足し算のゲームデザインから脱却するには
ゲームを開発している最中、「この作品は本当に面白くなるのか?」と迷う瞬間は誰しもある。試作段階のゲームは遊びの幅も小さく見た目も地味だし、何より頭の中のコンセプトと実物の間には必ずギャップがあるものだ。
何か思ったように面白さが出せない...と不安に駆られ、絵やエフェクトなどの表面的な部分を先に作ってみたりすると、少し手応えが良くなったように錯覚する。そうして作り込む内に捨てるのが勿体なくなり、どこか微妙なゲームだと思いつつも引くに引けなくなる。
当初のコンセプトがどんどんボヤけていく中、何とか作品を仕上げようとあれこれ仕様を付け足したり、ステージやギミック、アイテムやスキルなどを増やしてボリュームを出してみたり。こうして確たる自信が持てないまま、中途半端に世に出ていくゲームは決して少なくないだろう。
ゲームは足せば足すほど何となく形になってしまう。グラフィックがそこそこなら作品としての体裁は整うし、最低限のコンテンツ量があればとりあえず人前には出せる。
それどころか、なまじ技術力やパワーがある作り手の場合、半端なアイディアでも面白く「してしまう」ことすら可能だ。一応プレイヤーに評価されているし、作っている側も何となく満足しているが、名作にはなれない...そんな足し算のものづくりを繰り返していると、コンセプトを練る力は失われていく。
どれだけ大きな作品であってもゲームデザインの基本は引き算だ。核となる遊びを注視し、まずは最小限の構成要素で面白さを実現しなければならない。試作段階で自信を得られないならそもそも土台から間違っている。
足し算にいくら時間を掛けてもコンセプトは磨かれない。それだけゲームというものは表面・外側が分厚いコンテンツであり、どこが「中身」なのか区別できていない人も多いように思う。
目に見えない面白さを分析し、十分な根拠を揃えてから前に進むのがゲームデザインというものだ。そのためには意識的に引き算を訓練していく必要がある。
要点だけでゲームを成立させる
僕は時々小さなゲームを試作し、動画にしてツイッターで共有している。なるべく短時間でゲームシステムを設計して引き算の勘を磨きつつ、アイディアの印象を周囲に評価してもらうためだ。
その中から1つ、ホラーゲームの習作として公開したものをnoteで紹介したい。音作りに少しこだわったので、可能なら音量大きめで見てもらえたらと思う。
コンセプトは水中の暗さ・息苦しさから生じる静かな恐怖感。いわゆる残虐表現ではなく、人間が本能的に感じる自然への恐れをホラーにしようと模索した。
既存のホラーゲームを分析してきた知識から、大事なのは上手にストレスを設計することだと考えた。数メートル先も見えない視界の悪さや、常に酸素が失われていく焦り(慌てて速く泳ぐほど減りやすい)が、プレイヤーの没入感を引き出す。
あくまで試作品なので、泡の表現はチープだし背景もほぼ無いに等しい。だがライティングや効果音を組み合わせれば水中らしい質感は十分表現できる。
試作に用いたツール(はじめてゲームプログラミング)は初心者向けのシンプルなもので、細かく絵を作り込むのには向いていない。そのぶん光の明滅や音で息が苦しくなる様子を強調したり、限られた選択肢の中でコンセプトを満たす工夫を込めている。
なぜこのツールを使っているかと言うと、シンプルゆえに素早い試作に向いているからだ。制約の多さも含めて発想の柔軟性を鍛えるのにちょうどいい。
ちなみに、はじめてゲームプログラミングのツールとしての方向性は「楽しくゲーム開発を学ぼう」といった感じで、あらかじめ用意された3Dモデルや音楽素材は明るく楽しげなものがほとんどだ。
そんな中でも魚のモデルはよく見ると無表情で不気味なところもあるし、素材をきちんと選べばホラーらしい緊迫感は作れると考えた。そもそもツールの癖を先読みしながらコンセプトを練っている訳だ。
実際のゲーム開発でも基本は変わらない。自分が掛けられるコストの上限、技術的な制約を視野に入れて計画を練る。時間や技術が足りなくとも工夫次第でいいコンセプトを立ち上げられるはず。
ところで今回の試作品だが、仮にきちんとした開発ツールで本格的なホラーゲームに仕上げるならどうするか?とイメージしてみるのも面白い。深海生物のグロテスクなデザインを取り込むなど、海の深淵をテーマにしてみたらいい雰囲気になるかもしれない。
試作の段階でしっかり手応えを得れば、作品としての構想は自然に広がっていく。土台の引き算を徹底することで、その上に載せる足し算の質も高まるのがゲーム開発というものだと思う。
引き算とは上手な手抜きである
足し算に頼らないゲームデザインを身に着けるには、なるべく作品を小さくする努力が欠かせない。だが現代の飽和したゲーム市場に埋もれないためには、何かと豪華な作りに偏ってしまうのが実情かもしれない。
恐らく今時のゲーム開発に求められているのは、低コストながら安っぽく感じさせない工夫ではないかと思う。ここでも1つ試作品を例に出して、自分なりに引き算のコツを考えてみたい。
ジョイコンを用いたスピーディなレースゲームを...というコンセプトなのだが、試作でコースまでしっかり作るのは面倒だったので、ひたすらリングをくぐるだけにしている。基本的には操作性をざっくり実験できれば十分だ。
ただ、レースゲームらしい画面に吸い込まれるようなスピード感は大事にしたかった。全体としては省力化しつつ、リングの中だけは雰囲気を作り込み、コンセプトが動画から伝わるよう意識している。
抽象的な世界観にするとグラフィックを細かく描く必要がなく、要点もはっきりして見やすいゲームになる。表面的なコストは抑えつつ、いかにアイディアの面白さをアピールできるかが鍵となるだろう。
正直に言ってしまうと僕は足し算が苦手なタイプの作り手だ。細かく作り込むのが面倒なので避け続けていたら、結果的に引き算のセンスが磨かれたところがある。
機転を利かせて大きな手間を回避しつつも、肝心な部分にはしっかり熱意を注ぐのが大事だ。選択と集中を丁寧に行えば、世の中のゲームはもっと無駄なく鋭く設計できるのではないか、としばしば感じている。
傑作を生み出すには最終的に作り込みも欠かせないが、表面的な足し算にばかり注目しても本質は見えてこない。ゲームデザインの勉強は、外側を削ぎ落として中身を見抜く眼を養うことから始まる。
※本文は以上となりますが、有料部分にちょっとしたオマケを付けています。既存のゲームを分析して勉強する際にも引き算の思考が役に立つ、という話を軽くまとめてみました。
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