メモ:ブニャコフスキー予想と合成数を返す多項式について

素数と多項式の関係

ディリクレの算術級数定理というのがあります。どんな主張か簡単にいうと、「ax+bで表せる数の中に素数が無数に存在する」というもの(ここでaとbは1以外の公約数を持たず、xは整数)。たとえばy=16x+9のグラフを描くと、yが素数となるような点を無限に通るということです。証明は上のWikipediaのページに載っていますから興味がある方はどうぞ。

この定理を知ったときに、xの二次式の場合はどうなのだろう?と考えました。つまり、「a b c(もちろん公約数を1以外に持たない)を用いてax^2+bx+cで表せるような二次多項式は無限に素数をもつか?」という問いです。もしや算術級数定理の証明によって自明となっているのかとも考えましたが、実はこの問いが「ブニャコフスキー予想」の特殊な場合であるということを知り、同時にまだ証明がなされていない(だから「予想」なんですが)ことも分かりました。

ブニャコフスキー予想とは

ブニャコフスキー予想の主張は以下の通りです。

定数でない整数係数多項式 f(x)∈Z[x] が次の条件を満たすとき、f(n) が素数となるnが無限に存在する。
 1. f(x) の先頭係数が正
 2. f(x) は整数係数多項式として既約
 3. n が正の整数全体を動くとき、全ての f(n) を割り切るような 1 より大きい整数は存在しない

算術級数定理はブニャコフスキー予想の1次の場合ということですね。

逆にすべてが合成数となる既約な多項式はあるか?

算術級数定理の場合、「すくなくとも一つ素数が存在する」ことの証明と「無数に存在する」ことは同値となります。

ではちょっと視点を変えて、2次以上の多項式の場合を考えるにあたり、素数を含まない多項式、つまり、すべてが合成数(素数のかけ算で表せる)になる多項式というのはあるのでしょうか?

結論から言うと、余裕で存在します。

たとえば以下のような2次多項式を考えてみましょう。

nにどんな自然数を代入しても〇×〇の形になりますが、この多項式は因数分解ができてしまう、つまりもともとかけ算の形をしているので当然といえば当然なのです。このような多項式を「まだ割ることができる」という意味で可約といいます。

上の多項式は可約ではなく、これ以上因数分解することができません。このような多項式は既約であるといいます。しかしながらnにどんな自然数を入れても2の倍数、つまり偶数になってしまいます。その理由は右の変形をみればわかります。nが偶数であればn+1は奇数、逆も同様となり、よってどんな自然数を持ってきても(偶数)+(偶数)の形となるので偶数になります。

では既約な2次多項式のなかで、このように「すべてが偶数となる多項式」以外にすべてが合成数となる多項式は存在するのかと試行錯誤してみても、見つからない。おそらくブニャコフスキー予想の反例を含んでいるからなのだと思いますが、あったとしてもこれが反例として厳密に同値というわけではありません。

直感的にはブニャコフスキー予想は成り立ちそうな気がします。

2次式の場合、このようにくくり出してやることによって算術級数定理のような形に持ち込めば、f(n)は何となく素数を少なくとも一つはもちそうであります。ここで重要であることは、算術級数定理は素数が無限に存在することを言うだけであり、どのような場合に素数となるかは言っていないという点です。

3次多項式の場合

じつは似たような問題が京都大学の過去問でもあります。

これは既約多項式でありながらどんなnを代入しても3の倍数になってしまうので、素数であるのは3となる場合のみという面白い問題ですが、n^3がn^2であったら有限の解で済むのかすら不明な鬼畜問題となってしまいます。

ちなみにこの問題のアプローチは2つあります。一つはn^3にフェルマーの小定理を適用して3の倍数であることを示すパターンと、n(n^2-7)+9と書き換えればnが3の倍数でないときにn^2-7が必ず3の倍数となることを示すパターンです。

すべて合成数となる多項式に関する予想

これまで、すべて2の倍数となる2次式と、すべて3の倍数となる3次式を見てきました。さらに高次の場合を調べてみると、次のような問いが立てられます。

最高次数がkの既約な整係数多項式f(x)のうち、すべての自然数nについてf(n)が合成数となるようなものは、すべてk以下の倍数になるようなもの以外に存在するか?

例えば「すべてが7以下の数の倍数となるような既約7次整係数多項式」は容易に考えることができますが、それ以外の不在性を証明することは可能なのか?ということです。

おそらく誰かが考えたことはあるのでしょうが、ちょっと探すことがまだできていないので課題とします。「誰それが証明してるよ」ってのを知ってる方はお教えいただけると泣いて喜びます。

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