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都市の深層(SIDE CORE展)

日本のストリートアートを代表するアートチームであるSIDE COREの個展。
今回の個展について、特設サイトに下記のような紹介があった。

誰かが「都会のあるビルの地下では、深夜になると暗渠となった川のせせらぎが聞こえる」と言った。実際にそこに訪れてみると、昼間は街の喧騒に遮られて聞こえないが、夜街が静まると確かにチョロチョロと水が流れるような音がする。実際のところ、これは下水管を流れる排水の音なのかもしれない。ただ真っ黒な地下にジッと佇んでいると、自分の頭の中に自分が入っているような、または寝ているけれど意識だけが起きているような感覚に陥る。すると「これは川の音である」という誰かのストーリーに引き込まれ、見えない地下水脈のとめどない広がりがぼんやりと頭の中に浮かんでくる。

暗渠というのは地下に埋められた、もしくは隠された川のこと。個人的に、これには少し前から関心がありました。
「渋谷駅がある場所はもともと渋谷川が流れていたが、それが暗渠化されており、今でも駅の下を川が流れている」というのを知り合いから聞いたことがあって、その話に何故かすごく惹かれたのです。
少し調べてみると、あらゆるところに暗渠があることを知って、なんだかとても不思議な感じでした。いつも歩いている道、本来ここには川が通っていた。でもそれは人間の手によって隠されて下水道などに姿を変えたりして、それでも尚、我々の生活の下で動いている。
夜、駅から家まで行く帰り道でもマンホールの下を流れる下水の音が聞こえたりする。
この気付きは、僕にとって「街の見え方」を変える体験でした。

それを踏まえてSIDE COREの活動にはシンパシーを感じていて、今回の展覧会でも新たな気付きを得られればいいな、という思いで鑑賞しました。


展覧会概要

名称:SIDE CORE 展|コンクリート・プラネット 
開催場所:ワタリウム美術館 + 屋外
開催期間:2024/8/12(月) ~ 2024/12/8(日)
展覧会公式サイト:

感想

1階でチケットを購入。展示会場は2〜4階にあり、まずは2階に上がる。
エレベーターを降りてすぐ、最初の展示があります。

《モノトーン・サンセット》 2024

立体作品と絵が飾られているが、作品の本来の色もよく分からず見にくい。
この照明はナトリウムランプといい、かつてはトンネル内の照明などでよく用いられていたものとのこと。
あぁ、確かに。言われてみればこの光の感じってトンネル特有ですよね。
展覧会の導入としての作品。

《夜の息》 2024

無数の車のヘッドライト。
この作品ではこれらを「夜景の最小単位」として捉えている。

《コンピュータとブルドーザーの為の時間》 2024

うねうねぐるぐるの鉄パイプの中を、鉄球が転がる音が響く。
電車が走る音や、マンホールの下を流れる水の音など、都市インフラをテーマにした作品。

転がる鉄球は下に設置されたバケツにボトッと吐き出され、それらは一定時間ごとにスタッフさんが回収するらしい。誰かがメンテナンスすることで成り立つインフラ環境が表現されている。

《東京の通り》 2024

工事現場に置いてある看板がコラージュされている。派手な蛍光色とピクトグラム。
普段は特別注目もしないけど、確かに東京の生活にはこれらのアイコンが溢れています。そう言われるとこの街の象徴かもしれないですね。
工事というのは街にとっての治療、もしく成長というふうに捉えられる。そう考えると東京が一つのデカい生き物みたいに思える。

そういえば先日、久々に渋谷で用事があって数年ぶりに行ったのですが、駅前の工事っていつ終わるんですかね?
僕の中ではこのいつまでも終わらない工事中の風景が渋谷駅のイメージになっています。
もう十分便利なはずなのに、尚も何かを求めていく人間の底なしの欲望みたいなものも感じます。

向かいにある《夜の息》のヘッドライトに照らされるような配置+展示されている壁がゆっくりと回っていて、光の反射など見る場所角度によって見え方が変わるようになっています。
街もそうですよね。「あ、駅の反対側ってこんな感じだったんだ」みたいな。

《untitled》 2024

街を象徴する建築物や配管などが描かれた絵。
描いたり消したりを繰り返して制作されているらしく、それらの行為が積み重なっている作品。
実際の道路や配管も修繕工事を重ね、建築物の壁は塗装や落書きが何層も重ねられて今の姿になっているということが再認識できます。

余談ですが、会場であるワタリウム美術館もちょうど外装工事中で、窓からも足場が見えました。展覧会の内容に合っていてナイスだなと。

《empty spring》 2020

渋谷の街を段ボールとか三角コーンとかがひとりでに動き回るポルターガイスト現象(実際は紐で引っ張ってます)がビデオに収められている。

そんなことより気になるのが誰もいない渋谷。深夜だろうが早朝だろうが渋谷から人がいなくなることはまず無い。
どうやって撮ったの?編集で消したのか?とか思ってキャプションを見ると、なるほどコロナの緊急事態宣言下で撮られたものだった。
改めて、僕らは日常を取り戻したんだなぁ。この時代でしか作れない作品。

4階の休憩スペースに置かれたバケツ。

底に穴が空いており、2階の《コンピュータとブルドーザーの為の時間》が見える。

《under city(2024年版)》2024

渋谷川の暗渠に足を踏み入れ、東京の地下空間を走り回る3人のスケーターの姿が収められた映像作品。
真っ暗な空間をガンガン進んで行って、背中に背負ったライトがそこを照らしていく。普段は見えない都市の隠れた姿を再発見するという意図を体現しているのか。

地下鉄の廃駅(上野の旧博物館動物園駅?)なども映っていたのでいくつかの場所の映像を組み合わせて作ったものだと思われます。

都内の路上では騒音問題などを理由にスケートが禁止されているところも多い。「街から追い出されたされたスケーターたちが、居場所を求めて地下空間を探索する」というストーリーにも見ることができて、スケーターというモチーフの特性が作品にマッチしているところもクール。

《ねずみくん》2018
《blown’ in the wind》2023

美術館の向かいにあるビルや空き地にも作品を展示している。
こういうふうに街の中にぽつぽつ作品があったら生活も楽しくなりそう。それが人とアートの理想的な距離感である気がします。

Chim↑Pom《いきのこる》2012

空き地にはChim↑Pomの作品もありました。
逃げてきた非常口の人。

まとめ

僕は東京という街が好きです。いろんな人が集まって、さまざまなカルチャーが混在している。そしてそれらが何十年分も積み重なって形成された猥雑な街。面白いことがたくさんとても魅力的です。
でもその中には掠れて見えなくなったものや、深く隠されたものが実は含まれているのです。そこに目を向けることで、初めて知る側面を見れて、理解が深まり、より一層街が魅力的になる。
この気付きこそが現代アートの良さであるとも思います。

鑑賞日:2024/9/28(日)
所要時間:1h
個人的評価:★★★☆☆


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