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Biotech事業計画立案Zero to Oneーダークサイドからのお誘い 前半

今年のHVC KYOTO2024での対談の際に「研究活動の延長線上に事業化があるなんて考えても見なかった」「もっと多くの研究者に事業化という道筋があって、サポート体制があることを周知してほしい」と言う声を受けた。大学発スタートアップについてはブームとなっているような報道が多いが、実際にはそこそこ有望な案件や、感度のよい起業家人材による事業化は一巡し、案件数は踊り場に来ているように感じる。今後はある程度経験のある人材やチームによる事業提案と、それらを複数まとめてパイプラインを構成するようなVenture Creationモデルが求められると筆者は考えている。

さらに、事業化支援に関連する事業を手伝っていると、入口に立つ研究者に無理やり事業計画を書かせていることに非常に違和感を感じる。正直言って可愛そうだ。そんな研究者からの問い合わせや、それを受けた支援者のススメもあってか、Biotechビジネスアイデア創出についての記事も好調にPVを伸ばしている。そこで調子に乗って類似の記事を投稿することにした。内容に重複はあると思うが、前回の技術の特徴に依存した流れに対し、今回は作業ベースで、実際に直面する比較的身近な課題やあるあるについても触れる。

事業化を意識するタイミングは、研究計画を立てたその時!

我々スタートアップ支援の人間が相談を受けるタイミングは大きく分けて2つある。1つは実用化を目指してAMEDの助成金などで開発を続けてきたが、諸事情により研究費がなくなったとき。もう一つは、とり敢えず特許はとっていたもののどうすればよいかわからず、数年経って面白い応用ができそうになっているものの、特許の維持費用や各国移行費用が尽きそうなときだ。でも、事業化のアイデアが、研究成果が確定したこのタイミングで出ているわけではないはずだ。研究を企画し助成金を申し込む時点で、持っているResarch Question自体は世界で唯一のものであることはすべての研究者が知っている。ぜひそのタイミングで、事業化については意識してほしい。何もその時点で事業計画を考えろというわけではない。事業化、実際の応用についてのアンテナを張っていることで、研究そのものの厚みも増すことが期待できる。自身の研究のアカデミア内でのインパクトだけでなく、多面的な方法で評価をして欲しい(方法は後段で述べる)。そうすることで研究の過程でも臨床の現場での議論や、逆に他分野での類似事例などを参考にすることができるので、研究活動自体、学会での発言や、参加する学会の種類にも幅が出てくるだろう。筆者はどちらかと言うとできるだけ早期、何なら研究のアイデアの段階で相談を受けたいと思っているが、最初から知識も興味もないビジネスの話に手間を取るくらいなら、よりサイエンス自体を深堀りしたいのが研究者の性(さが)であるはずだ。ここを押し売りしても生産的な議論にはならない、気づいたときがベストタイミング。ただ、論文発表まで待つ必要はない、取り敢えず次の作業を試してみて、雑談でいいので声をかけて欲しい


研究とビジネスの違い それぞれの項目ごとの作業内容は全く異なるが、当初の課題設定(仮説vsニーズの探索)や、独自性の提示(計測技術vs差別化技術)、検証(実験vs実証実験)など、似通っているところは多い。一方で、研究では途中で分野が変わることはないが、事業では全く違う事業領域に突然ピボットすることもある。


因数分解をしよう

まずあなたの手元にある情報を整理しよう。先行研究に対して何が新しいのかを見直してほしい。その際に、以下の示す事例のように、研究のタイプを抽象化し、何がどう起こったのかを素人にも説明できるようにする。
追加の事実の発見:一連の知見に新しい事実を見つけた。9個見つかっている複合体に新たな結合分子を見つけた、既知の分子に新たな機能を見つけた、高等生物種で見つかっていた現象を、原生生物種で発見した、など。
分子としての概念の変更:機能がないと思われていた分子が、実は細胞の機能調節に重要な役割を果たしてきた、など。
細胞や器官の制御:複数の細胞機能をHackすることで、細胞周期や細胞分化を制御し、これまで知られていなかった細胞現象を発見した。
特定の疾患を再現するモデルの作出:ノックアウト、トランスジェニックマウス、PDxなどの移植モデルによる、疾患モデルでの研究
疾患の概念を変える特徴的な症例:合併症や、家族間での共通遺伝子などに起因する、特殊な症例からわかる生命現象

こうして研究成果の概念を伝えやすく整理すると、実際にその技術がどの程度進歩性を持っているかが見えてくる。そして、研究の要素を個別に書き出すことでその強み、弱み、組み合わせなどを個別に評価することができるようになる。この段階で全く新しい概念を創出することができれば、科学的にもインパクトのある仕事になるかもしれない。けれどもここではじっくり時間をかけて、それぞれの要素についてどういう役割で、どの程度研究の実現に貢献したかを考えてみて欲しい。その際に重要なのが、競合との比較だ。先行研究に対して、と言う軸では既に論文を各段階でかなり議論されていると思う。既に類似の技術が事業化されている場合、それを分析してみるのも良い。元の研究のごく一部だけを使っていたり、他の技術と組み合わせていたり、なにか予想外の知見が得られるかもしれない。

ブレストの方法:壁打ちを繰り返せ!Magic Number 7
因数分解された要素まで落とし込むと、共通の専門分野以外の人を議論に巻き込むことも可能となる。未公開のデータでもポンチ絵に落とし込んだり、イメージ図に変えることができれば、いわゆる「ノンコン(Non confidential)」の資料となり、よほど近い競合でない限り同じ実験を再現したりするような事はできない。これを使って、事業化や規制、製造技術を持つ専門家たちと議論をして欲しい。これがまさに筆者がSPARK Japanの活動で提供している「アクセラレーター」であり、前回も触れたTarget Product Profileを中心とした議論となる(「Biotechビジネスアイデア創出の基礎-前半」参照)

この議論を進めるために我々は順を追ってテンプレートを埋める作業を行う。しかし実はこのときの議論の回し方で、アウトプットが変わってくる。例えば議論する際に当該プロジェクトの近くだけで議論を進めると、事業提案をしたScientistの考え方とほぼ変わらない話しか出てこない。そこで、少し離れた、あるいは全く別の分野の研究や事業ではどうだろうか?と言う前提で議論してみると良い。必要なのは多面的な角度から評価するという方法論だ。一つの検討対象について各研究グループでは長い時間をかけて情報を共有し、ぐるぐるぐるぐる同じところを回りながら実験結果を元に一喜一憂する。しかし今度はこのループから一旦離れなければならない。全く異なる角度から3次元での評価を行うには、多少粒度の粗い情報でも良いので、無茶振りをして、揺さぶって、違うタイプの議論をしてみて欲しい。これまでは正確無比な高精度の写真を取ることに必死だった皆さんに、その素材を元に油絵を描いたり、アニメにしたり、前衛的な芸術をつくって貰う必要がある。
ただ、こういった無茶な議論を可能にするには、議論するメンバーがある程度情報を共有し、議論の振り幅や役割が大体決まってきてからがやりやすい。表題に示したように、だいたい5−6回の議論を費やしてチームビルディングを行うことができれば、7回目からの議論は大きく変わる。ある程度経験のあるファシリテーターが必要ではあるが、1−2回の議論ではただの雑談でしかないことが、振り返ってみると気づくことができる。

ブレストの方法

事業計画を書く

ある程度議論の要素が揃ってきたところで、今度は事業領域としてどういうビジネスを目指すのかを決める。長くなるので前稿の前半後半を参考にして欲しい。これは仮置きで構わないし、おそらくずーっとぐるぐる議論を続けることになる。因数分解の段階である程度想定は始まっていると思われるし、当然この段階でTPPの議論も行うことになる(「Biotechビジネスアイデア創出の基礎-前半」参照)。重要なのは、具体的な顧客(患者、医師、病院等)に対して何を(製品、サービス)提供するのかを具体化し、ポンチ絵で表現すること。その際、多くの場合研究者は「商流」についての知識がないことが課題になる。知らないことは誰かに聞く。そして競合や類似のビジネスについて研究すること。

ビジネスモデルはシンプルに! 何を提供し、何を得るのか、顧客の課題はなにか?
解決したい課題はコストでは無いことも多く、時間や信用だったりする。

筆者も各種助成金の審査を手伝いことが多い。その際、実用化の計画についてはかなり適当な記載が多い。知識がないから仕方がないのだが、ここの部分はNEDO, JST, AMEDなどの助成期間が事前に頑張って周知したり、セミナーを開催しても、なかなか状況は改善しない。世の中には事業計画のネタ本や、YoutubeやこのNoteのようなところに情報が溢れている。しかし多くの場合、そこにはIT系のeコマースだったり、飲食店のフランチャイズの話だったり、医療系の事業と言ってもクリニックの経営だったりして直接使えない。そのあたりも今後、このNoteを使いながら紹介していこうと思う。

事業化助成金に申し込むー事業計画は変わり続ける生き物

本来であれば次はTPPについて詳しく説明したいのだが、経験上この作業はかなり労力がいる(なので上に会たようにブレストを7回以上繰り返す必要がある)。しかし、人間にはインセンティブが必要だ。例えば「1ヶ月後締め切りの実用化助成金に出すぞ!」というゴールを提示して議論を始めると、その解像度が上がる。さらに、これまで何となくスルーしてきた点についても「やっぱりこれはちょっと違うと思う」ということを言わざるを得なくなる。対象疾患についても、より正確な数字を調べる気になるし、ヒアリングする先に対しても「AMEDの〇〇に出す準備をしているので、忙しいかもしれないがこの日に話を聞きたい」と差し迫った感じでアプローチできる。

さらに、助成金にはいくつかの制限がある。特定の事業領域が設定されていたり、起業のタイミングや資金調達のステージに制限があったり、強制的に市場では一見ありえないような条件が課せられることもある。これもブレストの格好のネタだとポジティブに捉えて、是非チャレンジして欲しい。事業化にあたっての専門家の支援も必要となるし、強制的にネットワークを拡げる機会にもなる。有名な表現に「資金調達に言ったらアドバイスをされ、アドバイスを貰いに行ったら資金提供の打診をされる」というものがある。いかにして味方を増やすか。場合によっては正確に技術を理解できていなくても、頑張っている姿を横で診てもらうことで、出資につながって行くこともある。肝心なのは、ある程度事業が進むと、作った会社の価値が流動的に動き続けるということだ。それに従って事業計画も動き続けるので、ピンポイントで議論や会議をしている時点での正確性は、あとになるとそれほど重要でなかったりする。だから、気を熟すのを待つ必要はない。思いついた瞬間が、行動を起こすタイミングだ(ただし、いきなり無計画に登記はやめよう。会社設立のタイミングは慎重に)。

後半では方法論の発展のための基礎的な知識を得る方法、チーム構成で気をつける点、そしてVenture Creationについて解説する。

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