と日本ではカードに対する意識が違っていて、海外だとリボ払いやカードローンを組むことが多い。10万円くらいのショッピングをしたとして、信用力がある、一定の所得がある人であれば、今月はこのくらい払って、あとは来月以降に後付けさせてくれみたいな商慣習になっている。なのでカード会社はそこから金利をとるので、そこである程度儲けることが出来る。

日本だと、リボ払いやカードローンが問題になっていることも含めて、すごく大きな買い物で無い限り、翌月一括払いにしてしまうじゃないですか。だから日本の商慣習的に、クレジットカードにおける加盟店手数料以外の収益というのが、海外対比だと代替的な儲け方が無いと。だからある程度加盟店手数料が高くなるのは仕方ないということ。いろんな業者が介在することで生じている手数料を、グループの中で効率化させてコストを下げようとする動きは、三井住友グループとかでは確かにあるんですけれども、そうやってコストを下げないと、加盟店手数料が下げにくいところがあって、一見クレジットカード会社がとり過ぎているように見えるんですけど、実はそうでもないんだと。

荒木 このイシュアとアクワイアラって意味不明ですよね。

井端 まあそうですよね。アクワイアラが加盟店に「ウチのカードに登録してくれませんか」といってまわるひとで、イシュアというのがカードを発行しているひとだということですけれども。アクワイアラとイシュアが一致している、一緒であることもあります。

荒木 一応簡単に説明すると、まずVISAとかMASTERCARDは、本来は銀行の連合なんです。それぞれの銀行ごとに顧客を集めているとネットワークが広がらないので、連合を組もうと言うことで、「加盟店を取ってきてあなたのところの加盟店を開放してください、その代わりわたしの取ってきた顧客もあなたに紹介しますから」という協定を結びあったんですよね。それがVISAとMASTERCARDの由来。

なのでA銀行の顧客が、B銀行の取ってきた加盟店でカードを切ることが出来るようになると、そうすると元々の銀行が顧客を囲い込んで分化していったんですよ。それがイシュアとアクワイアラ。でもそうしてしまうと、有力な加盟店をもつ銀行(アクワイアラ)は手数料をたくさんもらえるのに、そうでない銀行(イシュア)は顧客が流出するだけでメリットが無い。そこでトップであるVISAやMASTERCARDが手数料をやりとりしましょうとか、そのためのサービス分の手数料をくださいとか、そういうことをやった結果、ブランドライセンスフィーとか、インターチェンジフィーといって、アクワイアラが得た手数料を一部イシュアにも分けてあげてくださいとか、そういうややこしい手数料がたくさん生じる複雑な仕組みが完成してしまったんですよ。その結果として高コスト体質になってしまったと。

あともう一つ補足すると、日本ではマンスリークリアといって翌月払いが一番一般的ですけれど、じゃあなんで海外のクレジットカードってリボ払いばっかりなのかというと、マンスリークリアに馴染むような決済については全部デビットカードを使っているんですよ。なので、日本でもそうですがデビットカードは実は加盟店手数料が安いんですよ。なぜか日本人はクレジットカードをマンスリークリアに使えるからと言って使ってしまっているけれども、海外ではマンスリークリアに向いている決済はデビットカードで決済して、リボ払いをしたいからクレジットカードを使う、という使い方をしている。適切な使い方をしているので、結果的に加盟店手数料が低く収まっているということです。

井端 日本ってクレジットカードをデビットカード的な使い方をしてしまっているという謎の商慣習があるということです。だから逆にデビットカードがあまり普及しないということになっている。先ほど紹介いただいたとおりでマルチアクワイアリングという独特の商慣習もあって、そういうところのコストを下げないと、普及にはハードルがあるということ。

荒木 加盟店の店頭で、VISAとかMASTERCARD以外にも、UCとかUFJとか色々マークがついていることがありますよね。あれをマルチアクワイアリングと言って、本来は機能分化して、加盟店からすれば加盟店契約をする会社(アクワイアラ)は1社であればいいんですよ。VISAのために加盟店契約をする会社が1社あれば、その会社がサービスしてくれるからいいじゃないですか。

日本では昔、三菱系・三井系・住友系のVISAで頑張っていましたと言う人と、UCニコスのMASTERCARDで頑張っていましたと言う人と、また別にMASTERCARDで頑張っていましたと言う人が居て、お互いにほぼシェアが拮抗していたので、VISAもMASTERCARDも、おまえのところでシェアを統一しろよと強制できなかったんです。だからもういいよと。日本は例外で複数の加盟店契約を結んで良いよということになった。海外ではそれは駄目ということになっている。その結果日本では複雑な通信システムを組む必要が出てしまった。

さっきの図でもCAFISってありましたが、CAFISの通信サービスのコストが高いというのも実はそこで、VISAやMASTERCARDのブランドにアクワイアラが単一で紐付いていれば、通信先は一つで済むわけです。しかし現状では、この通信はAアクワイアラ、この通信はBアクワイアラに飛ばすと、加盟店からアクワイアラの通信も選別しなければならなくなる。NTTデータはこの仕分け機能を持っているわけです。VISAやMASTERCARDにはそれはできない。だからここにも仲介料が発生して、さらに高コスト体質に拍車をかけている。

そう聞くとこのCAFISってあたかもすごい悪者のように聞こえるんですが、実はめちゃくちゃ安いんですよ。ひとつひとつの通信は0.01円とか。だからシェアをほぼ独占しているとかそのくらいでないと儲からなくて、新規参入の障壁がすごくある。高コストなのに、シェアが大きくないと儲からないから参入できないと。袋小路になっていてどうしようも無いです。日本のクレジットカードは。(笑)

井端 ありがとうございます。なのでクレジットカードはけっこう大変ですよと。

○○Pay

井端 では○○Payをやればいいじゃないかと。実際に中国だとアリペイとウィーチャットペイという2つが圧倒的なシェアで、そういうのを伸ばす余地があるんじゃ無いかという話になってくるわけですが、これも日本でどれくらいできるのかなと思われて、今、○○Payって空港とか行くとびっくりする、下敷きくらいの大きさでステッカーが貼られて一覧になっていますが、すごく乱立しているじゃないですか。中国だとアリババとかテンセントとか、すごく大きいシェアで○○Payを主導できる企業がある。日本では強いて言えばSBG(ソフトバンク)か、あとはせいぜい楽天かというくらいで、リードできる存在がいない。

これはあまりよくないことで、個人商店レベルでも中国だとアリペイとウィーチャットペイさえ導入していればほとんどの顧客が決済を出来るのに対し、日本では○○Payがあまりにも多すぎるので、全部と契約するのは当然コストがかかるので、しかもシステム対応や従業員教育も面倒なので、ちょっと無理がありますね。

かつ消費者側も全部の○○Payに加入するわけにいかない。わたしはLINEPayだけですけど、そうするとPayPayは使えないとか。顧客利便性の観点からも、○○Payが乱立していることは、我々最終消費者側からみても全く良いことはありません。

こういう状態は継続しなくて、最終的には淘汰が進むんだろうと言われています。実際にサイゼリアとかはそれを待っていると報道されていました。それがなぜかというと、手数料が安いという話を既にしましたが、システム的な高コスト体質はクレジットカードに比べると低いわけですが、そもそも資金移動業者が決済だけで収益を上げることはほとんど無理です。決済でガッツリ収益を取ると言うよりは、例えば決済データを何かしら活用したり、広告収入を得たりとかを収益源とする。それってデータが集まっていれば集まっているほど活用できるので、恐ろしく規模の経済が働くんですよね。でかいところが勝つと、そういう世界です。だから○○Payが乱立している状態は規模の経済が働かない状態なので、確実に淘汰が進んでいくだろうと言われています。実際にYahooとLINEの提携、auとローソンの提携など、すでにその兆候が見られ始めるということ。

さらに、資金移動業者がどれくらい儲けられるのかなということが、日本の文化的な面からもどうなのかなと思うところが多少ありまして、情報を収益化するというところで、日本人は個人情報に対する感度が高めだと思うんですよ。Googleの検索画面にHappy Birthday!と出てくることにすら不快を感じる人も多いと思うんです。中国でキャッシュレスが進んだ理由の一つに、中国は個人情報が国のモノだから個人情報を自分たちで管理する権利があると思っていないということがあると。だからアリババやテンセントなどの大きな会社に管理されても、もともと監視社会で国に管理されているから、別に良いんだという意識があって、キャッシュレスが進んだ理由には、そういう意識が寄与しているんじゃないかなと。日本人はそういうところは保守的な感じがするので、それが資金移動業者が儲けにくい理由の一つにあるんじゃないかな。

もう一つが、中国では芝麻信用というスコアがあって、信用スコアですね。決済情報やその他のサービス利用情報をまとめて個人の信用スコアとして計算する、例えば何かモノを借りて、延滞したときにスコアが下がるとか、ちゃんと毎回期日までに返していればスコアが上がるとか。スコアが高い人はお金を借りるときや、車のシェアリングサービスを使うときに、使えるサービスの範囲が広がったりとか安く使えたりとかする。こういうのがあるおかげで、資金移動業者としては決済の情報を集めて、「こいつはこういうスコアです」というのをまとめて、それを例えばUberなんかに売る訳です。日本でこれがどのくらい流行るかなというと、日本人ってまずあまり借金しないじゃないですか。だからそもそもスコアを計測する機会自体がどれくらいあるかなと思うし、いわゆるシェアリングサービスというものも、いま東京の都心部とかいくつかの観光地ではシェアサイクルをやっていますが、今後もし発展してくれば話は別ですが、いまのところそんなに普及しているわけではないので、得たスコアを使う機会も少ない。そうした中で日本の文化的に資金移動業者がどこまで収益化できるのかなという疑問があります。

結局のところ、クレジットカードも資金移動業者も、日本の、リボ払いしないとか、加盟店手数料が高いといった取引慣行や、借金しない、個人情報にうるさい、シェアリングサービスが発達していないという文化が、カード会社や資金移動業者にとって「手数料以外で儲けられる部分」を少なくするような構造になっているのが否定しがたい。だからいまキャッシュレス還元という政策の後押しもあって、来年からはマイナンバーカードの取り組みも始まることになっていますが、単純に「日本人の保守性」みたいな話だけではなくて、色々な経済構造が背景にあるので、どこまでキャッシュレス化比率があがるのかなという感じはいたしております。中国くらいのレベルに達するには、まだまだハードルがあるのかなと。

小括

井端 最後に、私見ではありますが、交通系マネーが現状の日本では、特に都心部においては多く利用されています。一番早い段階からこれがキャッシュレスの発祥だったと思うんです。で、逆に言えば今PayPayとかLINEPayとかを全く利用していない人は、交通系マネーで事足りている人も居る。交通系マネーは非接触型で暗証番号が要らないし、決済速度も速いという良さがあります。

この交通系マネーが果たしてキャッシュレス化の推進にとって良いのかどうかは個人的にはよく分からなくて、ある意味で日本では早い段階からキャッシュレス決済が普及していたおかげで、ピッと決済する人が増えたのは良いんですが、もともとJRが使用していたものなので、例えばPayPayとかLINEPayとか、今は還元策で大赤字を垂れ流していますが、将来的には単体で収益化させることを目指していますが、交通系マネーはあんまりそういうことを考えていなくて、もともと自動改札を楽に通れるようにという発想から作られているので、今JR側も頑張ろうとしているみたいですけど、それで得た情報を生かしてビッグデータを活用しようという発想で始まったものじゃないので、こういうものが最初にあったせいで「SUICAでいいや」という勢力が一定存在していまして、日本のキャッシュレス化に対して貢献しているのか、実は逆に後退させているのではないかというのは議論の余地がある気がします。

つまり、交通系マネーが全くなければ、「SUICAでいいや」という人たちってもっと○○Payに参入していく余地があったはずで、○○Payを使う人は、もうちょっと増えたのではないか。なのでこの交通系マネーというものが日本のキャッシュレスを推し進めたかというと微妙な部分がある。LINEPayクラスならともかく、その下の○○Payって大量にありますけど、そこまで、交通系マネーが無かったら乱立したかな、という感じが個人的にはしています。

まとめですが、まず「日本では現金の利便性が良くも悪くも高すぎる」と。次に「制度やシステムのトライアンドエラー」というのは、日本って金融システムが整ってしまっているので、決済やお金を取り扱うものって、ミスが許されない。中国だととりあえずやってみて、駄目だったらあとから当局が指示を出せばいいやというスタンスがありますし、アフリカでもこういうキャッシュレスの動きがありますが、逆に実は途上国の方がゼロから作れる分、こういうシステム導入はやりやすいのかも知れない。そのへんが日本だとトライアンドエラーが難しいということです。

あとは最後に申し上げた情報の話で、日本の色々な商文化や条件があって、収益化がなかなか難しい。だから手数料が高くなりやすいし、LINEPayやPayPayは今かなり赤字を出しているんですけど、本当にこのあと収益化が出来るのかなという部分があって、「決済業者の収益性」については今後の課題になってくるのかな。というところで時間になりましたので以上で終わります。ありがとうございました。

ATMと窓口業務

福留 ありがとうございました。では質疑応答と、他にも「わたしはこんな風に決済方法を工夫しています」みたいな主張でもいいですけど。

ウッズ 井端さんは決済方法は何を使っているんですか。

井端 クレジットカードとLINEPayだけだね。

ウッズ クレジットカードは、「この店舗ならこのブランド」みたいなケース分けをしているのか。

森野 マイルが貯まるとか。

井端 クレジットカードは基本はJCBで使えない店舗ではVISAとかそれくらい。あとは楽天経済圏に見事に巻き込まれています。(笑)

中村 意外とシンプルですね。

谷繁 キャッシュレスが進むことで、銀行などの窓口業務が減ると言う要素はありますか。

井端 それはありますね。

谷繁 今、行政側に、窓口業務を減らしたいという要望が金融機関から来ていて、そこでのコストを下げたいからと。行政は、窓口でないと払い込めない納入通知書というものを発行しまくっていて、いまだにそこから卒業できていない状態なので、国としてキャッシュレスと言っている割に、地方自治体は全然そっちに追いつけていない。一般の消費者が頻繁に、行政の出す納入通知書に基づいて払っていることは少ないと思いますが、それで毎月決済しなければならない人なんかは不便だろうなと。かなり遅れている状態です。(笑)

中村 わたしも税金の仕事をしていますが、税金だと銀行振込でほとんど事足りてしまいますので、○○Payをわざわざ導入しなくても、という感じであまり広がらない。

 そういえば中村さん、行政の人だった。(笑)

谷繁 税金はコンビニでも払い込めますからね。

中村 コンビニで払っちゃえば、大体の人が。24時間対応できるので。わざわざ新しいのをコストかけてやらなくてもと。

井端 そういうのは先ほど紹介したキャッシュレス化比率では捕捉できないですよね。で、銀行としては窓口もそうですが、やはり一番はATMですね。ものすごいコストがかかっているので。だからATMを、もちろん数を減らすというのもありますし、あとは他の銀行と提携するような形にして、例えば宮崎県ではゆうちょ銀行のATMで宮崎銀行の取引が出来るようにしていますが、そうやって自前のATMを減らす。新生銀行はもう自前のATMを一台も持っていなかったと思いますし、セブン銀行は完全にそういうビジネスモデルで、いろんなところにATMを置くコストを引き受けて、銀行からお金を貰って、使えるように対応している。

森野 外国ではATMが少なくて、日本にATMが多い理由は? 治安が良いからというのがあるのか。

井端 もともと現金の取引量が多いというのと、あとはなんだろうね。

荒木 色々あると思いますけど、例えば一つの理由として、そもそも銀行がオーバーバンキングだからATMの数も多いというのはあるでしょうし、他だとなんだろうな。確かに治安が良いというのもあるでしょうね。

キャッシュレス化のパーセンテージ、これ、ヨーロッパで、なんでこんなに国によって差があるのかをEUで分析していて、ATMの数や治安水準、あとは経済状況みたいなのもあるんですけれども、一番大きいのは国民性と言われています。フランスとドイツだと同じ駅にどちらの国にも対応したキャッシュレスの決済システムがあるにもかかわらず、フランスはキャッシュレスだけどドイツは絶対現金らしいんです。これは完全に国民性。

あとアメリカだと小切手の文化なんですよね。もともとキャッシュレスの文化に馴染んでいるところに、銀行からすると小切手って基本は窓口で決済しなければならなくて高コストなので、デビットカードに移行させるインセンティブが銀行に対して強力に働いている。だからアメリカはキャッシュレスの割合が高い。

日本ではアメリカで言う小切手に相当するものが口座送金で代替されてしまっているので、既にキャッシュレスのニーズが満たされてしまっているし、そこがまさに統計では捕捉できないと言うこと。

井端 あとATMって当然システムが動いていないと稼働しないんですが、海外だと平気でシステムが止まったりするんで、ATMがあっても「あ、使えなくなってる」とかが、頻繁にではないかも知れないですがあるみたいで、ちょっと止まったくらいだとニュースにすらならないらしいんです。逆に言うと日本のATMにはシステムの頑健性があるということでしょうね。

中村 某行も8年経ってもまだ「あのときは・・・」と言われ続ける。

 ○○Payでもシステム障害などで決済が出来ないと、みんなすごく不満を言いますよね。別の決済手段に切り替えればいいじゃんと思うんだけど、そうじゃないと思うと難しいですよね。

中村 「トライアンドエラー」の余地が小さいというご指摘がまさに。

 実際に出来るのが前提になっていると。

中村 電車は時間通りに来るのが前提みたいな(笑)

 そうそう、金融機関はちゃんとしているのが前提(笑)

森野 代替手段を持たないから文句が出ると言うことは、それぞれの人は本質的には一本の決済手段に絞りたがっていると言うことなのかな。一本で払い続けられたら、家計簿をそれで付けられるし。

 ああ確かに。わたしはずっと現金でしたけど、夫から「クレジットカードにすれば家計簿つけなくていいじゃん」と言われて、「確かに~」と。

森野 紐付いているIDとクレジットカードの分と、という同じカードで明細を一本にして。

井端 それはまさにマネーフォワードとかが提供しているサービスですよね。

交通系マネー

荒木 交通系ICカードの話ですが、諸悪の根源はEdyだと思っています。そもそもEdyは、SONYと当時のEdy社というのが作っていたんですが、自分たちでVISAやMASTERCARDみたいなものを普及させようとしたんですが、自分たちで全てを独占したいからといって、例えばSUICAがEdyの中でブランドを発行させるような、要は傘下に入るように進めていたのですが、最後に蹴ったんですよ。

そのせいで、それだったら無理だと言うことになって、JR東日本はしょうがなしにEdyの外枠でSUICAを作った。そういう経緯があって、最初の段階でEdyが自分のブランドだけに特化していれば、その中にSUICAや他の決済ブランドも全部が入っていて、統一したひとつのカードで決済できる社会が出来ていたかも知れないのに、Edyががめつかったためにこんなことになってしまったので、わたしは諸悪の根源はEdyだと思っています。

森野 SUICAがもっと強力になってくれたら。

井端 そうそう。本当はだから交通系がもっと色々とできるようになればいいんですよ。

 交通系は支障が無いからあれだけ普及したんじゃないですか。小売店と競合しないとか。

谷繁 純粋に、現金で決済するよりも手間が少ないというのもあるかと。

 速いですよね。少額でクレジットカードを出すのがすごく申し訳ない。

中村 申し訳なくなる。

 そうすると、じゃあSUICAで、となる。

井端 SUICAのようなプリペイドの、ピッとやるやつは非接触型と言って、カードを差し込むのを接触型といって、あとは○○PayみたいなQRコード型があってという感じ。非接触型は一番手間がかからないんですけど、セキュリティが低くて、盗まれたらそのまま使われるというところはあるので善し悪しのところですが、確かに非接触型の交通系マネーがもっといろんな形で収益化できていれば本当は良かったんだろうなと思います。

 交通系マネーもいっぱい種類がありますもんね。

井端 まあそうですが、あれは一応統一されているので。

 かつては東京から帰省すると近鉄の改札を通れなかったですが。(笑)

谷繁 沖縄ってできるようになったんですかね? かたくなに使わせてくれなかった記憶が。(笑)

 ああ、沖縄、ピッて出来なかった。モノレールでしたっけ?

荒木 あれはSUICAが、「新宿駅でタッチしたときにスムーズな乗降が妨げられないような速度」というのを求めたからですよ。なんでこんなに詳しいんだって感じですが。(笑)

中村 そんな基準なんだ。世界一だ。

荒木 というのがあるせいで、世界的に見てもめちゃくちゃ決済スピードが速いんですよ。逆に言うと、ゆいレールはそんなの要らないから(笑)。設備投資してまで導入する必要がない。オーバースペック(笑)、だから適用できない。フェリカじゃないとあれが実現できないというので。

井端 決済がSONYのフェリカっていうシステムですけど、日本だけではなくて、同じくらい人口密集している香港の地下鉄なんかでもフェリカを使っている。けっこう世界的に見てもすごいらしいです。ぼく文系人間なので詳しい仕様は分からないですが。

荒木 世界的に見るとタイプA,Bっていうのがあって、非接触型ICでも3タイプくらいあるんですよ。で、SONYは負けたんですよ、国際規格競争に。だから国際規格にはなってないですけど、その上位互換の規格にSONYのフェリカも一部採用されていて、NFCっていうんですけど、それは部分的に採用されている。タイプA、タイプBでいうと、最近ちょっと見るかも知れないですけど、VISAで「コンタクトです」とかCMで言って、クレジットカードにコンタクトレンズの決済サービスがついている。全然普及してないですけど(笑)。日本だとフェリカに対応した端末しか持っていないので、海外のキャッシュレス決済に使えないというのが問題になっていて、難しいんですよ。

岩瀬 単純にデビットカードを普及させる働きはないんですかね。

中村 今回の政策では聞こえてこないですよね。

森野 SUICAのオートチャージで事足りているのか。

荒木 あれは、経産省と金融庁が統合すれば良いんですよ。これはけっこう本当で、なぜいまクレジットカード会社と銀行が別々なのか。これは世界的には珍しくて、銀行がクレジットカード会社をやっているのが普通です。でも日本では分離している。

日本は、経産省が割賦販売法というクレジットカードの法律を所管していて、金融庁が貸金業法という貸し付けの法律を所管している。お互いに競合しているんですよ。なぜ経産省が割賦販売法を所管しているかというと、昔、呉服屋さんとかが割賦販売していたという、その延長線上だったからで、結果として小さい商店を守るために経産省が最後まで頑強にその規制を守って、規制が雁字搦めになってしまった。

だから銀行がクレジットカードに参入するときも、わざわざカード会社を別に作らないと、自由にカードを発行できないことになったというのがあって、ややこしいんですよ。銀行に統合すれば良いとわたしは思うんですが(笑)

谷繁 金融庁は大蔵省ですからね。

荒木 闇は深いですね。

決済データ利用によるマネタイズ

荒木 決済ブランドの乱立の問題がありましたが、いずれはどこかに集約されていくと思うんですけれども、日本企業全般の特徴としてプラットフォームを作るのが下手くそなので、このまま消耗戦をした挙げ句に共倒れになりそうな気が、そこが危惧するところですよね。

井端 そうですよね。

ウッズ わたしも利用者側として思うのは、色々使っていたら取れるマイルも取れないので、一つに統一したいんだと思います。クレジットカードならクレジットカードで整えて、○○Payを使うなら○○Payで整えればいいと思います。

さっきの話を聞いていて疑問だったのは、当局もクレジットカードを進めたいのか、○○Payを進めたいのか、キャッシュレスが進めば良いという答えが見えている中で、ツールが2つ併走していて、どっちを最終的に持ってこようとしているのか疑問だったんですが、それって結局、加盟店手数料を考えると、多分クレジットカードの方が事業者としてはおいしいけど、それは手間もかかるしどうかな、ということで、ディスラプトしようと(既成勢力の崩壊を試みようと)しているのだと思うのですが、その点は。

井端 当局の見解についてはコメントを控えますが、民間事業者の観点で言うとおっしゃるとおりで、ソフトバンクはまだともかく、楽天は楽天Payと楽天カードの両方をもっていて、それをグループ内でどうするのかというのは、実はセンシティブな問題があって、なので多分両方持っている会社はいわば「どっちに転んでも良いように」両方持っているという状態だと思っています。

だから楽天もそうですけど経済圏を作りたいという思惑が各社ともにあって、楽天だと楽天証券とか楽天銀行とか。あとauもそうですね。auPayをローソンと提携していますが、auフィナンシャルホールディングスというのがあって、その下にじぶん銀行とか、カブコムとか、銀行・証券・保険が揃っている。そういう経済圏に誘導していって、全体のフィーを合わせてペイすれば、ポイント還元しても儲かっているよねということを本当はやりたい。

荒木 そんな戦略無いんじゃないですかね?(笑)というのは半分冗談ですが、クレジットカードの取引が非常に高コスト体質であるという問題意識は明確に持っているのではないかと思います。なのでまさにそういう低コストな決済方法と競争させることを通じて、もう少しクレジットカード側の取引慣行を改善させたいと思っているし、かつ○○Payをさらに普及させたいと思っているのは事実だと思います。

ただ、難しいですよね。決済手段が増えれば増えるほどキャッシュレスが進むかと言われると微妙な気がするので、本当に資する方向に向かっているのかというと、とりあえず一部の有識者に食いついた挙げ句に振り回されているだけじゃ無いかと危惧を、わたしは外野としてはもっていますが、多分いまおっしゃった、ご認識の通りの方向性に、みずから思っているのか他人から誘導されているのかはともかく、向かっているのだろうと思います。

森野 事業者としてはどっちがトクなんだろう。今言っていたような、楽天カードもあるし楽天Payもあるとなったときに、楽天Payのシェアが増えた場合にカードよりトクになるのか。

井端 事業者的には安いのは○○Payにはなるんだけれど、どちらがトクかというのは難しい部分があると思いますね。○○Payも結局、「付き合いがある金融機関からアプローチされたから」というような理由で導入するような店舗があって、地方に行くとオリガミPayが使えるところが多いと思うんですが、先日旅行に行った山口県のフェリーでもオリガミPayだけは使える、みたいなところがあった。ゆうちょPayというのもありますし(笑)

ウッズ 銀行が○○Payをやる意味は全くないと思っていて、今まで決済はクレジットカードではなくて引き落としが、日本では強かったじゃないですか。銀行業界として危惧しているのは、今までは引き落としデータを見れば顧客の属性を勝手に抜けたわけですよ。例えばガスや電気をいくら使っていて、この人は持ち家だからローンを組んで貰った方が良いとかが分かったはずだけれど、今はクレジットカードに移行したことによって、まさにさっきの個人情報の関係じゃないですが、クレジット取引の中身までは見られない。だから情報を抜けないというのが現状としてある。

もう一つが、○○Payになったからと言ってそれが解消するのかというと、たぶん解消しない。そこが解消するんだったら、銀行は○○Payに重点を置いていくべきだけど、そうでないならばあまり意味が無いということだと思います。

井端 まあそうだよね。銀行系のPayはあんまりシェアがとれる気がしない。あとは小売り系のPay。セブンPayは失敗しましたけれど、小売業は同業他社での決済に使いにくいので厳しいですよね。

森野 銀行はデビットカード決済なら情報はとれるの?

ウッズ デビットカードの方が取れるはず。一個一個の明細が見られるので。でもデビットカード使う人なんて日本ではほとんどいないですよね。

 選択肢に入ってこない感じはある。

井端 銀行系のPayとしては、リテール決済はかなり参入が難しいので、自行内の法人間の経費の移動などを○○Payでやるような推進策が考えられる。すぐに口座に落とせるので、LINEPayとかだとすぐに口座に戻すにはハードルがあるのが、銀行系のPayだと業法的に問題が無いよねということで。やはり我々のような個人消費者が使うところだと、なかなか銀行系のPayとか小売り系のPayはちょっと厳しいですよね。

荒木 情報の還元、活用の話は、これはまさにSUICAがやろうとして、個人情報を交通系ICで提供するというのを、ものすごい反発を食らうのでやめたということがあった。やっぱり日本人特有の個人情報に対する厳しい意識もあると思っていて、特に匿名情報って基本的には特定が出来ないはずだけれども、「自分は交通系ICのためだけに提供していたはずなのに」という反発が、実は契約約款、同意書の中には「個人情報は~~」というのは書いてあったにもかかわらず、そういうことにはならないわけですよね。契約文化と言うよりその場の空気みたいなもので「そんなつもりでは無かった」となるので、難しいところかなと思う。

電気なんかでも、発電施設情報や、電気の利用情報、いつの時間にどれくらい電気を利用しているかみたいな情報ってすごくセンシティブな情報だけれども、一方でそれをビッグデータとして活用すれば、色々な産業に生かすことが出来るのでは無いかという議論はあるんですけれども、まあ全然出来てないですよね。やっぱりいつ何時にどれくらい、30分単位で電気を使っているか、というのはセンシティブこの上ない情報なので、同意が得られづらいのでは無いのかということで、結局、法改正しなくても情報活用は出来るはずですけれども、いまは法改正しようという動きになっています。法改正して抜本的に全部情報活用できるように同意を取りに行ってしまえよと。それくらいしないと同意が得られにくいという印象はあります。

福留 情報を抜くというのが日本人の国民性に関わっているというお話は、わたしも直感的にはすごく理解しますけど、一方で、中国における監視社会の話がホットですが、別にいま中国で起きていることは中国に顕著な問題ではなくて普通に日本でも起こりうるだろうと思っていて、それは要するに「利便性の前には膝を屈するだろう」ということです。

セキュリティはもちろん最低限守らないといけないけれども、個人情報をどれくらい切り売りするかと言うことに関しては、それで得られる利便性が上回っているのなら、全然、国民性とか関係なく認めていくだろうなと思っていて、なのでビッグデータの活用方法ができて、それがマネタイズできるようになっていけばいいだろうと思いますね。いま森野さんや李さんが言ったように「家計簿を付けられます」というのもまずはそういう例としてあるだろうなと思いますし、そこをちょっと事業者のみなさんは頑張ってください、という感じですね。

格差を助長するキャッシュレス

落合 わたしは愛媛で、交通系のカードで、イヨカっていう伊予鉄でしか使えないカードを持っていて、だからこっちに帰ってくるとICOCAで決済できてすごく便利だなと。コンビニでもSUICA対応していない店舗がまだあるので、地方との格差がどんどん広がっていく感じはありますね。

井端 それはありますね。この間とある鉄道系YouTuberが「SUICAを鉄道で一切使えない徳島県でSUICAを使ってみた」という動画をあげていて、徳島県の駅では一切対応していないけれど、コンビニでは使えるという話でしたが。

 東京のひとって、SUICA使えない地方があるというイメージを持てないのかも知れない。広島の路面電車に乗ったときに、「どうせ使えるでしょ」と言っている女性の一団が居て、「いや使えねぇよ」と思って、すごく傲慢だなと。

谷繁 でも都会慣れすると、地方では自販機の決済にSUICAが使えないことに不便を感じますよね。

 それはすごく思います。(笑)

森野 地方の鉄道がオリジナルのカードを作るメリットってなんなの。

落合 イヨカに関しては、本当はSUICAを導入できるようにしたかったけれど、めちゃめちゃお金がかかるということで。

荒木 さっきのやつです。新宿対応。オーバースペック。

井端 まあバスとかだと両替する行列がなくなるなどのメリットはあると思いますが、それ以上のものではないでしょうね。だから都心では個人タクシーはSUICAが使えないのもありますよね。同じ理由で、個人だと導入費用が全然ペイしないので。

森野 集めたくはなるかな。地方に行った記念に。(笑)それで収益を得ているのかなと思って毎回払う。500円のデポジットを払って。

落合 バスの料金は160円なので、200円だったら払いやすいけど60円は出てこないから、IC決済の方が便利だから買っちゃおうということですね。

谷繁 熊本の路面電車はSUICA決済が出来るんですけど、入り口と出口が一緒なので、入るときにタッチしないように車掌さんが必死に手で防いでいますね。(笑)

中村 交通系マネーだと、高齢者も一番使っているイメージがありますね。

 ○○Payは親とかに説明したくないもんね。どうやってやんの? とか聞かれても。

森野 画面出してとか言われても困る。

 もうSUICA持ってろというか。

森野 首からSUICA提げといてというか。

井端 確かに高齢化社会というのもキャッシュレスが進まない要因の一つですよね。20年くらいかけて、今の40代が高齢者になっていくときがくればともかく、いまの70代、80代が○○Payと言ってもどうなのかと。だから高齢化社会であるということがそもそも普及しにくいところでもあると。

中村 我々ですらどれを使おうか迷っているくらいなのに。上の世代の方は尚更。

井端 結構ATM減らすとか窓口減らすとか地域金融機関の悩みもそこにあって、地銀はよく考えていてU村とY村の支店を交互に、月水金と火木で分けて営業してという。銀行法が変わってそういうのができるようになったんですが。

谷繁 我が県の地銀は今回支店をけっこう減らしましたね。

井端 めっちゃ減らしました。地方ほどそういう金融機関の窓口を減らしていく側面もあったりする。

森野 高齢者が使いやすい決済システムを生み出しさえすれば、お金はたくさん使ってくれる世代ではあるのかな。持っている世代ではあるので。

ウッズ 逆にキャッシュレスは若い人がどんどん使うべきと思っていて、穿った見方をすると、キャッシュバックがあるじゃないですか。キャッシュレスを使うのは若い人と考えれば、(世代間の)所得の再分配ができるとも考えられる。

井端 なるほど。ただそれは微妙なところもあって、いまやっている還元策なんかも、クレジットカードは生活保護を受けていると使えないじゃないですか。キャッシュレス系の還元ってどうしても富裕層優遇の部分が無くはない。そういう批判が生じていたりもします。

荒木 海外では問題になっていて、ポイントとかがつきますが、電子マネーとかクレジットカードとか特にそうですが、金持ちほど使う、金持ちほど決済できる。なので「基本的に貧しい人から金持ちにお金を流す仕組み」になってしまう。

なぜかというと、加盟店手数料は一律だが、ノンディスクリミネーションルールと言って、ご存じの通り現金決済でもカード決済でも値段は一緒じゃないですか。だけれども店舗側は加盟店手数料分は貰っている(価格に上乗せしている)はずですよね。言い方を変えると、現金の人もカードの人も、薄く広く(加盟店手数料分の=カード決済による各種特典の原資となる)お金を取られているということになる。だからノンディスクリミネーションルールをそのまま適用すると、現金の人は損をしているんですよ。

海外だと、それは「現金しか使えない貧しい人たちからの搾取だから大問題だ」と言って、10年くらい前からずっと競争当局が動くような問題になっている。だから海外だとカード決済の場合に「2%手数料です」といって取られる国もある。それは遅れている国だからでは無く、むしろノンディスクリミネーションルールが消費者に不公平を強いていて、独占禁止法違反だとされた結果なのだということです。その対応が結果的に小売りを儲けさせているだけなのではないかという批判を招いていたりもするんですけれども。とにかく深遠で複雑な取引の仕組みではあります。

福留 だいぶ盛り上がりましたが、時間になりましたので、では、どうもありがとうございました。

【終】

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