
タイのLGBTQ+ Healthは日本の遥か先を行っていた
バンコク訪問の目的
2025年2月21日、私はタイのバンコクにいた。1か月前に同性婚を法制化した国のLGBTQ+ヘルスの現状に関心があったからだ。
私が訪問したのは、Rainbow Sky Association of Thailand(RSAT)という非営利団体である。RSATは今年で創立26年を迎え、タイ国内に18か所の拠点を持つ大規模な組織だ。見ず知らずの私を温かく迎えてくれたこの団体は、LGBTQ+当事者向けの健康サービスを提供するだけでなく、公正な社会の実現に向けたアドボカシー活動や移民の擁護活動も行っている。
RSATの提供する多様なサービス
私が訪れた本部兼クリニックには、多い日で100人以上が訪れるという。提供されるサービスは多岐にわたり、すべて無料で受けることができる。
下記のものはほんの一例に過ぎないが、
HIV関連サービス: PrEP(曝露前予防薬)やPEP(曝露後予防薬)、HIV検査
性感染症(STI)スクリーニング
生活習慣病カウンセリング
薬物依存患者へのハームリダクション支援
禁煙支援
緊急時対応(弁護士とのコンサルテーション)
メンタルヘルスサービス
トランスジェンダー当事者向けのホルモン値モニタリング
このサービスの多くは外部の慈善団体からの助成金で賄われている。しかし、主要ドナーであるUSAIDの予算削減により、今後の規模縮小が懸念されているという。今後は収入源を多様化させることが課題であり、企業研修などのモデルも模索しているがアメリカの 反DEIの動きもありなかなか難しいようだ。
話を聞きながら、検査試薬などについて、販売する製薬会社と協業し、社会貢献活動として試薬を割引してもらうのも1つではないかと考えた。
医療提供体制と利用者保護の仕組み
このクリニックは、日本の診療所とは異なり、医師は常駐していない。ソーシャルワーカーと検査技師が中心となり、必要に応じて提携病院とオンライン診療を行うシステムが整備されている。例えば、HIV陽性の結果が出た場合、即日で抗ウイルス剤を投与できる仕組みがある。
また、受診者のプライバシー保護も徹底されている。院内では番号で呼ばれ、名前が周囲に知られることはない。さらに、差別的な対応を受けた場合に通報できる窓口が設けられており、緊急性に応じて対応の優先順位が決められている。
これらのプロセスは電子化されており、Dx化が進んでいることにも触れておきたい。
また、スタッフには、公衆衛生省が定めるSTIに関する施設運営のトレーニングが義務付けられている。内容には、LGBTQ+に関する基本知識や、スティグマ・差別防止に関する研修が含まれている。施設の許認可に加え、スタッフの70%以上がこのトレーニングを修了することが求められており、日本よりも制度的に整っていると感じた。
日本との違いを考える
なぜタイではこれほど確立したサービス提供が可能で、日本では難しいのか?
なぜ日本ではPrEPへのアクセスが悪く、検査が不便なのか?
なぜ日本の医療スタッフはLGBTQ+ヘルスに関する知識が不足しているのか?
この疑問についてRSATのスタッフにも意見を聞いてみた。
彼らの話で最も印象的だったのは、この体制は一朝一夕に築かれたものではないということだ。
RSATも26年前は小さなグループに過ぎなかった。そこから仲間を集め、公衆衛生省と協働しながら、今日の形へと発展してきたのだ。
継続することの重要性
RSATの取り組みを見て、テクニカルな問題以上に、「歩みを止めずに継続すること」が何よりも重要だと実感した。
私たちの団体は発足してまだ2年。24年後、日本中でLGBTQ+の人々が安心して利用できる医療やサービスを提供する団体へ成長できるだろうか?
今回対応してくださったRSATのスタッフ10名以上は、温かく、仕事に誇りを持っていた。そして何より、自分らしく働いている姿が印象的だった。
私たちも、こんな組織を目指したい。
仲間を集めながら、一歩ずつ前へ。
はたらくマイノリティの健康格差を打ち破るために。