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人事のためのキャリアコンサル_008:人事のフリーランスが生き抜いていくために必要なものは?
「人事のためのキャリアコンサル」とは、"人事"プロフェッショナルの方々のキャリア支援を目的に、架空の人事経験者のプロフィールを元に、「もし私だったらこんなアドバイスをする」をまとめたコンテンツです。
キャリアサマリ:
30歳、男性
日本語ネイティブ、英語ビジネス初級レベル
新卒で大手IT企業で新卒採用/中途採用経験、その後は数社のスタートアップ企業での採用/育成/制度設計/労務など、幅広く人事業務を経験
現年収700万円
課題:
今後のキャリアの選択肢として独立を考えているが、フリーランスとして生き抜いていくためには何が必要か?
キャリアアドバイス:
自分自身が独立して約4年経ちますが、この間、自分と同じように人事としての経験を活かしてフリーランスとして働いている方々にも数多く会ってきました。自分の経験+その方々から伺った話を総合して、「人事のフリーランスとして生き抜いていくために必要な要素」を考えてみます。
結論、以下の3つの要素が重要だと考えています。
経営者/事業責任者/人事責任者との広くゆるい繋がり
自分の専門外の領域でも課題解決をする「どうにかする力」
フィードバックをもらえる環境づくり
一つずつ説明していきます。
1.経営者/事業責任者/人事責任者との広くゆるい繋がり
まず、「生き抜く」と言うことを、「継続的に案件を受注し続けること」と考えた場合、最も難しいのが「継続的に"新規"の案件を受注し続けること」です。
業務委託契約の場合は契約期間が区切られており、契約期間満了を待たずに契約終了になることも頻繁に起こり得ます。そのため、既存の複数の案件が終了するタイミングが重なったりすると、それはまぁ大変なことになります。(自分の場合はこの4年で2-3回ありました・・・)
そのため、常に新規の案件を獲得できる状態をキープしておく必要があります。新規の案件を獲得するためには、例えば以下のような手法があります。
アウトバウンド
電話/メール/問い合せフォームなどインバウンド
SNS/ブログ/動画メディアなどのコンテンツ発信パートナーシップ
代理店契約/案件プラットフォームへの登録などリファーラル
知人や既存顧客からの紹介ネットワーキング
コミュニティ・イベント参加/主催、口コミなど
私の場合、一通り全部手をつけてみて、最もインパクトがあったのは、リファーラル&ネットワーキング、つまり人の繋がりでした。
人事に関する案件を発注する立場の視点で考えた時に、依頼する or しないの判断軸の中に、実績、経歴、スキル、商談時のプレゼンテーションなどもありますが、詰まるところは「この人は信頼できるか?」に尽きると思っています。
人事業務の特性上従業員の方々の個人情報に触れる機会があったり、「こうすれば必ず成果が出る」のような必勝法がない領域の仕事が多かったり、人の人生を大きく左右する意思決定に携わる仕事があったりします。
いかに素晴らしい経歴・実績があると評判の人だったとしても、直接会ってみて「信頼できるか不安だな・・・」と少しでも思われてしまったら、お仕事を依頼してもらえる確率はかなり下がるでしょう。
その点において、プライベートや仕事の繋がりがある方々から信頼のもと紹介をしてもらえる「リファーラル」と、自分の人間性を多面的に知ってもらえる「ネットワーキング」が、人事の仕事をご依頼いただくための手法としては最も有効です。
2.自分の専門外の領域でも課題解決をする「どうにかする力」
どんな仕事でも、仕事ごとに繋がりがあります。
例えば、中途採用のスカウト媒体運用代行の仕事を受注したとしましょう。一つの切り口から仕事に携わっていても、いろんな課題が見えてくるはずで、深掘りして考えるとシンプルに「採用」だけの課題ではないことが大半です。
エントリーから書類選考の結果が出るまでの時間が長い
人事から現場にオーダーが出しづらい関係性になってる?
役員が採用にコミットしておらず現場の中で採用業務の優先度が低い?人事面接通過率と比べて、現場面接の通過率が低い
人事と現場で相互フィードバックができる関係性が作れてない?現場面接での選考辞退率が高い
人事が現場面接の実態を把握できていない?
面接官へのトレーニングやフィードバックができてない?内定承諾率が低い
面接官ごとに申し送りができてない?
人事から最終面接官にオーダーが出しづらい関係性になってる?
オファー面談の質が低い?入社後の早期離職率が高い
内定〜入社・オンボーディングのフローが整備できてない?
面接で伝えてる内容と入社後の業務/就業環境にギャップがある?離職により同じポジションばかりすぐにオープンする
特定の部署のマネージャーのマネジメントに問題がある?
そもそもこの課題に人事が踏み込めていない?
「自分の仕事は『スカウト媒体でスカウトを送付して、一次面接をセットすること』」と自分で定義すればそれで済む話なんですが、バリューを出す=信頼を獲得してクロスセルやリファーラルを獲得するためには、一歩踏み込んで提案をしていく必要があります。その際に、「採用しかやったことがないから」というスタンスだと、その後もずっと同じ価値提供しかすることができないままです。
もし上記のような課題に直面した場合、経営陣や人事と経営/事業/組織の理想像や課題感をヒアリングして、インタビューやサーベイを通じて現状分析をして、課題の仮説を立てて、解決施策を考えて、実行・検証を繰り返して・・・と、がっつり入り込むことを考えると、「やったことない」仕事となるでしょう。
しかし、例えば、自分が以下のようなアクションをすることを提案することも可能です。
面接に同席して、候補者と面接官の発言録をメモしたり、次回面接官への引き継ぎ内容を考えて、人事/面接官にフィードバックをする
面接官の会社/仕事説明の質をある程度担保するために、面接時に使用するための会社説明資料を作成する
面接の申し送り内容から、オファー面談の内容を考えて、オファー面談担当者に渡す
入社後から試用期間満了までの間の定期的な面談に同席、または、代行をして、レポートを作成する
採用に関わった候補者の退職面談に同席、または、代行をして、レポートを作成する
「スカウト送付代行」から一歩踏みこんで、経営や人事が「やった方がいい」と思っていて手が回っていないことを想像した上で、自分の手持ちのスキルで貢献できそうな内容を提案する。成果が出れば、他の課題解決の提案の余地が生まれるかもしれないし、他社に対して実績としてアピールができますし、信頼を獲得してリファーラルの可能性も生まれてきます。
フリーランスは正社員とは違ってマネージャーが存在しないため、誰かが自分に対してストレッチアサインをしてくれません。そのため、「経験したことある仕事」だけしかやらないスタンスだと、成長機会が湧いて出てくることはほぼありません。やったことがない仕事でも「どうにかする」スタンスは、フリーランスとして生き抜いていくためには必須だと思います。
3.フィードバックをもらえる環境づくり
上述の通り、フリーランスにはマネージャーが存在しません。そのため、「これ、間違ってるよ」「これ、やめた方がいいよ」などのフィードバックをもらえる機会はほとんどありません。
有難いことにお客様からフィードバックをもらえる機会もたまにありますが、最終的に契約終了という形のフィードバックをもらうこともあります。その上、なぜ契約終了なのか?についても、自ら求めに行かない限りは言っていただけないこと、または言っていただけても本当の理由かどうかは分かりません。
フィードバックがもらえない、ということは、改善活動ができない、ということで、これは一人で生き抜いていかなければいけないフリーランスにとっては致命的です。フリーランスは、自ら「フィードバックをもらえる環境」を作らなければ、基本的には誰かからフィードバックをもらえないと思っておいた方が良いでしょう。
では、どのように「フィードバックをもらえる環境」を作ればいいのか?
まず、大前提は自分の聞くスタンスを見直すことです。
仕事・プライベート問わず、誰かから耳の痛いフィードバックをもらった時に、不機嫌な態度を示したり、最後まで話を聞かなかったり、途中で反論したりしたら、おそらくその人からは2度とフィードバックをもらえることはないでしょう。
単純に歳を取れば取るほどフィードバックをもらえる機会自体は減っていくのに、その上このような態度を取り続けていたら、気づかないうちに誰からもフィードバックをもらえない状態になります。しかも、不快なことを言ってくる人が周りからいなくなると、ある意味自分にとっては心地よい環境なので、より一層自分を振り返ることを怠ります。
とにかく「誰の話でも、しっかりと最後まで話を聞く」、これはフィードバックをもらえる環境の下地づくりとして最も重要なことです。
次に、お客様と細かく期待値調整をすることです。
仕事のスタンス、言動や考え方の自分では気づかない癖などについてのフィードバックは、お客様と公私に渡って深い関係を築かない限りはなかなかもらえることは難しいです。ただ、お客様からは、アウトプットに対するフィードバックをもらうことはできますし、求めるべきだと考えます。
頂戴している報酬に対して、自分のアウトプットは期待以上なのか、以下なのか?また、期待以下だったのであればどこを改善すれば、期待を超えることができるのか?
継続的に仕事をしてくためには、このシンプルな質問を、高頻度で、かつ、定期的に行っていく必要があります。この質問を怠ると、「最終的に契約終了という形のフィードバックをもらうこと」に繋がります。
最後に、チームを作ることです。
私が所属するSTARMINEという組織は、正社員/副業/フリーランスなど、さまざまな契約形態の「人事」プロフェッショナルが在籍するチームです。コロナが蔓延する直前に、代表の宮川と現在の形のチームを想像しながら、一緒にチームを作ってきました。
約4年間の間で、細かいフィードバックは数えきれないほどもらえましたが、耳が痛くて辛辣、かつ、自分にとって修正が必要だと心から思えるフィードバックをもらえた機会が二度ありました。もしチームを作っていなかったら、もしかしたら死ぬまで自分のダメなところに気づけなかったかもしれない、と思うと、チームの大切さをその都度実感してきました。
数十人、数百人のチームを作るのは難しくても、少なくとも自分の弱みを補完してくれるようなパートナー、相乗効果でお客様に価値提供できる強みを持っているパートナーと一緒に仕事をしていき、なんでも率直に言い合える関係性を作っていくことをオススメします。