ゲームの面白さを保証する、試作の重要性とコツ

どんなゲーム開発もまずは小さな試作から始まる。頭の中にある漠然としたアイディアの種を試したり、事前に練った企画が本当に面白いか確かめたり...実際に手を動かさないと見えてこない部分が必ずある。
 試作の質がゲームの成否を決めると言っても過言ではない。上手にアイディアを膨らませれば遊びの土台が安定するし、逆にいまいちなアイディアは早い段階で切り捨てればいい。適切な試作手順を身に着ければ、理論上は決して駄作は生まれない。
 だが、現実のゲーム開発には失敗が尽きない。どこか中途半端だと分かっている作品をずるずると引きずり、作っている本人が自信を持てないまま世に出してしまうケースは珍しくない。

実際のところ試作はかなり難解な工程であり、確実に成功させるノウハウを持っている開発者は存在しないだろう。ゲームの面白さについて深く考え続ければ、嫌でもその壁の高さに気づく。
 僕はこういった小規模な開発こそがゲームデザインを学ぶ本質的な術だと考え、長いこと試作「だけ」を繰り返すようになった。あえてゲームを完成させず、ただただ土台となるゲームシステムと向き合い続けることで見える世界があるはずだと。
 この記事では今まで自分が作ってきた試作品を例に出し、ゲームの面白さを保証する能力とはどういうものかを言語化していく。試作とはまるで水を固めていくような不安定な作業であり、確実な道筋はなく、粘り強い思考が必須だということを最初に強調しておきたい。

どこまでも加速するレースゲームを

以前F-ZEROシリーズを遊んでいた際、レースゲームはどこまでスピードを追求できるのか?と想像してみたことがある。極端な速さがもたらす没入感は強い個性になり得るだろうと。
 そのためにはスピーディな展開に対応できる高い操作性が必要だと考えた。コントローラを傾ける操作は繊細で精度も良く、従来のボタン・スティック入力では難しい高速なレース体験が生み出せるかもしれない。
 このコンセプトを元に、まずは完成した試作品の動画を見てもらい、その後に実際の試作の流れを説明していきたいと思う。

まず手始めに、ジョイコンを傾けて走り回る操作をざっくりと実装した。大きく傾けるほど速度が落ちるが、水平に戻すとすぐ元の速さに戻る...という独特の仕様になっている。直線はなるべく高速に走り抜けつつ、カーブでは繊細な制御を可能にするためだ。
 これで速さと厳密さのバランスを取るつもりだったが、それでもなお全体的にかなり高速だったので、なかなか操作が追い付かない。スピード感を重視するコンセプトの時点である程度予想はしていたが、遊びが大雑把になりあやふやなゲームになっていた。
 かと言って、単純にゲームスピードを落とせば普通のレースゲームと大差ない。ゲームとしてより個性を尖らせるために、むしろ大雑把でも爽快感のある方向性にした方がいいのかも?と迷い始めた。

フィールドにジャンプ台を設置し、スピードはそのままに高く跳び上がる遊びを試してみた。立体的に開けた空間の方が障害物に引っ掛かりにくくストレスがないし、勢いよく空中を舞う感覚はなかなか派手で気持ちがいい。
 ジョイコンを左右だけでなく前後に傾けて、飛行機のように高度を調節する仕様なども考えた。地面を走る2D的なレースを土台に、アクセントとして3D的な空中の駆け引きを混ぜ、より自由度の高いゲーム性にシフトしようと模索した。
 今作のコンセプトである「スピードを追求する」「傾け操作を活かす」という大まかな軸はそのままに、あれこれ派生的な仕様を盛り込み続けた。試作においてはコンセプトを大事にしつつも、新しい面白さの種を貪欲に拾うべき...という持論からだ。

しかしいくら爽快感を増やしても何か見かけ倒しで、遊びとしては薄味な印象が否めなかった。本当の意味でスピード感を出すには、単に自機の動きを派手にするだけでは駄目だと考え直し、三次元的な遊びは結局全てカットすることに。
 レースゲームの原点に返り、ひたすら左右にハンドルを切る精度を高めていく、二次元的な遊びに落ち着いた。むしろ小刻みにカーブを繰り返す忙しなさが没入感を生み、自身のテクニックで能動的にスピードを追求していると感じられた。
 このように、一旦広がったアイディアを諦めるケースも試作においては珍しくない。根気よく色々な案を掘り下げつつ、不毛な仕様をばっさり捨てる潔さも求められる。

アイディアを磨くためには、どんどん仕様をいじって柔軟に試行錯誤するのが基本と言える。だが面白さに自信がなくても簡単に仕様を変えず、まずは自分がそのルールに慣れるまで待つべき時もある。
 今回のレースゲームの場合、速さに適応するため僕自身がプレイヤーとして習熟する必要があった。頻繁にゲーム内容を変更しているとつい見落としがちな部分だと思う。
 熱心に作り替えても駄目なら一旦寝てから遊び直す、といった心の余裕も大事だ。時々感覚をリセットしないと、自分のゲームがどうなっているのか客観的に見えなくなってしまう。

こうして試作品がだいたい出来上がってきたのだが、それでも最後まで「何か足りない」という違和感が拭えなかった。ゲームスピードが速すぎてメリハリがないというか、ひたすらスピーディに走り続けるとどうも疲れてしまう。
 あれこれ悩んだ結果、自機の速度に大きな「幅」を付ける発想に至った。最初は非常にゆっくりとした速さから始まり、コース上の加速アイテムを取ると段階的にスピードが増していく。速度に上限はなく、ミスせずに取り続けるとどこまでも加速していく仕組みだ。
 コースからはみ出た分だけ減速するので、その時の調子やプレイヤースキルに応じて自然と難易度が調節される。実力に合わせた幅広い遊び方が可能になり、ゲームの懐が一気に深くなった。

速さを大事にするコンセプトだからと言って、常に高速である必要はないと気づいた...とも言える。このように最初に決めた方向性に縛られて、思考が狭くなってしまうのは試作中にありがちな現象だろう。
 初期速度を大幅に低くしたことで、徐々にスピードに乗っていく手応えも明確になった。こうした紆余曲折を経てようやく遊びの土台(ゲームシステム)が仕上がり、自分でも納得のいく完成度が得られた。

最後にもう一本動画を添えて、本作の強いスピード感を強調しておきたい。このゲーム独自の尖ったコンセプトを体感してもらえたらと思う。

様々な遊びを1つにまとめる

僕は「1つの操作で複数の自機(キャラクター)が一斉に動く」という仕組みに可能性を感じている。一般的なアクションゲームの操作性はそのままに、多数の物体が干渉し合って多彩な展開を生み出す遊びが作れそうだと。
 大まかなアイディアは以前から頭の中にあったのだが、最近ようやく試作する機会があったのでnoteでも紹介しておきたい。

自機を増やして一箇所に集め、高く積み上げて協力して上に登る...といった方向性は最初から固まっていたのだが、そこからどう遊びを広げるかでしばらく悩むことになった。そのあたりの過程を少し振り返ってみたい。

多数の自機に号令を出して自在に操る、独特の操作感がこのゲームの土台となる魅力だ。一斉に動く物体の配置をどう整理するか考えるパズル的な思考が求められたり、複数のユニットで分担して作業をこなすRTS的な性質があったり...シンプルな操作に多彩な遊びを組み込めるポテンシャルがあった。
 段階的に自機が増えて攻撃が派手になっていくなど、プレイヤーの戦力が視覚的に強化されていく様も面白い。このように面白さの要素は明確だったが、それらが多彩すぎて、コンセプトを一本にまとめるのが容易ではなかった。

パズル要素を混ぜるなら、フィールドに散らばった複数のスイッチを同時に押させるといったギミックを加えればいい。様々な敵を倒して乗っ取り、次々自機を乗り換えていくなど、変化に富んだアクションゲームにすることもできただろう。
 単純に遊びの種をたくさん詰めればそれだけ面白くなるし、コンセプトの多様性からしてそれも間違ってはいない。しかしこれだとどんどん作業量が増えるし、愚直な足し算のゲームデザインに陥りそうだと予感した。

ゲームデザインの基本は引き算である、というのが僕の持論だ。今回の試作で言うと、先に述べた様々な楽しさの要素を、なるべく少ない仕様で一気に実現したいと考えた。
 そこで思い付いたのが「掘削」だった。このゲームでは多数の自機を一斉に動かすため、どうしてもその一部は暇を持て余してしまう。意識外の自機が適当に放った攻撃がじわじわと壁にダメージを蓄積させ、地形に穴が開く仕様にすれば、フィールドの形状が徐々に変化して多様な展開が生まれるのではと。
 複数箇所を同時に掘り進めるなど、あちこちに散らばった自機に自然と役割が生じ、RTSらしい分業の面白さが組み込める。自機の並びを整理して攻撃を一点に集中させ、狙ったポイントを素早く掘るといった、パズル的な遊びも成立する。

壁から自機のコピーを掘り出して、数の力でさらに強引に壁を掘れるようになる...という拡張の流れも面白い。自機が倍々に増えていくのが派手で楽しいし、最初は硬かった壁がゴリゴリ削れるようになると爽快だ。
 掘削システムにより様々な魅力が1つにまとまり、それらが相互に影響し合う奥深いゲーム性が出来上がった。単純に遊びを足していくより引き算を徹底した方が、土台となるゲームシステムに深みが生まれるものだ。

良質な試作を繰り返すには1つコツがいる。それはズバリ「手を抜く」ことだ。
 なるべく実装の難しい作業は避け、テンポよく色々なアイディアを試す。迷ったら簡単な仕様を優先し、最終的な仕様の数も可能な限り少なく抑える。上の多自機ゲームも実はそれほど難しい処理は書いていない。
 完成品としてのゲームなら凝った作りの方が喜ばれるが、試作の世界はむしろ逆。雑な作業だけで魅力を引き出すべきだ。作り込まなければ面白くならない試作品にそれ以上の伸び代はない。

ひたすらゲームの土台だけを磨く

ゲームデザインの勘を身に着けたいのであれば、単純なプログラミングを繰り返すことをお勧めする。小さなプログラムで色々なゲームシステムを試作すれば、ちょっとしたコードの変化で楽しさが増減するのを密に体感できる。
 あまり高度なプログラミングに時間を使うとゲームデザインから離れてしまうので、プログラマーを目指すのでなければ程よく手を抜くのがいいと思う。必ずしも作品として綺麗に仕上げる必要はない。

試作の基本としてよく言われるポイントだが、絵やエフェクト、効果音などはなるべく後回しにした方がいい。表面的な手触りを最初に作り込むと「面白くなった」と錯覚してしまい、ゲームの本質が見えなくなるからだ。
 ただ、こういった作業を試作中にやってはいけない訳でもない。例えばリズムを楽しむゲームなら、早い段階で効果音や音楽が最低限必要になるだろう。方向性に合わせてかなり柔軟に手順を変える必要があり、実は想像以上に判断が難しい。

大事なのはそのアイディアの本質...つまり、それがなければゲームが成立しないような、根本的な要件を見抜くこと。コンセプトを実現するために必須の要素だけをなるべく速く試したい。
 試作とは「他と違う新しさ」を確認する作業であり、自分のゲームにしかない独自性が本当に面白いかどうかを判断するステップだ。既存のゲームで試せるようなパーツは極力実装すべきではない。

改めて強調するが、試作というのは本当に難しい作業だ。アイディアをゼロから立ち上げる過程には迷いが多く、あらゆる思考が不安定で答えがはっきりしない。
 結局のところ、試作の成功率を高める最大のコツは粘り強さである。経験や知識を積み上げてなお、新しいアイディアを仕上げるために最後はただ悩むしかない。
 結果が出ないことを恐れる必要はない。むしろロクに前に進まない一見無駄な作業こそが、本当の意味で試作の質を高める有益な時間の使い方なのではと。


※本文は以上となりますが、有料部分にちょっとしたオマケを付けています。試作の質をさらに高めるために、「1つのアイディアを繰り返し作る」重要性を語ってみました。
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