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お座敷がかかるのを待つ仕事はつらい

友人のHさんが会社の顧問契約を8月で辞めたという。
「やっと区切りをつけたよ」
「そんなにきつい仕事だったの?」
「逆。お座敷がかからなくてね」

定年したあと、仕事つながりで顧客の会社に請われたのがコロナ前。海外の販売先などへの技術指導を手伝ってほしいとのことだった。ところがコロナで2年あまり棒に振った。その間は、年に1-2回、会議に出席したのと、国内出張が数回あっただけらしい。その後も、ほとんど自宅待機だった。

「給料はもらってたんでしょ」
「少しだけどね」
「仕事せずに給料くれるのだから、もらい得じゃない」
「そういうなよ。なんか後ろめたいのと、それ以上にお座敷がかかるのを待ってるのが大変なんだ」
「定期的な訪問じゃないの?」
「クレームは急にくるから、その時にお呼びがかかる」
「旅行にも行けない?」
「そんなことはないけど。気になってね、すっきり旅行気分になれない」

「ゼロ時間契約」というのがある。労働時間の規定がなく、必要なときだけ呼び出されて仕事をする雇用形態だ。ただ、その仕事を請けるかどうかは自分で決められる。ギグワーカーといわれるのがその代表例だろう。

Hさんの場合、給料をもらっている関係上「ゼロ時間契約」じゃない。顧客のクレームは時と場合を選んでくれないし、行かなければ顧客と会社に迷惑がかかる。少しくらいの融通はきくだろうが、基本、自分のペースで仕事を組めないのだ。しかもお呼びがかからない待ち時間の方が圧倒的に長かった。それが精神的に苦痛だったという。

「毎日仕事に行く方がよほど楽だよ」
「でもこの年で毎日はつらいしねえ」
「週に3日、いや、2日でもいいんだけど」
「家に毎日いると女房がうるさくてね」
「朝ドラが終わるまで2階から降りてくるな、ウロウロするな、というんだよ」
「車の運転だって、道順や車線を指示されるしね」

だんだん、真相がみえてきた。
ハローワークに顔を出してみるという。

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