「トッド人類史入門」を読みました。
フランスの歴史人口学者であり家族人類学者のエマニュエル・トッド氏の「我々はどこから来て、今どこいるのか?」という著作を理解するための入門書です。
慶応義塾大学教授で思想史研究の片山杜秀氏とあの元外務省分析官でロシア駐在の外交官だった佐藤優氏の対談やトッド氏へのインタビューをまとめた本で、目から鱗がボロボロと落ちる内容で読後になぜか嬉しくなりました。
本書に多くのことについて新しい視点を与えて貰いましたが、印象に残っているほんの一部を、ご紹介します。
世界は地域毎に家族類型が決まっており、これは何年にもわたる地域による生活形態の違いによるもので、ヨーロッパの中でも単一ではないとのこです。
ざっくり分けると核家族と直系家族と共同体家族(本ではもう少し細分化されています)に分けられる。
核家族は成人後独立した世帯を持ち、遺産相続は親の遺言で決定する地域(英米など)と子供たちの間で平等に男女差別なく分配される地域に分かれる。(フランス北部、スペイン、イタリア南部など)
直系家族は、長男が結婚後も親と同居し、すべてを相続。親子関係は権威主義的で兄弟間は不平等。(日本、ドイツ、フランス南西部、スウェーデン、ノルウェー、韓国)
共同体家族は男子が全員、結婚後も親と同居、家族がひとつの巨大な共同体となり、相続は兄弟間で平等、親子関係は権威主義的。(中国、ロシア、北インド、アラブ、トルコ、イランなど)
概ね、核家族⇒直系家族⇒共同体家族という形で進化していくとのこと。
日本は直系家族類型なので親子関係は権威主義的で親の言うこと聞かなければならないという基本的な心情を持っているが、そこに戦後、アメリカの核家族式の考えが持ち込まれた。
その結果、日本は核家族の類型に変化したかというと、そう簡単に変化するものではなく、核家族の思考方法が日本の社会にフィットしない矛盾に苦しんでいると指摘されています。
たとえば親の介護の問題。老いた親を放って置けない、自分の生活を犠牲にしてでも親を介護するのが子供の務めだと日本人は考えがちで、権威主義的な家族類型の下で育つ日本人はそう考えてしまう。
一方で核家族類型では親が老いたら老人ホームに送り出し、自分の生活を犠牲にすることはない、と考える。
個人の幸せを追求するのが当たり前という英米流の核家族類型の考え方と老いた親を放って置けないという直系家族類型の心情とのせめぎあい合いが日本人を苦しめている、などなど。
又、ロシアのウクライナ侵略戦争についても、プーチンの演説などを紹介していて、ロシアの見方は「伝統的家族観に反する悪魔崇拝を行っている西側を相手に正しいキリスト教(正教)的価値観を保持するロシアが戦っている」「西洋が自分のルールを世界全体に強制することで現在の世界の混乱がおきている」、プーチンは狂っている訳ではないと。
他にもアメリカがドイツを潰そうとしてウクライナへの戦車の供与を強力に後押ししている、自分がアイデンティティを保つには他者が必要でアメリカは大西洋と太平洋に面し、自国に脅威を与える他国がない。よってアイデンティティを保つために自国内で他者をみつける必要があり、それが、マイノリティ(黒人)であると。
他にも多くの指摘があり、「なるほど」と単純に納得、述べられていることの本質を深いく理解できてないかも知れませんが、今まで自分に無かった視点を与えて貰え、久々に脳みそが喜びました。
もう一度読んでもっとよく理解したいと思えるお薦めの本です。