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「最低賃金」は意義があるのか?

毎年10月に最低賃金が改訂される。

改訂と言っても基本的には賃上げの方向になる。
(というか、下がったことはないらしい)

最低賃金は企業に課せられる義務である。その目的と意義は「最低賃金法」に以下の通り記載されている。

 この法律は、賃金の低廉な労働者について、事業若しくは職業の種類又は地域に応じ、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

最低賃金法第1条

なお、既定の最低賃金を下回る金額を労働者が了承したとしても、法律上は容認されない。詳しくは厚生労働省の「最低賃金制度とは」などを参照いただきたい。


 
前述した最低賃金の目的と意義をご覧いただくと、「(略)~労働者の生活の安定」までは誰もが納得できると思う。

人間が社会で生きるためにはお金という共通対価が必要であり、世界情勢や経済状況によって同じ賃金(時給)のままだと生活できないことはある。

要は「今の給料じゃ食っていけない」ということであり、それを社会で保障するための策として最低賃金を上げることでカバーするのは分かる。

しかし、終盤の「労働力の質的向上」「事業の公正な競争の確保」「国民経済の健全な発展」となると意見が分かれると思う。

これらは理想であることは確かだが、最低賃金を上げる話に限らず、賃上げすることが人材育成・競争活性化・経済発展につながるかは疑問である。



 
そもそも、最低賃金も賃上げもいわば「昇給」である。

「昇給」とは、その労働者の成果やスキルなどを鑑みて、現状および今後を見据えた価値ある存在として行うものである。

それはときに役職や職務などの肩書や地位として、目に見えるカタチで対外的に公開することで当人の意欲につなげることも期待する。

しかし、最低賃金のように国が規定するボーダーラインを下回ると、自動的に昇給するという制度があると、「何もしなくても昇給する」という話になってしまう。労働者からすれば ”棚からぼたもち” と言える。

実際、労働者の中には「賃上げは当たり前」と勘違いしている人はいる。

これは最低賃金だけの話ではない。就業規則で毎年昇給する体制を謳っている企業においても「〇月になれば黙っていても昇給する」という風潮になってしまう。

最低賃金は「労働力の質的向上」という目的や意義があるとすれば、それは実際に果たされているのかを検証するべきではないか?


 
次に「事業の公正な競争の確保」だ。

これは簡単に言えば、人件費を過剰に切り詰めて、商品やサービス単価を下げることがあってはならないということだ。その予防として最低賃金を定めているという話である。

確かにこれは有効であると思う。事業における経費の大半は人件費だ。それを何とか削ろうとするのは、産業革命以降の歴史を振り返れば全世界で行われてきたことであり、その抑止力は必要である。

しかし、人件費を切り詰めることで公平な競争は保たれても、毎年のように最低賃金を上げようとなると今度は「人員数の削減」という手段をとらざるを得ない。

前項の「労働力の質的向上」以前に、労働力を削減するという話なのだ。
人手不足という社会問題がある一方で、人件費を抑制して事業継続を図りたいということもまた、矛盾しているようだが現実である。

こう考えていけば、最低賃金の目的たる「労働力の質的向上」と「事業の公正な競争の確保」は成立しにくいと言える。それころか「労働者の生活の安定」だって怪しい。



となると、最後の「国民経済の健全な発展」はもっと怪しい。
発展は可能かもしれないが、健全どころか傷だらけの発展になる。

しかし、発展とはそういうものとも言える。

「このくらいの給料は最低、確実にもらえますよ」と保障されているよりも「このくらい頑張れば、もっともらえますよ」というハングリー精神あってこその発展と言えまいか。

それが労働者の質向上にもつながり、業界として本来の意味での競争が行われるのではないか。そして、その結果として経済が発展していくサイクルになっているのではないか。

――― と、偉そうに言ってみたが、私も経営や運営の立場になる前は、雇用れている身として「長く働いていれば給料が上がる」という旧石器時代のことを考えていた時期はあった。

そのような甘い考えをしていた時期も含めて現代を振り返ると、最低賃金を確約すること、毎年のように最低賃金を上げることは、長期的な視点から労働者および経済のためになっているのか疑問である。

それよりも、まずは「やらなくてもいい仕事」「今までどおりの働き方」を撤廃していったほうが良いのではないかと思う。

特に日本はまだまだ無駄が多い。やらなくてもいい仕事に価値を見出だしたり、誰よりも(無駄な)仕事をたくさんやることに優越感をもっている場合ではない。そんなことをしても、生産性は上がらないし、それが引いては賃金につながることも決してない。

最低賃金による保障も大切であるが、自分たちの足元を見直すことも大切であるという、当たり前の話をして本記事を締めることとする。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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