『プラネットナイン』は存在しないか存在するとしても非常に暗い。

カリフォルニア工科大学やハーバードスミソニアン協会宇宙物理センターの研究者からなる研究チームが、海王星の外側に存在する仮説上の惑星「プラネットナイン」の探索の途中経過について公表しました。

この研究はプレプリント(査読前の論文の草稿)として2024年1月31日にプレプリントサーバーのarXivに投稿されたものです。

[2401.17977] A Pan-STARRS1 Search for Planet Nine (arxiv.org)

プラネットナイン

海王星は現時点で知られている太陽系の惑星の中で最も外側のものです。海王星の外側にさらに別の惑星が存在する可能性は海王星の発見直後から取り沙汰され続けてきた論題です。海王星以遠の惑星としては、様々な根拠に基づいて様々な仮説上の惑星が提唱されてきました。

2016年に今回と同じ研究チームが提唱した「プラネットナイン」はそのような仮説上の海王星以遠の惑星の1つです。

プラネットナイン仮説の発端は、海王星以遠に、既知の惑星の重力の影響では説明できない特徴的な軌道を持つ小天体が複数発見されたことでした。これらの小天体の軌道は地球の数倍程度の未知の惑星が太陽から数百天文単位(※1天文単位=地球と太陽の距離)離れた軌道に存在しているとすれば再現可能だったことからそのような仮説上の惑星が「プラネットナイン」として提唱されました。

21.5等級まで探索終了

今回の研究では天体サーベイの「パンスターズ (Pan-STARRS)」の第二回目のデータリリースのデータを分析してプラネットナインを探索した結果、プラネットナインに該当する天体は見つからなかったという結果が報告されています。

パンスターズは夜空の広範囲を定期的に観測する天体サーベイです。口径1.8mという大型の専用望遠鏡を4台投入し従来の同種のサーベイと比べて大幅に暗い天体まで検出可能とした野心的なプロジェクトです。パンスターズのデータはこれまでのサーベイでは検出できなかった暗い彗星・小惑星・太陽系外縁天体の発見や、超新星を始めとした爆発現象の検出など、幅広い分野で活用されており、高感度での広域観測が必要となるプラネットナインの探索に適したタイプのサーベイとしては現状で最先端のものです。

今回の研究ではプラネットナインが存在すると予測される範囲の大半について21.5等級の見かけの明るさまで探索が終了したと見積もられています。21.5等級という明るさは人間の目で見える最も暗い恒星(6等星)のおよそ100万分の1という微小な光度です。


M.E.Brown et al. (2024) figure 1より

図の色の付いた帯状の領域がプラネットナインが存在すると予測されている領域です。色の違いは探索が終了した等級の範囲に対応します。領域の大半は赤色の22等級近くまで探索が終了しています。しかし、二か所ほど探索が不完全な場所があります。これらは存在予測領域と天の川が交差する領域です。天の川付近では大量の恒星が背景にあるため太陽系内の天体の検出効率が低下してしまうのが不完全な領域が生じる理由です。

なお研究チームは今回の不検出を加味して新たにプラネットナインの軌道や物性の推定値を導出しています。それは次のようなものになります。

  • 現在の見かけの等級22.0+1.1/-1.4等級(V)

  • 現在の太陽からの距離550+250/-180天文単位

  • 軌道長半径500 +170/-120天文単位

  • 遠点距離630 +290/-170天文単位

  • 質量6.6+2.6/-1.7 地球質量

数年以内に決着か

プラネットナインは現状最先端のサーベイであるパンスターズの感度でも検出できないという結果になりました。しかし、プラネットナインの存在の可否は数年以内に結論がつくかもしれません。というのも、パンスターズよりもさらに高感度でのサーベイを行う「ベラ・C・ルービン天文台 (VRO)」が2025年にアメリカ国立科学財団の資金により南米チリに完成予定だからです。VROはパンスターズよりもさらに暗い24等級の天体まで検出可能な感度を有しているため、プラネットナインが実在すれば高確率で検出でき、VROでも不検出となればその距離やサイズに強い制約を与えることになります。



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