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ドイツトウヒ

去年の12月上旬、ふと思いついた言葉を妻に伝えた。

「クリスマスツリー、どうせなら本物を買おう」

植物が好きな妻は二つ返事。すぐに支度をして、西武新宿線でオザキフラワーパーク※に向かった。
※東京都練馬区にある園芸センター。日本最大級らしい

小学生の時「ホワイトデー、既製品より手作りがカッコよくない?」と思い立って、人生初めてクッキーを手作りした。
ホットケーキミックスに卵や砂糖を混ぜて焼いただけ。固いパンのようだった。でも僕は得意気だった。

それから十数年後、僕はお菓子の専門学校に進学し、今もお菓子に関わる仕事をしている。

あの時から僕の思考はあまり変わっていないらしい。皆と少し違うことをしてやろうという、ありきたりな発想。
でも、それが存外、人生に大きな影響を与えることもある。

2階建ての建物があり、1階がスーパーで、2階がオザキフラワーパーク。建物の外に広い敷地があり、そこもオザキフラワーパークだ。バジルやローズマリーといったハーブからトマト、ナスなどの野菜、チューリップやオリーブといった観葉植物など、多種多様な植物が並んでいる。

屋外の敷地のいちばん手前では、クリスマスフェアが開催されていた。
鮮やかな赤色のポインセチア、高さ40cmくらいのモミの木、トウヒなどがずらりと並べられていた。 

僕の「皆と少し違うこと」はオザキフラワーパークに見透かされていた。自分の発想の平凡さにはもう慣れている。

モミの木とトウヒの木は似ているが、葉っぱの形が少し違う。詳しい違いは分からないが、僕らの想像するクリスマスツリーの形に近いトウヒを買うことにした。

当然だけど、プラスチックでてきたクリスマスツリーと違い、1本ずつ形が異なる。真ん中の幹がうねりながら上に伸びているものや、途中で二股に分かれているもの。

並んでいるトウヒたちを見て一瞬「作り物のほうが形は綺麗だな」と思ってしまった。でも僕は本物が欲しかった。

提案したのは僕だが、選ぶのは妻に任せた。センスが良いからだ。ファッション、インテリア、旅行先から居酒屋に至るまで、あらゆるものを選ぶセンスが良い。

妻が選んだトウヒは、真ん中の幹が真っ直ぐで、左右の枝もバランスよく伸びていた。任せて正解だった。

次は鉢選び。トウヒを抱えて2階に上がり、鉢コーナーに向かった。オザキフラワーパークにはたぶん100種類以上の鉢がある。僕らが選んだトウヒのサイズに合うものだけで40種類以上はありそうだった。

発色の良いオレンジの陶器、軽量なプラスチック、表面がざらざらとした焼き物風、あらゆる材質、色、質感の鉢がずらりと並んでいた。

選んだトウヒを鉢に入れて、少し遠くから眺めてみる。鉢から出して、別の鉢を探す。こんな具合に着せ替えショーを20分くらい開催して選ばれたのは、濃い茶色の木の鉢だった。

木の鉢もそれぞれ木目の模様が異なるので、どの木の鉢にするかさらに5分ほど悩んだ。

選び抜いたトウヒと木の鉢を持ってレジに並んでお会計を済ませ、レジ袋に入れてもらった。

トウヒの枝が数本飛び出したレジ袋を持って、西武新宿線に揺られる。

家に帰って早速植え替え。鉢の底に砂利とネットを敷いてトウヒを入れ、隙間に以前買って置いてあった土を流し込んでいく。

テレビの脇に置いてある、キャンプ用の小さな竹のテーブルの上に配置。選んだのは僕じゃないけれど、我ながら良いセンスだ。

しばらくそのまま過ごして、クリスマスの前の週に飾り付けをした。

星は少し大い、でも、赤い実は本物みたいでとても馴染んでいる。トウヒを横目にM-1を観たり、紅茶とシュトレンを食べたりして、クリスマスシーズンを過ごした。

シュトレンは買ってきたものなので、次のクリスマスは手作りに挑戦してみたい。


我が家にクリスマスツリーが来た2024年。何気なく思い立って買ってきたが、来年、再来年のクリスマスもきっとこのトウヒと過ごすことになる。

僕の隣には妻がいて、テーブルには切り分けられたシュトレンが並んでいて、テレビは賑やかで、横にはトウヒが佇んでいる。

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