貸金庫に入れたもの
田舎の家には金庫があった。30-40センチほどの大きさで、ずっしりと重く、ひとりでは持ち上げることができない。ダイヤル錠と手回し鍵の2重施錠だった。母親が亡くなってから金庫を開けると、土地家屋の権利証と実印、定期預金証書、ネックレスなどの貴金属が少し、それに父親の形見の腕時計が入っていた。
三菱UFJ銀行支店の貸金庫が破られたという。元行員がスペアキーを使って金庫を開け、顧客の金品を繰り返し盗んでいた。被害額は十数億円、約60人が被害にあったらしい。一人あたりにして数千万円になる勘定だ。
わたしも近くの銀行の貸金庫を利用している。
貸金庫には、田舎の金庫にあったものの一部と今住んでいる家の権利証、実印、それに預金通帳を入れたのは覚えている。
「あれはどこに置いたっけ」
「たしかこの引き出しに入れたのに」
「昨日まではあった」
普段がこれだから、貸金庫に何を入れたかにはいささか自信がない。しばらくは開けてもいない。
もし貸金庫が破られたとして、「盗まれたものはありますか?」と聞かれたら答えに窮してしまう。
現金だと貸金庫に入れられる額はそう多くないし、現金は入れてはいけないらしい。そうだ、金のインゴットが1kgあったと言ってみたいものだ。金は今高いから1500万円ほどになる。でもねえ、証明できないから補償もないだろうなあ。