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お尻を見ると人生の軌跡がわかる
「座って仕事をしてらっしゃいますね」
大腸ポリープの検査が終わってお尻をきれいに拭いてもらっているとき、看護師さんから言われた。
「えっ?」
お尻を見るとその人の職場環境がわかるらしい。
若いころは外回りが多かったからさほどでもなかったが、年をふるにしたがって机の前に座っているのが長くなったのは確かだ。とくにコロナ禍以降はデスクワークがさらに増えた。
「どうしてわかるの?」
「お尻の色が黒ずんで変色しているのは、圧迫されてメラニンが蓄積しているんですよ」
「そんなに黒いの?」
「座ってばかりいる人に多いんですよ」
温泉場などで他人の裸の立ち姿は見るが、そのお尻をまじまじと見たことはない。そういえば、なんとなく黒っぽかったような、その程度のものだ。まして、自分のは見たことがない。
家に帰って、見てみた。
黒とはいわないが、焦げ茶色っぽい。他人のと比べてみないと、どの程度なのかはねえ。
あれから2年たった。座りっぱなしの職を辞して、今の仕事は逆にほとんど立ちっぱなしだ。座るのは食事の時くらい。2年で効果があったのだろうか、ふとそんなことを思い出した。
少し黒ずみが薄くなったような?光の加減かもしれないし、よくわからない。次見るときのために写真を撮っておくのは、やめた。眺めのいいものじゃない。
そう簡単に、人生の軌跡は消えるものじゃないのだろう。