日本の海上警備体制の研究(2004年)
⚠️⚠️⚠️ 注意 ⚠️⚠️⚠️
これは私が大学時代に書いた
黒歴史卒業論文です内容は2004年当時の原文そのままで、情報も当時のものです
公開に至った経緯など
東京国際大学 国際関係学部 国際関係学科
2003年度 卒業論文
「日本の海上警備体制の研究」
国際法専攻
ksidrmk
はじめに
本論文について
[1]テーマ設定にあたって
卒業論文を考える上で、当初は「日本の防衛」もしくは「日本の海外派兵」について作成することを考えていた。
しかし両テーマは卒論の枠内では分析不十分となることが予想され、また先人達の論文も多い。
それらを踏まえた上で、普段あまり焦点が当てられることはないが、実は日本防衛の最前線でありアキレス腱でもある「海上警備」に絞って、自分の卒業論文の研究テーマとすることとした。
[2]「海上警備」の定義
本論文は、テーマを「日本の海上警備体制の研究」としているが、まず最初に「海上警備」の定義を行う。
日本周辺の安全保障環境を考えた上で、最も現実に起こりうる事態を想定し、本論文内での「海上警備」は、
平時における警備であり、
領海警備、排他的経済水域での違反行為に対する取り締り活動、
及び、それらを遂行する上で生じる他の沿岸国の領海境界線までの追跡行動。
を指すものと定義する。
なお、一般的には「海上警備」よりも「領海警備」という言葉の方が使われる傾向にあるが、本論文では「領海」外である「排他的経済水域 (EEZ)」における警備も視野に入れる点から、「領海」とせずに厳密に「海上」という言葉を用いることとする。
序章 日本の海の守り
第1節 日本と「海」
現代の日本人はあまり意識しないが、日本は「海洋国家」である。
何故なら、地勢的には四方を海に囲まれており、工業資源も食糧も専ら海上輸送に頼っているからである。
代替手段は輸送量に制約がある航空輸送しか無く、今後も日本の物質的存在を支えるのは船舶による海上輸送であることに代わりは無い。
日本にとって、「海」は正に生命線なのである。
第2節 「海」と安全保障
そして、近年の日本の国際安全保障を巡る動きを見てみると、「海」というキーワードは欠かせないものになっている(近年になって特別「海」が重要視されたのではなく、近年まで「安全保障」自体が重要視されなかったからであるが)。
ここ数年は、周辺事態時には海上で船舶検査(臨検)を行うことが決められ、また北朝鮮による不審船事件があり、その北朝鮮からの弾道ミサイルの脅威にはイージス護衛艦の迎撃ミサイルでの対処が計画されている。
日本の安全を考える上で欠く事のできない「海」であるが、先に例に挙げた北朝鮮の不審船事件では、その守りの問題点が指摘されている。
1999年に発生した「能登半島沖不審船事件」では、日本国民は初めて自国の防衛を身近に感じることとなった。
海上警備行動の発令によって初めて海上自衛隊が「実戦」に投入され、実弾による警告射撃を行いながらの追跡劇を繰り広げたのである。
それまで、直接自分たちの国家主権が脅かされた経験が無かった私達にとって、この事件は大きな衝撃であり、以降、海上警備のあり方が問われ始めた。
そして、政府が海上保安庁と海上自衛隊の共同対処マニュアルを作成し、海上警備体制は一応の完成を見たかと思われた2001年、まるで頃合を見計らったように「九州南西海域不審船事件」が発生し、不審船と海上保安庁の巡視船とが激しい銃撃戦を行い、不審船が沈没(日本側の見解は不審船の「自沈」)するまでに至った。
こうして二つの不審船事件を通して、今、日本の海上警備体制、つまり国の安全保障体制のあり方が問われている。
本論文では、こうした海洋国家・日本が直面している「危機」への対応について論じていく。
第1章 海上警備体制概観
第1節 法制
日本の海上警備に係る組織を概観する前に、まず海上警備に係る国際法、及び国内法についてまとめる。
1. 国際法令
【1】 『海洋法に関する国際連合条約』
以下に、海上警備に係る条文を抜き出し、考察していく。
(1) 第3条「領海の幅」
しかし現代までの国際慣習からすると、基本的に領海=12海里と考えることができる。
(2) 第17条「無害通航権」
この点は重要である。
領空の場合は、航空機の高速性や軍事的脅威度を鑑み、軍用機・民間機問わず、許可無く他国領空に侵入してはならないというのが国際慣習上のルールである。
しかし領海の場合は、たとえ軍艦であっても「無害」であるならば、(許可を求めるケースが多いが)出入りは可能とされている。
1999年の能登半島沖不審船事件の際は、一時「領海侵犯」という言葉が先走ったが、「領空侵犯」と同義として捉えていた感が強い。
無害通航権の存在を考えた場合、初期段階で「領海侵犯」と断じてしまうのは間違いである。
事実、事件以降の検証では「領海侵犯」という言葉は使われず、事件発生段階でも海上保安庁は領海侵犯ではなく「漁業法違反容疑」で追跡を行っている。
(3) 第111条「追跡権」
沿岸国の軍艦・軍用機・政府公用船舶・政府公用航空機は、国内法令に違反したと信ずるに足りる十分な理由のある外国船舶を、その内水・領海・経済水域・大陸棚・海洋構築物周囲の安全地域から他国の領海手前までの公海で追跡し、乗船・臨検・拿捕・港への引致を行うことができるという条項である(継続追跡権: Right of Hot Pursuit)。
無論その際、必要な範囲で実力を行使することも認められているが、撃沈までできるかは争いがある。
この法理は、1906年のノース号事件、1935年のアイム・アローン号事件(酒類取締水域からの継続追跡)における英米合同委員会の判断がきっかけとなって形成された(津田憲司, 『国際法判 例百選』, 有斐閣, 2001, p92)。
ただ、同事件の合同委員会報告では、停船命令に従わない密輸容疑船舶に対する意図的な撃沈は、過剰であり違法であるとしている。
1999年の能登半島沖不審船事件、2001年の九州南西海域不審船事件では、この「継続追跡権」が日本の領海・排他的経済水域外までの追跡の法的根拠となった。
2.日本国内法令
【1】 『海上保安庁法』
(1) 第2条「任務」
(2) 第18条「強制的措置」
(3) 第20条「武器の使用」
これは海上保安官の武器使用に関する規定である。
このうち、第2項は2001年に追加された規定であり、1999年の能登半島沖不審船事件において対象船に対して危害射撃が行えなかった反省から整備されたものである。
この規定は、2001年の九州南西海域不審船事件の際に危害射撃を行う上での根拠法となった。
(4) 第25条 「解釈規定」
(「自衛隊法」第101条についての記述参照)
【2】 『自衛隊法』
(1) 第82条「海上における警備行動」
一般に言う「海上警備行動」についての規定である。
海上警備行動は1999年の能登半島沖不審船事件で初めて発令され、その是非は以降も問題となった。
(2) 第93条 「海上における警備行動時の権限」
海上警備行動が発令された場合の自衛隊の武器使用権限についての規定であるが、第2項以降は、海上保安庁法第20条と同じく2001年に、同じ不審船事件への反省から追加されている。
(3) 第101条 「海上保安庁等との関係」
一見、この条文は「海上保安庁は軍隊ではなく、軍隊としての機能を持ってはいけない」と定めた海上保安庁法第25条と矛盾するものに読み取ることができる。
しかし一般的な解釈としては、有事の際に、海上保安庁は自衛隊内に直接組み込まれるわけではなく、自衛隊が行動するにあたっての整合性を持たせるため、とされているため、矛盾する事項ではないとされている。
第2節 組織
日本の海を守る組織は、海上保安庁と海上自衛隊である。
この二つの組織は共に海上警備を行う点では共通しているが、海上保安庁(以下、適宜「海保」)は運輸省所管の治安維持・救難組織、海上自衛隊(以下、適宜「海自」)は国土自衛を目的とした防衛庁の一組織であり、根本的な存在目的が違う。
だが一般的に知られているのは、海上保安庁は海の警察・消防、海上自衛隊は海の軍隊、という程度の違いである。
そこで、海上警備体制について分析する前に、まず実際に海上警備を行っている二つの組織について概要をまとめる。
1. 海上保安庁
【1】概要
海上保安庁は、海上の治安維持や水路・灯台業務を行う組織として、戦後間もない1948年5月、運輸省(現国土交通省)内に設立された。
終戦まで旧日本海軍が行っていたために、軍解体に伴い支障をきたしていたそれらの業務を、再び実施するためであった。
設立にあたってはアメリカ沿岸警備隊が参考にされ、1946年に運輸省内に設立されていた「不法入国船舶監視本部」を設立母体として整備された。
当初は旧日本海軍の小型艦艇を中心とする少数の巡視船艇からの出発であったが、2002年度末現在、職員約1万2千名、船艇519隻、航空機75機を有する組織へと発展している(海上保安庁, 『海上保安レポート2003』, 国立印刷局, 2003)。
海上保安庁を紹介する場合、「(海上自衛隊と対比する形で)海の警察」と表現する場合があるが、前節で取り上げた『海上保安庁法』第2条からも分かる通り、正確には「海の警察・消防・環境局・交通局」である。
つまり、海上でのあらゆる場面における司法・行政執行機関であると言える。
【2】編成
組織構成は、海上保安庁長官のもとに本庁(総務部、装備技術部、警備救難部、海洋情報部、交通部)があり、他に11の管区海上保安本部(海上保安部66ヶ所、海上保安署54ヶ所、航路標識事務所39ヶ所)、海上保安大学校、海上保安学校などがある(海上保安庁HPより)。
【3】活動
海上保安庁は、海上における様々な事案に対応する組織である。
範囲が幅広い為、活動内容も、海上治安維持、海上交通の安全確保、海難救助、海上防災、海洋環境保全など多岐に渡っている。
特に海上保安庁は海難救助活動においての評価は以前から高く、巡視船艇の数、救難の為の装備、救難員の技術、救難体制なども充実している。
更に、1985年発効の「SAR条約(海上における捜索及び救助に関する国際条約)」により、日本は北緯17度以北、東経165度以西の広大な太平洋海域の救難を担当している。
そして、本論文において主に取り上げるのが、警備救難部が司る「海上治安維持活動」である。
海上保安庁では、日本周辺海域を11の管区海上保安部で分担し、常時、巡視船艇と航空機による海上警戒監視活動を行っている(もちろん、この活動には海難事故への警戒も含まれる)。
それと共に、全国に10隻の「警備実施強化巡視船」を配備して警戒を行っている。
これまでも、海上治安維持活動は海上保安庁の重要任務と位置付けられてきた。
しかし、1999年の能登半島沖不審船事件では、数隻の不審船を捕まえる事ができず、海上自衛隊が出動することとなった。
この事件以降、海上保安庁では高速特殊警備船の建造、特殊警備隊 (SST) の強化など、警備能力の増強を始めている(第2章に詳細)。
こうした海上保安庁の変化を象徴するように、2001年にはそれまでの「海上保安庁」の英語表記「Japan Maritime Safety Agency」(JMSA) が、「Japan Coast Guard」(JCG) に変更されている。
2. 海上自衛隊
【1】概要
海上自衛隊は、日本の国土防衛のための組織・防衛庁の一組織である。
しかし意外な事に、海上自衛隊の前身は海上保安庁である。
1948年に海上保安庁が設立されたことは前節で述べたが、その後1950年の朝鮮戦争勃発を受けて人員・装備の増強が行われ、1952年4月に海上保安庁内に「海上警備隊」が創設された。
そして同年8月の保安庁(注・海上保安庁ではなく、警察予備隊の後継組織)設置に伴い、「警備隊」として海上保安庁から保安庁に移管され、1954年の防衛庁設置と同時に「海上自衛隊」へと改称されて現在に至る(植村秀樹, 『自衛隊は誰のものか』, 講談社, 2002)。
海上自衛隊は2002年度末現在、人員約4万5千人を有しており、主な装備は護衛艦54隻、潜水艦16隻、機雷(掃海)艦艇31隻、哨戒艦艇7隻、輸送艦艇8隻、補助艦艇26隻、固定翼機99機、回転翼機(ヘリコプター)107機となっている(防衛庁, 『平成15年度防衛白書』, 財務省印刷局, 2003)。
【2】編成
組織構成は、海上幕僚長のもと、自衛艦隊(護衛艦隊、航空集団、潜水艦隊、掃海隊群、開発指導隊群、情報業務群など)、教育航空集団、5個地方隊 (大湊、舞鶴、佐世保、呉、横須賀)、練習艦隊、幹部学校、幹部候補生学校、4個術科学校、補給本部、海洋業務群、システム通信隊群などとなっている(海上自衛隊HPより)。
【3】活動
海上保安庁と異なり、法律によって出動が厳しく制限されている海上自衛隊は、平時には直接の警備活動こそ行っていないが、日常的に航空集団の哨戒機P-3Cと、それぞれ担当海域を持つ地方隊の護衛艦が、洋上での警戒監視任務に就いている。
特にP-3Cは、元々、冷戦中に旧ソ連艦隊(特に原子力潜水艦)を封じ込める為に整備することが計画され、冷戦が終了した現在も約100機という重厚長大な哨戒体制が続いている。
そのため、日本近海海域に関しては、一日の哨戒で最低一度、全ての海域の上空を哨戒する体制になっており、実際、 1999年と2001年の両不審船事件においては最初に不審船を視認するなど、 着実に成果を挙げている。
3. 二つの組織が海を守る意義
このように、日本周辺の海は海上保安庁と海上自衛隊が警備する体制になっており、そのために、両組織とも日々警戒監視活動を行っている。
しかし単純に考えた場合、同じ「海」をなぜ二つの組織が警備しているのか?という疑問が残る。
実際、不審船事件が発生した際には、それが海上保安庁の仕事であるのか、海上自衛隊が出るべき仕事なのかが大きな論争となった。
しかし、この疑問を解く鍵は、まず基本に立ち返ることにある。
不審船事案は、言ってみれば従来型の「戦争」(つまり「有事」)と、「平時」の中間に位置する性格を持っている。
日本をはじめとする世界各国が、海軍以外に海上保安庁のような「沿岸警備隊」を保有しているのは、元来、そういった事態を間違って有事につなげることがないようにするためなのである。
つまり海上保安庁は、日常的に犯罪の取り締まりを行っているのと同じように、不審船にも対応し、大きな軍事衝突に至らないよう努める組織なのである。
1999年の能登半島沖不審船事件後の検証から作成された、海上保安庁と海上自衛隊の「不審船に係る共同対処マニュアル」においても、「不審船への対処は警察機関たる海上保安庁がまず第一に対処を行い(以下略)」(小西誠, 『自衛隊丸秘文書集』, 社会批判社, 2003)とされており、二つの組織の立場を明確にする方向に向かいつつあることは歓迎されるべきことであろう。
第2章 海上警備体制分析
本章では海上警備を行う組織、主に海上保安庁で実際に行われている対策とその分析を行い、加えて海保と海自が海上警備における「切り札」として整備を始めている「特殊作戦部隊」について分析する。
第1節 海上保安庁
海上保安庁は数多くの重要な任務を持っているが、組織の形態や巡視船艇の数からしても、警備救難任務が最も重要な任務として捉えられていることは間違いない。
少なくとも平時においては、日本の海を警備する組織は海上保安庁以外に無く、第1章でも触れたように安全保障環境の変化によって、より一層警備能力の強化が求められつつある。
しかし、現在の海上保安庁の状況を考えると、日本の海上警備組織として疑問を呈さざるを得ない問題が数多く存在する。
本節では、それらの問題点を項目別に挙げ、分析する。
1. 体制・予算
海上保安庁は人員・予算が不足している。
海保当局ははっきりとは表明していないが、その悲鳴は、海上保安庁発行の年間報告誌『海上保安レポート』に滲み出ている。
2003年度版の114ページ目、「海上保安庁の体制」を見ると(以下、引用内は『海上保安レポート2003』より抜粋)、
と、大変消極的な文言が続いている。
また、航空機の経年問題(詳細は次項)にも触れられており、まるで海保当局は体制・予算の不足を嘆いているようにも読むことができる。
今後の海上保安庁の発展を考える上では、まずこうした体制・予算を充実させることが必要である。
『海上保安レポート』では、予算をアメリカの沿岸警備隊と比較しているので、規模を比較してみると、アメリカ沿岸警備隊は定員3万3800人、予備役1万5000人、補助隊員(民間ボランティア)3万5000人であり、一見、海上保安庁の活動規模が小さいだけのように思える。
しかし、任務に用いる装備をみてみると、航空機数(沿岸警備隊209機、海保75機)こそ及ばないものの、警備救難任務に就く巡視船艇数(同130隻、447隻)においては大きく逆転する。
また、日本の自衛隊と比べた場合、海上保安庁の1689億円(平成15年度)に対し、海上自衛隊は1兆1269億円、陸上自衛隊1兆8627億円、航空自衛隊1兆1086億円(いずれも平成15年度)、と隔世の感がある。
確かに自衛隊は、直接的に安全保障に関わる点で重要性は判りやすいが、これまでみてきて判るように、その点では海上保安庁も同じはずである。
冷戦中でさえ「海洋国家日本は、陸上兵力を削減して海上・航空兵力を増強した方が合理的である」という、俗に言う「ハリネズミ防衛論」(伊藤博, 『日本防衛の崩壊』, 文芸社, 2002)が真剣に議論された程である。
今こそ、そういった議論を活発にし、海上保安庁の重要性を人員・予算に反映させるべきである。
2. 防弾対策
2001年の奄美沖不審船事件のように、取り締りの対象が武装船であった場合は海上警備に伴って取り締まりに当たる船舶が銃撃される危険もある。
しかし戦艦による砲撃戦が海上戦闘の中心であった時代とは異なり、現代の戦闘艦艇は遠距離でのミサイル戦を前提に設計されているため、近距離からの銃砲弾による攻撃を想定していない。
すなわち現代戦では、敵の砲弾を跳ね返すための厚い「装甲板」を装備するのではなく、敵のミサイルを危険の及ばない遠距離において迎撃することを前提としている(海上自衛隊も保有する、アメリカ製の「イージスシステム」はこの思想の完成形である)。
そのため、戦闘を前提としない「商船構造」の海上保安庁の巡視船はもちろん、敵の攻撃により被弾した際のダメージコントロールをある程度考慮して設計された「軍艦構造」である海上自衛隊の護衛艦でさえも、近距離から直接銃撃を受けることはあまり考慮されていない。
海上保安庁は近年の犯罪凶悪化に対応するために、巡視船艇の防弾化を進めており、九州南西海域不審船事件の際に最前線で不審船を追跡した巡視船「いなさ」「あまみ」も防弾化されていた。
銃撃を受けた際の映像はニュース等で何度も放映されており、危機を現実のものとして印象付けることとなった。
銃撃されて弾痕が残った巡視船「あまみ」の艦橋部分は、2002年に国土交通省の玄関ロビーで一般にも公開された。
しかし前途のように、巡視船「あまみ」は防弾化されていたはずである。
実は艦橋の前に設置されていた防弾板(簡易装甲)を貫通した弾丸が、艦橋を撃ち抜いていたのである。
どうしてこのような事態が発生したのであろうか。
弾痕を調べたところ、大部分は7.62mm小銃弾の跡で、一部に12.7mm機関砲弾の跡があったという(小川和久, 『日本は国境を守れるか』, 青春出版社, 2002)。
7.62mm弾といえば、第三世界で安価で出回っている旧ソ連製AK-47自動小銃(日本周辺では中国、北朝鮮軍が使用)の弾丸である。
海保の「防弾化された」と言われる巡視船の防弾能力は、軍隊の歩兵はもちろん、ゲリラでさえも一般的に保持している小銃の弾丸を防ぐことができない程度だったのである。
これは海上保安庁の銃器対策の甘さに他ならない。
今後は、これから建造される巡視船艇はもちろんのこと、現在使用されている巡視船艇についても防弾装備を見直し、少なくとも7.62mm小銃弾には耐える仕様にしていかねばならないであろう。
また、巡視船艇だけでなく、乗組員用の防弾衣の配備と、航空機(特に特殊作戦に携わるヘリコプター)の防弾化(詳しくは次節)を早急に進める必要がある。
3. 航空機体制
海上保安庁は全国に14の航空基地を置き、航空機75機(固定翼機29機、回転翼機46機)を保有している。
固定翼機は、ジェット機「ファルコン900」2機、国産プロペラ機「YS-11A」5機を備え、他に中型・小型の航空機が22機。
回転翼機は、中型ヘリコプター「スーパーピューマ」4機を含む46機であるが、そのうち16機はヘリコプター搭載巡視船(2機搭載型巡視船3隻、1機搭載型巡視船10隻)に搭載されている。
これらの航空機は、日常的に上空からの洋上警戒監視任務に就いているが、特に救難活動時には、固定翼機が長距離洋上捜索を行い、ヘリコプターが遭難者の救出を行う、という体制が整っている。
第1章でも述べた通り、SAR条約により、海上保安庁は広大な西太平洋を救難担当海域に持っている。
その為、長距離洋上捜索用の航空機と、直接遭難者を救助するヘリコプターを拡 充し、航空機による洋上救難体制を強化したいとしている(『Wing Weekly』, 航空新聞社, 2000 年5月24日号, 当時の海上保安庁長官・荒井正吾氏へのインタビューより)。
また、九州南西海域不審船事件に対する日本政府の検証においても、取るべき対策として「航空輸送能力の強化」が挙げられている(小西誠, 『自衛隊丸秘文書集』, 社会批判社, 2003)。
しかし現状をみると、予算不足から機数維持のための更新もままならない状態である。
海上保安庁では航空機の耐用年数を、YS-11Aが30年(飛行時間3万時間)その他の航空機を20年(固定翼機9千時間、回転翼機7千時間)と定めている。だが現状を見ると、YS-11は5機全機が耐用年数を過ぎており、固定翼機は7機、ヘリコプターは16機が20年を越えたまま運用されている。
海上保安庁でもこの状態は認識しており、『海上保安レポート2003』においても航空機の老朽化と、経年対策の必要性が指摘されている。
こうした状態を改善するためには、
[1]抜本的に海上保安庁予算を見直す、
[2]現状を悪化させない為に経年対策(航空機の延命)を施す、
などの対策が必要である。
特に、ヘリコプターに関しては、夜間の救難活動の為の機能強化(レーダー・赤外線暗視装置の搭載)や、特殊警備隊の展開の為の性能などが求められており、早急な対策が必要である。
なお、長距離捜索用の航空機に限って言えば、第1章でも触れた通り、海上自衛隊が長距離哨戒機P-3Cを大量に配備しているため、海上保安庁に対する応援体制を整えるだけでも現状を補完することができる。
しかしそれは平時に限ったことであり、有事の際には海上自衛隊の任務が優先され、十分な支援が受けられない可能性もある。
だが、海上自衛隊のP-3C保有数は、日本近海海域面積と比べて過剰であるとの指摘もある。
その為、ある程度の機数を海上保安庁に移管するという方策も考えられるが、その場合、次に述べる「潜水艦艇対策」にも繋げることができる。
4. 潜水艦艇対策
1999年、2001年の不審船事件は、共に漁船に偽装した水上船舶が対象の事件であった。
その為か、潜水艦艇対策はあまり注目されていないが、日本周辺の安全保障環境を考えると決して無視できる課題ではない。
実際、隣国・韓国では1996年9月、1998年6月に北朝鮮小型潜水艦の座礁・侵入事件が起きている(田中賀朗, 『北朝鮮と自衛隊』, 明窓出版, 1999)。
不審船は水上船舶とは限らないのだ。
潜水艦は、潜望鏡や通信アンテナ、発電機関の排気塔などを海面上に出す限られた時間以外は、水上からの目視・レーダーによる探知はできない。
そのためWWIII時代から、潜水艦艇の探知には水中音響探信装置、通称「ソナー (SONAR: SOund Navigation And Ranging)」を使用するのが一般的である。
ディスプレイに水中の物体を表示する「魚群探知機」もソナーの一種であるが、潜水艦探知に用いられるのは軍事用の高精度の装置であり、実際に音を聴く水測員(ソナーマン)の技量も重要であるとされている。
そのため、世界の海軍の軍艦にはソナーが装備されており、もちろん海上自衛隊の護衛艦にも装備されている。
冷戦中、有事にはアメリカ海軍空母機動部隊の露払い役となるはずだった海上自衛隊にとって、「対潜水艦作戦 (ASW: Anti Submarine Warfare)」は主要戦略であり、一般にその能力は秀でていると言われている。
また、護衛艦隊はASWを意識した編成であり、加えて長距離用の対潜哨戒機P-3Cを100機も保有しているのは日本だけである。
それに対して、海上保安庁は軍事組織ではないため、海底探査用のスキャンソナー以外に潜水艦探知用のソナーを装備していない。
そのため、もし仮に日本の沿岸に潜水艦艇が接近しても、浮上しない限り海上保安庁の巡視船艇に発見する術はない。
この問題は一見、海上保安庁の巡視船艇にソナーを取り付けて、潜水艦探知能力を持たせてしまえば解決できるように思われる。
しかし、既存船舶にソナーを取り付けるには船底構造の大改造が必要であり、そのソナーを運用するにも、音を聴き分ける特殊技能を持った水測員(ソナーマン)を育成する必要があり、実際に効果を発揮できるまでに莫大な時間と予算が必要である。
こうした理由から、今すぐに海上保安庁が独自に潜水艦探知能力を備えるのは、予算と費用対効果の面から現実的とは言えない。
その為、まずは既に高い潜水艦探知能力を有する海上自衛隊との協力体制によって補完していくこととして、将来的に海上保安庁独自でオペレーションが行えるよう、これから新造される巡視船艇に、順次ソナーを導入していくことが望ましい。
また、前項で触れたように、海上自衛隊で大量に保有するP-3C哨戒機を海上保安庁に移管することも、航空機増強と対潜水艦艇対策の観点から有用な方策であると言える。
第2節 海上自衛隊
海上保安庁と異なり、海上自衛隊は国防の為の組織であり、自衛隊の出動については自衛隊法第76条から第84条に基づかなければならない為、厳しく制限されている(永井憲一, 『三省堂 新六法2001平成13年度版』, 三省堂, 2000)。
「海上警備」に関しては、自衛隊法第82条『海上における警備行動(以下、「海上警備行動」)』(前掲著, p52)により規定されている。
しかし、1999年の能登半島沖不審船事件を受けての検証では、「海上警備行動の乱発は海上警備行動自体の威力を削ぐ」という指摘から、海上での治安維持には一義的に海上保安庁が受け持つことが決められた。
よって海上自衛隊の海上警備行動は、あくまでも海上保安庁の補完であるべきであることを踏まえたうえで、海上自衛隊が行っている対応策について概観する。
1. 対策
【1】 在来護衛艦への機関砲追加装備
海上自衛隊では不審船対処能力の向上を計るとして、在来の護衛艦に 12.7mm重機関銃が追加装備された。
1999年の能登半島沖不審船事件において、護衛艦の主砲(一般的に127mm速射砲)では威力が大きすぎて、船体に命中させると即撃沈してしまうという指摘があったためで、その補完としての役割を担うとされている。
護衛艦は海戦に備えた兵装であるため、一般的に主砲とミサイル以外には、完全自動制御のミサイル迎撃専用高性能20mm 機関砲しか搭載されておらず、不審船への危害射撃手段が求められていた。
【2】新造ミサイル艇の計画変更
また、以前から計画されていた「200t級ミサイル艇」の性能見直しを行い、 40ノット以上のスピードが出る高速ミサイル艇を就役させている。
この高速ミサイル艇は速度性能以外にも、20mm機関砲から76mm速射砲への主砲の変更や、前段の護衛艦への対策と同じく12.7mm重機関銃の追加装備などが行われており、従来型戦争対処から不審船事案などへの対処能力を重視した仕様となっている。
2.分析
この二つの対策は、時代に合わせた装備変更であり、評価に値する政策であると言える。
また、海上警備を一義的に扱う海上保安庁に対して、海上自衛隊はあくまでもそれを補完する組織であり、妥当な方策であると言う事ができる。
しかし、装備の充実と共に、円滑に対処するための制度作りが重要であることは言うまでもない。
第3節 特殊作戦部隊の存在
1. 概要
海上警備を行う場合、嫌疑船や不審船に乗り込んで立ち入り検査を行う場面が生じる。
海上保安庁が行っている平時業務では、対象船を停泊させて一般の保安庁職員(基本的に巡視船艇の乗組員)が立ち入り検査を行い、犯罪や違反を摘発している。
しかしそれは漁業違反、密輸、密入国の取り締まりに伴う活動であり、不審船事件のように軍事的脅威度が高い場合は、同時に対象船に乗り込む一般職員の危険度も高まり、銃器による抵抗によって対処できない事態も起こり得る。
そうした場合に活動するのが、一般に「特殊部隊」と呼ばれている「特殊作戦部隊 (SOF: Special Operation Force)」である。
基本的に、特殊作戦部隊はその組織の最精鋭部隊であり、人員は厳選され、装備も選りすぐりの一級品が配備されている。
作戦の性質上、あまりその素顔(所属隊員や装備、部隊の活動歴など)は明らかにされないが、判明している情報からそれらの部隊の特徴をまとめ、日本の組織について分析する。
【1】世界の特殊作戦部隊
先進諸国は、戦時におけるゲリラ戦闘や、準平時の特殊作戦(人質救出作戦や、国益のための非公式作戦など)、近年では対テロ戦闘のためにさまざまな組織内に特殊作戦部隊を保持している。
世界的に有名なのは、WWII初期に設立され「特殊部隊の先達」とも呼ばれるイギリス陸軍の「特別航空任務連隊 (SAS: Special Air Service)」や、「グリーンベレー」と呼ばれるアメリカ陸軍の「陸軍特殊作戦部隊」などである。
また軍事組織以外でも、アメリカの 「特殊装備警察部隊 (SWAT: Special Weapons And Tactics)」を代表格とする、警察機構の特殊作戦部隊もある。
なかでも、海上における作戦に最も秀でているとされるのが、アメリカ海軍の「SEAL」と呼ばれる特殊作戦部隊である。
母体はWWII時に上陸作戦支援や破壊活動を行うために結成された「水中破壊工作隊 (UDT: Underwater Demolition Team)」である。
そのため、メンバーは潜水を得意とする一流の水中工作員であるが、同時にパラシュート降下ができる空挺隊員であり、地上戦闘ができる歩兵である。
名称のSEALは、「SEa・Air Land」の略で、彼らが陸海空あらゆる場所で活動できることを示している。
【2】海上保安庁の特殊作戦部隊「特殊警備隊 (SST)」
一般職員(乗組員)では対処できない状況(海保は「特殊警備事案」と呼称)においても、海上テロリズムや船舶乗っ取りに対処する為に、海上保安庁が1996年5月に発足させた部隊、「特殊警備隊 (SST: Special Security Team)」である。
この部隊は1983年創設の「関西国際空港警備隊」と、1992年にプルトニウム海上輸送の為に臨時に創設された特別警備チームを統合したもので、厳選された若手海上保安官約40名で編成されている。
アメリカ海軍特殊作戦部隊SEALや、陸上自衛隊第一空挺団で訓練を行い、潜水・パラシュート降下・陸上戦闘・格闘技・ラペリング(ヘリからのロープ降下技術)などの高い技術を保持している。
【3】海上自衛隊の特殊作戦部隊「特別警備隊 (SGT)」
海上自衛隊にも特殊作戦部隊が存在する。
しかし、不審船事案が発生する以前から海上警備活動における危険度の増加を見越して創設された海保の特殊警備隊と異なり、海上自衛隊の特殊作戦部隊「特殊警備隊 (SGT: Special Guard Team ※一説には SBU: Special Boarding Unit)」は、1999年の能登半島沖不審船事件の反省から生まれた部隊であり、当初から武装工作船への乗り 込みを目的としている。
当然、創設も2001年と新しく、詳細は未だにベールに包まれているが、潜水による機雷処分を行う「水中処分隊 (EOD: Explosive Ordnance Disposal team)」から派生したと言われている。
2.分析
海上保安庁の特殊警備隊、海上自衛隊の特別警備隊、ともに詳細は伝えられておらず、また創設から日も浅いため、部隊に関しては今後の発展を見守る事として、本論文においては制度と装備についての分析を行う。
【1】制度
特殊作戦部隊の必要性が認識され、着々と整備され始めている事は歓迎すべきことであるが、部隊の能力向上以前に、まず「交戦規則 (ROE: Rule Of Engagement)」を整備する必要がある。
ROEとは、武器使用の範囲や手順を定めた基準であり、世界各国では当たり前のものとして整備されているが、 自衛隊にも海上保安庁にも存在しない。演習用に作成されたことがある程度である。
これは特殊作戦部隊に限られた問題ではないが、これらの部隊が危険度の高い任務に就くことを考えると、恒久的な基準の早急な整備が求められる。
【2】装備
特殊作戦部隊にとって、隊員の武装のような装備品の情報は極秘であるため、分析は困難である。
ただ、そういった装備品については両組織とも海外の先進部隊に学んでいることを踏まえ、ある程度のレベルには達していると仮定して論を進める。
そこで、部隊の装備品以外に目を向けた場合、ひとつだけ確実に欠けていると言えるのが特殊作戦用の航空機(ヘリコプター)である。
特殊作戦部隊の運用方法を考えると、展開にはスピードが必要であり、尚且つ、そうした部隊が投入される局面では、対象船舶からの反撃も考えられる。
そのため、そういった状況で使用される特殊作戦用ヘリコプターは、外見上は通常のヘリコプターとあまり変わらないが、単なる派生型ではなく、基本的な性能から異なるものである。
アメリカの特殊作戦部隊が使う特殊作戦用ヘリコプター MH-60ベイブホークは、その原型となったUH-60ブラックホーク(陸上自衛隊も保有している)が7.62mm高速ライフル弾に耐える機体設計なのに対し、23mm機関砲弾(東側諸国の一般的対空機関砲の弾丸)に耐える防弾設計になっている。
こうした防弾装備で機体重量も約4t増加しているが、エンジン出力を2倍にすることで高い機動性を確保している。
その他にも、夜間超低空侵入用の地形照合装置や赤外線暗視装置、レーダーなどを備えている。
海外の特殊作戦部隊は、円滑に作戦を遂行するために、こうしたヘリコプターを独自の部隊として保有している。
しかし海保も海自も、特殊作戦時にも通常のヘリコプターを使う思想から脱却できていない。
こうした状況では、いくら特殊作戦部隊の練度が向上したとしても、隊員を運ぶヘリコプターが攻撃されれば無力化されてしまう。
2001年の九州南西海域不審船事件では、特殊作戦用のヘリコプタ一が無かったために、巡視船による強行接舷を行わざるを得なかったとも言われている。
特殊作戦部隊の整備と共に、特殊作戦用ヘリコプターの整備が早急に必要である。
第3章 改善策の提案
第1節 不審船事件の教訓
前章までみてきたように、不審船事件を受けて日本の海上警備体制は、少しずつではあるが変貌を遂げ始めている。
しかし、日本を取り巻く安全保障環境は刻々と変化しつつあり、更に厳しい環境になることも十分予想される。
こうした状況の中で、海洋国家である日本が今後も「国境」を守っていくことを考えた場合、平時における海上警備、つまり海上保安庁の活動はさらに発展を遂げる必要があるように思われる。
なぜならば、「国境警備隊」「沿岸警備隊」に分類される海上保安庁は、「軍隊」に分類される自衛隊とは異なり「警察機関」であるにも関わらず、日本の国際安全保障に大きく寄与できる可能性をもっているからである。
特に諸外国と比較した場合、戦後の日本は自衛隊(軍隊)を行動させることに強い違和感と抵抗感を持っている。
この状況下であるからこそ、海上保安庁を活用すべきなのだ。
1999年の能登半島沖不審船事件は、日本の海上警備にあたる海上保安庁、 そしてそれを補完するはずの海上自衛隊の問題点を浮き彫りにした。
海上保安庁は、逃走するたった2隻の不審船をも捕まえることができなかったのだ。
しかし、これを過去の苦い経験とするだけでなく、これからの海上警備を考える上での教訓とすべきである。
海上保安庁は海の警察組織なのである。
私は、少なくとも1999年のような数隻の不審船には、海上保安庁の独力で対処できなければならないと考える。
こうした考えに立ち、以下に日本の安全保障を支えるための私案である「海上保安庁強化案」の内容をまとめる。
第2節 「海上保安庁強化案」
1. 体制・予算
現在、海上保安庁では警備救難部が海上警備と洋上救助の任務に当たっているが、海上警備・国境警備の観点から、このセクションを抜本的に増強する。
そして必要があれば、警備救難部を海上保安庁内の別組織として整備する。
具体的には、
[1]人員の増員、
[2]予算の増加、
そしてそれによって可能となる、
[3]装備の拡充(内容は次項)
などである。
日本を取り巻く安全保障環境を鑑み、第2章でも触れた「ハリネズミ防衛論」に準じた政策として、大規模侵攻に対処する体制の現・陸上自衛隊の予算・人員を削減し、それを海・空自衛隊に振り分けると共に、海上保安庁の拡充にも当てる。
2.船艇
人員・予算の増加に伴い、巡視船艇を強化する。
具体的には巡航用の大型・中型巡視船を新造して数を増やし、洋上での活動力を増強させる。
また、現在の海上保安庁の巡視船艇が、防弾性の面で問題があることは第1章において述べた。
今後は、新造船艇の防弾設計を見直すと共に、現有の巡視船艇にも防弾対策を施す。
3. 航空機
航空機に関しては老朽化が激しい機体が多いため、早急にそれらを更新する必要がある。
しかしYS-11Aなどの長距離哨戒機に関しては、費用対効果の面から、海上自衛隊からP-3C哨戒機を中古購入して補完することが望ましい。
現在、海保が保有する長距離哨戒機はYS-11Aが5機と少数の中型ジェット機であり、しかも基本的に肉眼による情報収集である。
しかし、海自が100機保有するP-3Cのうち、シーレーン防衛用に整備された20機を海保が保有するだけでも、機数を倍増させ、尚且つ高性能洋上捜索能力、高性能潜水艦探知能力を有することができる。
また、特殊警備隊の展開用に、新たに特殊作戦用ヘリコプターを整備することも必要であろう。
終章 これからの海の守り
第1節 海上警備の今後
これまで概観・分析してきたように、海上警備は直ちに国の安全保障に関わる問題である。
1999年、2001年の不審船事件を通して、海上警備の現状はある程度国民の知るところとなったが、本論文で取り上げただけでも、明らかに改善すべき問題点が散在している。
近年になって海上警備に関わる特殊作戦部隊を創設し始めたことからも判る通り、日本の本格的な海上警備体制の整備は始まったばかりである。
今後は装備の充実、組織の拡充とともに、国家安全保障の一環としての「海上警備体制」を構築する必要があるだろう。
第2節 「国家」「国防」と国民意識
そういった問題点を、ひとつひとつ解決していくことはもちろんであるが、 今後は「海上警備体制の整備」だけに留まらず、更に視野を大きく広げ、日本の安全保障体制全体に議論を発展させることが必要である。
その為には、まず私たち国民の意識の向上が求められる。
本論文において私は、「日本の安全保障」全体に問題意識を据えつつ、その中でも最も象徴的な事象として「海上警備」の問題を取り上げた。
しかし日本の国内世論をみると、海上警備はおろか、国の安全保障問題についても議論は始まったばかりである。
私たちは今、戦後日本が目を背け続けてきた、「国家」と「国防」について、半世紀分の宿題に取り掛かったばかりなのだ。
海洋国家日本にとって、まず「海上警備体制」の整備が、国の安全保障体制整備への第一歩なのである。
参考文献一覧
出版物
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電子情報(インターネット資料)
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海上保安庁, 『海上保安庁』, http://www.kaiho.mlit.go.jp/ 2004年1月
(以上、50音順)