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Biotech事業計画立案Zero to Oneーダークサイドからのお誘い 後半

前半ではライフサイエンス系の研究成果からBiotech事業を考える上での、研究そのものの棚卸しの方法から、それを発展させるための座組について少し触れた。後半ではこれを更に成長させるための方法、チームの構成で気をつける点、そしてVenture Creationの提案について書く。

練習問題を解こう!

ある程度検討を進めると、「やっぱ自分じゃ無理、誰か手伝って!」と思い始める。

ベンチャー関係の知識がないので大学の産学連携関連イベントに顔を出して相談してみると、起業関係のプログラムや、いわゆる「メンター」と言われる人を紹介してくれた。VCに顔の広い人と、製薬企業で数多くの開発を手掛けた人を紹介してくれるらしい、鬼に金棒だ!他にもシリアルアントレプレナーで、エンジェル投資家だという人にも問い合わせてくれるとのこと。いきなり500万円投資してくれることもあるらしい!投資を受けるには会社を作っておく必要があるらしいので、取り敢えず会社の登記をすることにした。規模は小さいけれど共同研究者とやる気のあるポスドクの3名で進めることができるように、彼らにも同じ配分で株を持ってもらうことにした。今後が楽しみだ…

バイオベンチャーを始めてみた研究者あるある

経験のある人だと、この手の表現を見るとフラグが立つ。会社設立前後は知識が不足するために、一体何をどう調べればよいのか、誰の話を信じればよいのか判断がつかない。この手の研究者にアドバイスを求められることが多いが、適切なアドバイスは結構難しい。やってみなければわからない経験知の部分と、最初からある程度やり方が見えている事業センスの部分が入り混じっていて、一概に「これだ!」と言う打ちてはない。ただ、個人的におすすめしているのは「練習問題を解く」ことだ。自分の技術でなければ面白くないだろうが、実際には事業自体がどんどんその姿を変えていくので、全く関係ない事業だとしても、最終的には「知っててよかった」となる。単純に「事業」として考えるのであれば、大学やオフィス街でカフェやラーメン店を出店することを前提に事業計画を考えてみるなど、身近な素材を使ってみると良い。サイエンスが良いのであれば、アメリカの共同研究者や、有名研究者が関与しているスタートアップについて、ネット上の情報だけでもいいので調べてみて欲しい。何を売っているのか?誰が出資しているのか?CEOの経歴は?コアとしている技術は?ビジネスモデルの記載はあるか(あまり情報を出していないスタートアップも多い)?等々、最初のうちは意味がわからないだろうが、やってみて欲しい。

筆者はかつて米国のスタートアップの情報を年間500社ずつ日本語に翻訳すると言う事業の手伝いをしていた。2000社ほど見ているとだいたいどういう事業モデルで、どういう表現にしているのか、見えてくる。研究でも仮説立案の段階で競合の主張やデータについては精査して穴を探したり、研究分野の今後の流れを考えるだろう。実は研究作業と事業計画立案には類似点が多くある。

ビジネスと研究の類似点

事業化のプロ?メンター?

これもよく聞く質問だが、良いアドバイザー、メンターを見分けるコツはあるのだろうか?例えばここで「この人はいい」「この人はダメ」と書いてしまうと業界で嫌われるし、そもそも筆者が思う良い悪いは、研究者にとっては当てはまらないケースも往々にしてある。なので、いくつかの角度で創業前後の活動について考えてみる。

例えば、運良く非常に良いアドバイザーを紹介してもらえたとしても、上述のように7回以上のブレストに付き合ってくれるようなアドバイザーはほぼいない。逆に良く付き合ってくれるメンターと思っていたら、いきなり10%の生株を持たせろと言ってきたり、エンジェルだといいつつ少額で大した支援もできない人だったりする。上のコラムのように創業者が均等で株式を保有するなどと言ったパターンも、実は最もやってはいけないあるあるなので、こういった間違いを指摘してくれるという点も重要だ。となると、今の段階で適切に相談できる相手かどうか、というのは重要だ。

こう言うときは、周りの評判をよく聞いたうえで、いわゆる「アクセラレーションプログラム」というものに参加してみると良い。このときも「よし!これでロケットスタートだ!」などとは気負わず、場合によっては他の研究者のプロジェクトの議論にオブザーバー参加するところからスタートしてもいい。過去に筆者の主催するプログラムに2回オブザーバー参加し、3回目にようやく自分のプロジェクトで申請してきたほど、慎重な研究者もいた。彼は結果的にうまく良いメンターを見つけ、短い期間で順調に資金調達を進めている。

アドバイザー、メンター、アクセラレーションプログラム、事業化補助金、いずれのケースでも仲間内での情報共有は非常に重要だ。と同時に、小さいコミュニティでの情報はあまりあてにならないこともある。ビジネスも研究も、情報戦であることはお分かりだろう。慎重に、時には大胆に、多面的な情報から、自らの進む未知を決めて欲しい。

ピッチコンテスト?

事業計画を立てたことはほぼない研究者が多い中で一人悶々と作業を続けるのは辛い。大学の担当者に聞いてみると「今度こんなイベントがありますがいかがでしょうか?」と、ピッチコンテストとかビジネスモデルコンテストへの参加を打診されることがある。これは、学生起業家やITなどの比較的短期間で立ち上がるビジネスには向いているかもしれないが、Biotechに限っては筆者はこれはあまりおすすめしない。殆どのケースで事務局もアドバイザー側もBiotechの知識がなく、一方で社会課題としては大きいので「がんを治します!」というだけでいきなり賞をもらえたりする。でも、その評価は研究者が事業で成功するという評価とは程遠い、コンテストというイベントを成功させるための評価だ。逆に「顧客のニーズとはぁ」とか、「マネタイズのポイントがわからない」などといった、一見真っ当なコメント(でもBiotechには当てはまらない)をうけて、単純に凹んで終わりということもあり得る。

比較的成功に近づいているビジネスを見ていると、半分くらいは手慣れたアントレプレナーによるステルスモードでの起業であり、起業関連のイベントには色んな理由をつけて参加を断っていることもある。注目されればされるほど、支援!支援!と言われて貴重な時間を消費され、いつの間にかどっちがどっちを支援しているのかわからなくなる。承認欲求を満たすのはメインの研究で大きな成果を上げることで満たして、スタートアップは遠慮気味なふりをしているくらいでちょうどいいと思う(放っておいてもウェイウェイしているイベントからお声がかかるので、ご心配なく)。

Venture Creation!ー研究者が事業計画を書かなくても良い!

メニューが1つしかないレストランがあったとする。それも、ピザとかラーメンとかではなく、最先端の技術を駆使した分子ガストロノミーで、その筋には熱狂的なファンがいる… たった一つの技術での起業はこんな感じだ。プロ中のプロでも難しいBiotechビジネスの企画なのに、研究者から事業提案がバンバン出てくるはずだ、という想定で多くの政府助成金や、民間のアクセラレーションプログラムは企画されている。実際はそんな簡単ではないのに、対象とする研究者との対話どころか情報提供すら殆どない。誰も研究からの事業計画の立て方を教えてくれない… なぜかと言うと、知らないから。製薬企業もそんな初期段階で市場がどうだの、開発のリスクを示せなんて言っても無駄だと知ってるから、そんな計算はごく一部の経営企画にいる研究者上がりの人しか考えていないはずだ。一方でスタートアップでは外部からの資金調達が必要なので、取り敢えず鉛筆を舐める程度の市場予測と、うまくいかなくてもセカンダリとして他のスタートアップとロールアップモデルを組んで次のステージに行くと言う可能性も同時にキャピタリスト側が考えている。

Venture Creation プロといっしょに、設計図から作るスタートアップ!

すでに横文字ばかりでケムに巻かれているようにお感じかもしれないが、どんなに頑張っても研究者一人で時価総額数百億円以上の事業について構想するのは無理がある。であれば、適切な臨床研究者、基礎研究者、開発のプロ(CRO、CDMO含む)と事業化プロデューサーが集って、チーム体制でBiotech企業の企画をするほうが効率的とは思わないだろうか?

今のところ国内ではこの手のチームは多くはないが、すでにいくつかのVCがこの手の企画を始めており、筆者を含めた感度の高いアクセラレータ運営者とは情報の共有がある。当然それぞれのチームの得意不得意があり、日本で実現できる事業は米国のそれの数十分の一程度と思って置かなければならない。さらに、研究者の考える製品・サービスのイメージと異なるゴールを提示する可能性も高い。当然、米国のようにScientific Founderとの関係は、技術ライセンス料の支払い+多少のアドバイザー料ということになる。株の持ち分も少ない。しかし、何とかこの仕組みを使って欧米のエコシステムにCatch upしようと筆者たちは頑張っている。肝心なのは事業を生み出す種、技術シーズだ。そしてそれらを健全に育成できなければ、ゼロはゼロのままだ。これを1にする手立てを我々は知っている。

研究者各位からのアプローチをお待ちしている。

スタートアップ、事業化に対する意識にはバラエティがある

最近は学部学生のほうがスタートアップやアントレプレナーシップについての授業に触れる機会も多く、英語でのコミュニケーション能力もあるので、実は20代前半の起業への意識は高い。一方で30代以上の「研究者」では、たとえ企業にいたとしても「スタートアップ」として事業化を意識することはほぼ経験していないと思う。こういう研究者の場合、「起業」とは何となく大変なことであり、得体のしれない異世界の人達の営みのように感じているかもしれない。「ベンチャーキャピタルはどういう人達か?ビジネスモデルとかデザイン思考といった言葉な何を意味するか?シリアルアントレプレナーって何?メンターに言われたことが理解できない?」などといった情報がいきなり押し寄せてきて、単純に混乱するか、全く頭に入ってこないだろう。でも、そんな目くらましは置いておいて、シンプルに考えることが重要。知らないことは恥ではない

ダークサイドからのお誘い

サイエンスとイノベーションの都合のいい関係

人と自分は違うことを認識し、自分が何を成し遂げたいのか、何に心を動かされて事業化と言う選択肢を取っているのか?良く考えて欲しい。中には実験作業や、学会での論争のほうが重要だ、と考える研究者がいるのは当然だ。そのときには、事業化を通じて患者さんにその研究成果を届けるために必死に動いている人達がいることを、少しだけ頭の片隅においておいて欲しい。サイエンスは社会を変えてきた。そして今の社会課題の解決に、サイエンスの力が必要だ。

我々は良く「自分たちはダークサイドに落ちた人間だから」と自虐的に事業化支援者のことを呼ぶ(サイエンティスト崩れが多いので)。そんな自分たちが、憧れの一流研究者と仕事ができるのであれば、こんなに嬉しいことはない。日本の研究力低下が叫ばれる昨今、そんな議論を吹き飛ばすようなイノベーションを一緒に創出する仲間となって欲しい。


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