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『誤算』

目の前で動き出してしまった塊を眺めて、男はうーんと低く唸った。
こいつは申し訳なさそうに、モジモジしながらこちらを伺っている。

もっと早ければ、もっと未完成であれば、とりあえず寝かせることもできるし、材料に戻して別のものと組み合わせて生まれ変わらせることもできた。

しかしこいつは今、想定外に命を持ってしまったのだ。

どうしたものか。

ここは男の工房。
広い作業台には作りかけの作品がそれぞれの塊で置いてある。
昨日まで完成に向けて組み立てていた赤く四角い箱と葉っぱは、なかなかうまく噛み合わなくて一旦置いてある。
その隣には、カメラが山積みだ。一眼レフ、ミラーレス、はたまたフィルムカメラ。要調査とメモ書きを付けた。

壁沿いの棚には、りんご、白いスニーカー、スズメ、金沢市の路線バス時刻表、割れたグラス、MT車。文字通り棚上げされた作品が並んでいる。
材料は棚の足元にある箱に雑多に入れてある。

作品はいつも、完成する見通しが立つと呼吸を始め、そこからは成長を手助けすれば自ら立ち上がり、最後に男が名付けて公開する。

男はやや完璧主義な性格だった。
目的のはっきりしない未完成なものを人目にさらすのは少し躊躇した。

しかし、こいつは生まれてしまった。

誤算だ。

あいかわらず申し訳なさそうに、チラチラと男を伺う。
心配するな、生まれてしまったものを捨てるわけにはいかない。作品の一つだ。

完成品の並んだショーケースに『誤算』と名付けたこいつを置いた。
名札を書く男の手元を『誤算』は興味深そうに眺めていた。
その様子を見て、この名前じゃあんまりかなと思っていた気持ちがまぁいいかに変わった。

誇らしげに外の世界に胸を張る作品たちと同じ場所で並ぶ『誤算』は、男の方を向いてえへっと笑った。

終(727文字)

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