機能性から考えるゲームグラフィック
ゲームを作っていく上で絶対に避けられないのがグラフィック(見た目)の設計だ。ここをいい加減にすると自分の作品になかなか注目してもらえないし、絵が安っぽいとそもそも開発モチベーションが上がらない人も多いだろう。
グラフィックは第一印象を大きく左右する。素人目にも良し悪しが分かりやすく、グラフィックの良いゲームと言えば見た目が派手で美麗なものを指す場合がほとんど。
だが、ゲームにおける視覚表現は外見を磨くためだけにある訳ではない。僕はデザイナーではないが、様々なゲームを作ったり分析したりしていく過程で、グラフィックの機能的な側面を強く意識するようになった。
マイナーなゲームを沢山遊ぶ人ならば、「見た目の雰囲気はいいが何となく分かりにくいゲーム」に出会ったことがあるはず。ゲームならではのデザインの役割を知らないと、遊びがぼんやりしてしまうという話をしていきたい。
識別性の高いデザイン
昔の単純なゲームと比べ、現代のゲームはグラフィックが綺麗すぎて見づらい...と感じることはないだろうか。フィールドが描き込まれ過ぎていてどこを見ればいいかパッと分からなかったり、エフェクトや演出が派手でゴチャゴチャしていたり。
例えば背景よりも前景を明瞭にする、というのは2D系ゲームのデザインの基本で、背景を暗い(または淡い)色合いにするパターンが多い。だが豪華なグラフィックを追求した結果、全てが色鮮やかになってバランス感覚が狂っているケースもたまに見かける。
プレイヤーが干渉できるオブジェクトは、他の物と区別しやすいようくっきり描いた方がいい。特にリアルな3Dゲームではオブジェクトが景色に埋もれがちで、大事なアイテムやギミックを見逃すようなデザインは避けたい。
絵の描き込まれた2Dアクションなら、キャラクターが乗る足場の部分だけ輪郭線をさりげなく強調するなど、地形の要点に一工夫が求められる。遊びに影響する部分とそうでない部分を分けて考えるのが大事だ。
リアルなグラフィックや細緻な美術を追求すると、こういった基礎を蔑ろにしてしまう傾向がある。明瞭で識別しやすい絵は背景から浮いて不自然だったり、あるいは露骨すぎて安っぽくなったりするので、美意識が強いとつい避けたくなるものだ。
だがデザインの巧みな作品は、くっきり見やすい絵を世界観に合わせて自然に馴染ませていることが多い。識別性と美しさを両立してこそゲームならではの良質なグラフィックと言えるのではないか。
他にもゲーム特有の絵作りのポイントとして、
・炎や電気、ダメージや爆発などを表すエフェクト類は情報の塊。エフェクトによって攻撃が当たったかどうかを明確にしたり、ダメージの種類や強弱を示したり、用途は多岐に渡る。
・3Dゲームではしばしばモーション(剣を振る、パンチするといったキャラクターの動き)が重要な意味を持つ。敵のモーションを見て攻撃の種類を判別しつつタイミングよく回避する...といったゲームも多い。個々のモーションが地味だと駆け引きが曖昧になってしまう。
...など、ゲームを構成するグラフィックの多くは記号的な意味を持つ。ただ見た目が派手で格好良ければいい訳ではない。
画面の中で何が起きているのかは意外と識別しにくいもので、開発者は膨大な量の情報を瞬時にプレイヤーに伝えなければならない。直感的なゲームは合理的に視覚に訴えてくるものだ。
グラフィックに意味を込める
ゲームを何本も遊んでいると、違う作品なのに何となく共通するオブジェクトがあることに気づいたりする。床にトゲが設置されているゲームが多かったり、ご褒美のアイテムがしばしば宝箱の中に入っていたり。
何故同じようなオブジェクトが繰り返し使われるかと言えば、一目で意図や機能が伝わりやすいからだ。トゲトゲしたものは触ると危ないと本能的に分かるし、宝箱はプレイヤーにとって良い物が入っていると期待できる。
経験の浅い開発者が作ったゲームにありがちなのが、「どれが危険なものか」「どれが嬉しいものか」がパッと分かりにくいパターン。STGで敵弾だと思って避けていた物体が、実は自機を強化するアイテムだったと途中で気づくことも。
だからデザイナーは収集アイテムをキラキラ輝く宝石にしたり、回復アイテムを美味しそうな食べ物にしたりする。こういった手法は古典的ではあるが、独自性の高い絵にこだわり過ぎると理解しにくいゲームになってしまう。
極論すればゲームのグラフィックは、ただの四角形や丸に色を塗るだけでも成立する。そこにわざわざ絵を割り当てるのは何故か?を1つ1つ考えていきたい。
他にも、グラフィックにはゲームの世界観やプレイヤーの目的をざっくり示す役割もある。例えばFPSで主人公がリアルな銃を持ち、周囲の味方が軍服に身を包んでいれば、この世界は戦争中で自分はそこに参加した兵士か何かか...とすぐイメージできるだろう。
素人の作るゲームはしばしばグラフィックに意図や一貫性がなく、プレイヤーは何のために何をしているのか、主人公はどういうキャラクターでどういう立場にいるのか...といった情報がぼんやりしている。それでもゲームは何となく遊べるが、意味の分からない作品は親しみにくいもの。
グラフィックがゲーム性を的確に伝え、納得感を生み出している好例としてスプラトゥーンを挙げておきたい。インクを撃つ・インクに潜るというゲームシステムは冷静に考えると不自然な部分もあるのだが、「人型に変身するイカのようなキャラクター」という独特のデザインがそれを一目で正当化してくれる。
ゲーム特有の個性的な嘘に説得力を持たせるのもグラフィックの重要な役目だ。ゲーム性を土台としつつ、適切なキャラクターや世界観を載せていくことで、全てが一体化したまとまりのある作品に仕上がる。
映像美と機能性の両立
グラフィック技術の進化は時に、描き込まれ過ぎて識別しにくい絵の原因になる。それだけコンピュータが生み出す映像には迫力があり、いつの間にか分かりやすさが蔑ろになってしまうのはある種の宿命と言える。
グラフィックの役割を映像美と機能性に分けるとすれば、前者は目に見える魅力であり、後者は目に見えにくい価値と言える。必然的に経験の浅い開発者は前者に偏りがちだ。
グラフィックはあらゆる意味でゲームの入り口になるもの。見た目の美しさはゲームを購入するきっかけになり、機能的なデザインはプレイヤーを素早くゲームの世界へと導く。
映像美と機能性がバランス良く両立することで初めてゲームの体裁が整う。プレイヤーがすんなりと遊びに没入できるよう、グラフィックが何の役割を果たしているのか常に意識したい。
※本文は以上ですが、有料部分にちょっとしたオマケを付けています。現代的なゲームのグラフィックの役割について、もう一歩踏み込んで語ってみました。
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