ゲーム試作振り返り:夢の中を再現する
僕はちょくちょく小さなゲームを試作して、ツイッターで動画を上げている。普段は完成品の動画のみ公開するのだけど、今回はいつもより細かく開発過程の動画をアップして記録を残してみた。
それらをnoteで振り返り、アイディアをまとめていく過程を整理するのがこの記事の趣旨だ。ゲームを試作する際のコツなどもいくらか解説できればと思う。
今回の試作のテーマは「夢の中を再現する」こと...と言っても分かりにくいので、少し背景を説明したい。
僕は昔から夢に色々な魅力を感じていた。人が寝ている間に見る映像は荒唐無稽で、普段の自分では思いつきもしないものが次々現れる。夢の中で自身が別人のような振る舞いをしているケースも多く、ちょっとした映画やアニメを楽しんでいるような気分になることもあった。
夢の世界は奇天烈で常識が通用しない。独創的なアイディアを得るきっかけとして何か役に立つのではないか、と以前から考えていた。
僕が見てきた夢の中で特に印象的だったのが「景色が徐々に変化する世界」だった。同じ場所に立っているはずなのに、いつの間にか周囲の地形や建物が変化し、形状が変わったり質感が別物になったりする。
奇妙なのはその変化の瞬間を認識できない点。さっきまであそこの地面は茶色かったはず...と違和感だけははっきりしているのに、いつ色が変わったのかが分からない。そんなことが連続して起き、気付けば全く別の空間になってしまっている。
夢は脳の記憶や想像から生み出されるものだから、情報が不安定で落ち着かないのだろう。この不可思議な感覚をゲームで表現したら独特の体験になるのでは?と考えた。
地形が変化する瞬間を認識しにくくする手法は色々考えられる。画面外の見えない場所を書き換えるか、画面内であっても頻繁に変化が起きれば(本当に重要な変化を紛れ込ませれば)プレイヤーの認識が追い付かないはず。画面をボヤけさせたりチラつかせたり、視覚を混乱させる手もあるかもしれない。
とりあえず最初に実装したのは、地形がランダムに変化する処理。画像を次々置き換えて不安定な世界をざっくり表現してみた。
自機に近いタイルは画像が固定されるので、何となく自分の周りにだけ道が出来上がっていくイメージだ。外側に行くほど忙しなく地形が変化し、意識の外にある部分が安定しない脳内の不安定さを表現している。
少し話が逸れるが、昔のゲームなどでたまに見かけるバグった画面はちょっと面白い。適切な画像が表示されず、地形がぐちゃぐちゃになっているのを見たことはないだろうか。
普通のゲームならまず使わない表現をあえて取り込む...というのも今回模索していた方向性の1つ。最終的にこの案はボツになるのだが、夢の支離滅裂さを徹底して表現するなら何か相性がいいのではとも思う。
その後も色々な画像を表示して、並べた際の相性などを見ていった。最終的には、四角い輪郭のくっきりしたタイルが一番扱いやすくてまとまりが良い、という方向でだいたい落ち着いていく。
マップを歩き回る目的を設けるため、宝石を散りばめて探索遊びのように仕立ててみた。プレイヤーの目線をアイテムに誘導し、少しでも地形が変化する瞬間を意識しにくいようにする意図もある。
ここまではテンポよく試行錯誤できていたのだが、だんだんと作業が行き詰まり始めた。どうも狙ったコンセプトが実現できそうにないなと。
いつの間にかフィールドの形状が変わっている...という驚きを作りたい訳だが、どうしても地形の変化が地味でそれほどインパクトが出ない。かといって素早く変えすぎると見た目が滅茶苦茶になってまとまりがない。
実際に自分で操作して歩き回る分には「あれっ、さっきまでここを通れたはずなのに...」みたいな困惑があって、じわじわと違和感を覚える不思議さは出来上がっていた。しかし動画で見るだけだと要点が分かりにくく、アイディアの価値がストレートに伝わらない。
地形の変化をより認識しにくくなるよう、画面がボヤける処理なども実装したが、表面的な印象を変える程度にしかならない。僕はこのコンセプトを諦めて作業を中断することにした。
こんな感じであっさり試作を終えるパターンは珍しくない。ある程度作り込むとつい捨てるのが勿体なくなりがちだが、根本的に無理があると分かったら素早く切る判断力も大事だ。
試作から離れて何日か経った後、ネット上でとあるリアルな3Dゲームの動画を見つけた。直接カメラで撮影しているような臨場感を出すためか、常に画面が少しずつ揺れていて落ち着かない。独特な映像だった。
カメラを不規則に動かすと操作性などが落ちてしまうので、基本的にゲームデザインにおいては悪手と言える。ほとんどの作品ではカメラが安定しており、どれだけグラフィックがリアルでもこれはゲームなのだと一目で分かりやすい。
だからこそこの3Dゲームは、わざと画面を不安定にして独自のリアリティを出そうとしたのだろう。「これは何か面白い」と僕の脳は直感した。
その時ふと、一度ボツにした先ほどの試作品が頭の中に蘇った。カメラがふらふらと揺れたらフィールドの見え方が大きく変わるのでは?と。
歩き回る操作に連動してカメラがダイナミックに動き、画面外にはみ出た地形を次々書き換えていけば、もっと速く明確にフィールドを変化させられる。それでいて変化する瞬間そのものは直接目に入らない。これなら行けるかもしれないと予感し、すぐに試作を再開した。
フィールドが書き換わったことがすぐに分かりやすいよう、タイルの画像選びなどもさらに工夫した。ここで一気に試作のコンセプトが現実味を帯び、開発スピードとモチベーションもアップ。
ネットの動画から得た「カメラが揺れる」という着眼点と、それを全く別のゲームに転用する発想力が功を奏した。普段から様々なゲームを分析したり、色々な作品の案をストックしておくと、このように予想外の所でアイディアの結び付きが起きやすい。
ゲームの土台がほぼ安定し、その後は表面的な作り込みにシフトしていった。特にBGM(ピッチを波打たせて不安定な雰囲気を表現)を付けたことで一気に世界観がはっきりしたように思う。
いまいち効果が感じられないからとボツにした、画面がボヤける処理も復活させた。不安定なBGMと相まって独特の雰囲気を作るのに一役買っている。
こういった具合に、一度捨てた素材を再利用するケースはゲーム開発において珍しくない。そう考えると捨てることに前向きになれるし、ネタの蓄えが多い方が試作の柔軟性は増す。
こうして「夢の景色をゲームで再現する」というコンセプトがざっくり実現できた。今回は手早く実装できる2Dで試したが、3Dゲームにするとより没入感のあるリアルな夢の世界を体験できるかもしれない。
ちなみに今回の試作品はあくまで地形生成だけなので、これ単体だとゲームとしては成立していない。他の一般的なゲームデザインと掛け合わせることで効果を発揮するだろう。特にローグライクなゲームは「なぜ地形が毎回変わるのか?」の理由付けが割とあやふやなので、夢の中だからと言っておけば世界観に説得力が出るかもしれない。
また「見えない箇所がいつの間にか変化している」という仕組みからアイディアを発展させられそうだとも感じた。プレイヤーが見ている・見ていないことをトリガーにしてギミックが発動する、パズルゲームなども面白いのではないだろうか。
必ずしも夢の再現にこだわる必要はない。普段と異なるアプローチで試作した遊びをどんどん派生させれば、ゲームデザインは豊かに広がっていくはずだ。
※本文は以上となりますが、有料部分にちょっとしたオマケを付けています。目先の完成度にこだわらずあえて雑に作る、不安定な試作の重要性を語ってみました。
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