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つくづくブランドの価値って何だろうと思うことがある 私の家のダイニングテーブルには30本入りの青汁が長方形の箱に入れられたまま置いてある 飲む人はそこから一本取っていくが、箱だから中が見えない。 最後の一本を飲む人が言えばいいのに、手で探ったら空っぽだったということが何回もあった。 そこで、母が考えたのが、箸立てのようにカップに青汁の袋をさすというやり方だ。 それで、何本残っているか一目瞭然であり、補充もしやすい。 母がその入れ物に選んだのは、ずっと日の目を浴びることなく
愛してやまないMr.Childrenの曲を語っていこうと思う。 記念すべき一曲目は、2007年に発売した旅立ちの唄。 当時中学二年生だった。 まだ世間はガラケーで、携帯小説が流行していた。 その中の一つ、「恋空」が映画化された。 主演は新垣結衣と三浦春馬。女子高校生の壮絶な恋愛ストーリー。 もちろん、泣いた。 でも、それと同時に衝撃を受けた。 この主題歌を歌っているのはだれ?! それが、Mr.Childrenに初めて出会ったときだった。 旅立ちの唄は、当時は「恋
菜々子から突然連絡があったのは、10月の終わりだった。 僕は、すっかり菜々子からの電話は諦めていて、卒論に身を入れて取り組んでいた。 ふと、時計を見ると夜中の12時を回っていて、僕は休憩がてらキッチンへ夜食を探しに行こうとしたところに、スマホから着信音が流れた。 非通知、と表示されていて、僕は高鳴る胸を押さえながら電話に出た。 聞こえてきた声は、消え入りそうなほど弱々しく、鼻水をすする音がした。 「けいすけ?」 涙に混じった声であることはすぐにわかった。 「菜々子?どうしたの
非通知の番号から電話がかかってきたのは、その夜だった。 僕は5日後に控えた面接に備えて、座椅子に深く腰掛けて準備をしている最中だった。 いままでなら絶対に取らなかったが、きのう友達が、たまに企業から非通知でかかってくることがある、と聞いていたため、僕は電話に出た。 3日前に筆記試験を受けた会社だと思って、急いで体を起こした。緊張した気持ちで、努めてかしこまった声で言った。いま思えば、お盆期間中に企業から電話があるなんてあり得ないことなのに。 「はいっ。もしもし」 電話の相手が
菜々子と再会して、1週間が過ぎた。 僕は、あの時の興奮がようやく治ってきていた。こんなに自分が動揺するとは思わず、驚いた。 菜々子とは、何もなかった。それは本当だ。 ただ、僕が一方的に憧れていた。だから、美穂に対しては少し後ろめたかった。 菜々子は、クラスの男子の高嶺の花だった。目鼻立ちがしっかりしていて、美人な上にスタイルもいい菜々子にだれもが目を奪われ、あわよくば彼女にしたい、と狙っていた。 僕も初めは、同じ気持ちを抱いていた。高校二年生の夏までは。 高校の時僕は野球部で
再会は、突然だった。 8月6日。甲子園が開幕したと朝からテレビで報道していた。 ひどく蒸し暑い午後だった。予想最高気温は三十八度だった。もっと暑いんじゃないかと、根拠もなく思った。 僕は彼女と池袋の水族館へ向かっていた。彼女の美穂とつないでいる右手が汗ばんでいる。 本当は、こんな暑い日に手なんかつなぎたくない。振りほどきたい気持ちを必死に抑える。 美穂は、依存するのが好きだった。そして、いつだって好きという気持ちを形で示すことを求めた。いまは、人前で手をつなぐという行為。恋人
待ち合わせの30分前には、映画館に着いた。 加奈子は、そわそわして落ち着かなかった。 スマホのオフにした画面で前髪やネックレスの位置を、最高の状態で会えるように何度も何度もチェックをした。 麻友に習って、初めて化粧もした。ファンデーションを塗っただけで急に大人になった気がした。つい、自分の顔を見つめていると、麻友に「ほら、時間がないから進めるよ」と怒られた。 目元はピンク系のアイシャドウにアイラインを引いて、マスカラもつけた。チークを塗って口紅をつけたら、さっきまでの自分の顔
かれこれ、1時間はスマホを片手に固まっていた。 あとは、送信ボタンを押すだけ。わかってる。でも、それが難しい。 加奈子は、もう一度自分が書いた文を読み返して、何度も何度も何度も読み返しているからこれでいいのかもわからなくなってきて、最後はええい!とやけになってボタンを押した。 『こんばんは。今日は放課後突然話しかけてすみませんでした。もしよければ、週末遊びにいきませんか?』 ビジネスメールかよ、と突っ込みたくなるくらいかしこまった文章。加奈子にとっては、これが精一杯だ
新聞や論文を読んでいるように 表現が堅くて 登場人物は馴染みのない 名前ばかりで でも、ところどころ ユーモアラスで こんなに、貪るようにページをめくり 続きが気になって夜も眠れない小説に 出会ったのは、久々だ。 一言でいうなら、恋愛小説。 でも、中身はさわやかな要素は全くなく 相手の腹を探り、勝手に自己解釈し どんどん誤解がこじれていくのに 登場人物はみな頭で考えるだけで なかなか口に出そうとしない。 男女の間には身分の差や自尊心やいろいろ障害があって、だれもが"
雨なんて嫌いだ。 偏頭痛はするし、くせ毛が湿気でさらにくせ毛になるし、部活は教室で筋トレになるし、全部が最悪だ。 梅雨は、ぼくにとって、1年で最も暗黒期だ。 ぼくは、学校について、速攻でトイレに向かった。鏡を見て、ため息。せっかく朝から1時間もかけてヘアアイロンでセットした髪の毛が、台無しどころか悪化している。 先月、智大がストパーをかけたことを自慢してきた。くせ毛同盟を組んでいたのに。裏切り者だ。 「恭介もストパーかければいいじゃん」と智大が手入れの要らなくなった髪を触り
人生、ひとそれぞれの生き方があって 正解なんてないというけど 分岐点はだれにでも訪れる。 進学、就職 ただ生きているだけで 選択を迫られる分岐点もあれば 転職、結婚、恋愛 自ら選択して生きて 訪れる分岐点もある もし、いまこの道を選んだら あのとき、あの道を選んでいれば 未来の正解がわからないから、 現状の結果に自信がなくて 選ばなかった道を後悔する 選んだ時は、その道が最良だと 思っていたのに。 年をとって、 なにも後悔はない。 なんて、言える自信は全然ないけど
世の中理不尽なことで溢れている。 親が子供を殺したり、子供が親を殺したり、そんな大きな事件から 会社で上司に言われたことや知らないお客さんにやられたことのような、日常で至る所に転がっていることまで。 「やられたらやり返す、倍返しだ!」 なんて、痛快に仕返しできればいいけど そんなに社会は甘くない。 我慢することも、ときには求められる。 どこにぶつければいいのかわからない怒りと、悲しさを抱いて みんなそれぞれに、自分に合った発散方法をきっと模索して生きている。 毎日
小さい頃、いじわるだけど、兄のことが大好きだった。 どんなに暴言を吐かれようと、あっち行けよ、と突き飛ばされようと、わたしは、兄についていった。 兄が本当は優しいことを知っていたから。 父と母がいないところでは。 「おかあさん、どこにいるの?」 わたしは、たくさんの大人にもみくちゃにされて、泣いていた。 毎年11月、家族で出かけているさかな祭り。 新鮮なお魚をその場で買って食べたり、一匹まるごと競り合って購入したりできる。 お魚の他にも、子供がよろこぶような景品を揃えた
車道は車が行き交っていて、歩道は、何人もの人が通り過ぎていく。世界は、目まぐるしくまわっている。いまも、たぶん、きっと。 「あついなぁ」 わたしは、漫画を片手に呟いた。 どんなに世界が慌ただしく動いていても、わたしの周りは静かだ。 この、実家の居間の畳に寝転がって、縁側から吹く風を感じるのがすきだ。うるさく鳴り止まないセミの声すらも、バックメロディのようにすんなりと耳に入ってくる。 髪の毛は前髪も含めて、頭の上でお団子にして、ブラトップ付きのキャミソールに辛うじてパンツ