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vol.15 ブレスオブファイア2 使命の子

 このゲームには古きSFCのJRPGすべてに搭載してほしいと言っても過言ではないシステムが含まれている。それは「感情値」の明示である。ゲーム中では「ドラゴンズティア」という宝石によって説明される。

「ドラゴンズティア」は会話ダイアログウィンドウの右上に表示され、話者の感情を色で表現する。主人公と敵対していれば黒く、そこから明度を上げつつ赤~黄~緑~青と変化し、最高に高くなれば虹色に輝く。

 この明示によって、ドット絵と会話文の世界に表情が広がる。丁寧で友好的な文章ながらドス黒い感情を持っている悪役、またこれから命のやり取りをするのに虹色に輝くライバルなど、関係性の表現に一つ次元を加えることができるのだ。

 これだけでも名作の匂いがする本作は、個人的なエピソードというよりも作品自体が持っている強力な物語要素の方がよっぽどに強いため、作品紹介の色が濃くなるのでご了解いただきたい。ネタバレも多い。

 さて、ここまで書いたが筆者は本作を所有していなかった。同シリーズ「1」は持っていたが、2は当時近所に住んでいた友人に借りたものの、クリアしきれずに返すことになったのだ。結局、終盤までは遊んだものの最後までクリアしたことはない。

 しかし、プレイ体験は濃厚なものとなった。それだけの物語的な強さを持つタイトルである。まず開始直後、主人公が戦えるようになるオープニング終了よりも前に、主人公は文字通りすべてを失う。

 父と妹と共に暮らしていたはずの主人公リュウは、少し村から離れたところでモンスターに襲われ、危ないところを父に助けられる。……にも関わらず、村に戻ると、なぜか村の人物は父と妹を含めすべてが知らない人物にすり替わっている。

 開始直後にすべてを失い、かつその後に恐ろしく強大な魔物と出会って敗北し、オープニングは終わる。ホラーである。そこから主人公は子供から若者に成長するが、主人公の精神的な喪失感は描かれない。つまりプレーヤーがこの精神的な喪失感を各々の感情で背負う。

 ブレスオブファイア2は誰かが常に何かを喪失している物語だ。メインストーリーは主人公リュウの元に集まる仲間たちの事情と共に進んでいく。地位、家族、仲間。何かを失わせることは物語の作りとしては特別ではないかもしれないが、やはり進むにつれ増える犠牲者には心が痛む。

 一部、プレーヤーの選択がそのまま生死にかかわる人物もいる。恐ろしい話である。そうでなくてもこのゲームは「取り返しのつかない要素」が多い。いくつかのタイミングを逃すと二度と手に入らないものが多く用意されている。

 しかし、一番プレーヤーの心をえぐってくるのは「1からの経過時間」であろう。ブレスオブファイア2の世界は「1」の500年後である。「1」から一部のキャラクター、種族、およびランドマークが引き続いて登場し、同じ世界であることを明示的に伝えてくれる。

 巧みなのは血族についての表現である。ブレスオブファイア1は8人の異なる種族のメンバーがそれぞれの種族の特徴と共に団結する物語である。このうちのいくつかの種族は2では登場せず、引き続いて登場する種族は能力が劣化している。

 この絶対的な時間の流れ、1で出会ったキャラクターたちとは違う時間に来てしまった事実、500年の間の栄枯盛衰、それを受け止めるのも100%プレーヤーである。神の立場であることの寂しさをこんなにも感じさせてくれるゲームはそう多くはない。

 ハードな設定でありながら、ゲーム中にはコミカルなイベントが多いのも本作の特徴である。宮沢賢治「注文の多い料理店」をオマージュしたイベント、トラウマになりそうな料理対決、意味もなく気の抜けたテキストも多数。こちらもまた心に残る。

 今でこそ攻略情報が豊富であるから取り返しのつかない要素を逃すことはないが、当時はゲーム誌のの他は友人との口頭でのコミュニケーションでしか情報がなかった。そのため、取り返しのつかない要素が多い本作では、友人のセーブデータによって「自分が取りこぼしたもの」に気づくのが常であった。

 そうなればどうなるか。もう一度最初からプレイしなおしである。口頭の情報は不確かで、確実なフラグを踏まえていない場合がある。「これはまだ取得できないのかも」と後回しにしようものならもう二度と手に入れることはできず、攻略も難しくなるのだ。

 必然、何度もプレイすることになり、そのたびに仲間たちの喪失を目にすることになる。印象にも深く残ってしまう。よくできているが、現代ではまずお目にかかれない作りだろう。

 当時はRPG、現代で言うJRPGが特別な輝きを放っていた時代である。その中で、ひときわ記憶に残る物語の中に、ブレスオブファイア2があるのだ。たぶん、今後も一生忘れられないだろう。

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