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母は椿の花が好きだった

次の講習は布で作る和菓子セット。
今までのセットは桜餅や柏餅が入っているので、季節がずれるな、
せっかくだから冬を感じる和菓子にしよう、
と新しい作品を考えることにした。
ネットで和菓子、冬、と入れて画像を検索する。
美味しそうな和菓子が並んでいる中で、あ、これだ、と思ったのが「椿」

椿。
前は椿の描かれたものや、椿の形の巾着や、椿がらみのものをよく買ったものだ。
それは母が好きだった花だからだ。
母は今も健在だ。
遠い故郷の施設で暮らしている。

脳梗塞で倒れたのが3年前の夏。
病状も落ち着いて、やっと会えるとなった時は半年後のちょうど母の誕生日だった。
母に「何か欲しいものある?椿の描いてあるものにしよっか」というと、
「別になんでもいいよ」ときょとんとした顔で言うのだ。
「母さん、椿好きだったよね?」と言うと
「そうじゃったかいねえ。
忘れた」と無邪気な顔で笑いながら言った。

母は脳梗塞でかなりの記憶を無くしていた。
母の場合、人や物の認識や常識的な記憶は残っているけれど、体験したことがすっぽり抜けている。
本人の小さい頃の思い出も、全然思い出せないらしい。
母から聞いていた母の過去を私が話すと、母は「そうじゃったかね」と、時に涙を流しながら聞くのだ。

「母さん、ゴッホも好きだったよね」
ある時私がそういうと
「ありゃあ、好きよ」
と答えた。
「え?ゴッホは覚えてるの!」
「あんたがようゴッホの葉書くれたよねえ、
葉書にも『母さんの好きなゴッホの絵です』って書いてあったし、
好きなんじゃろうなあと思った」

もしかしたら後からできた記憶が、母の好みと合わさって出来上がった認識なのかもしれない。
じゃあ、椿もこれからたくさん送ってあげれば、記憶が上書きされるかもしれないなあ。
きっと母の好みは、あの頃と変わってないと思うのだ。

このタイトルも、そのうち「母は椿の花が好き」になるかもしれない。

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