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他人が口を出し、本人は蚊帳の外
レームダック状況のバイデン大統領が、日本製鉄によるUSスチールの買収計画にNOをつきつけた。国家安全保障上の自国主義を理由にあげたが、背景には労組票の獲得への対策があるとメディアはいう。
USスチールが所属する全米鉄鋼労働組合(USW)が反対した。85万人の組合員(組織票では約120万人ともいわれる)のうち、USスチールに所属する従業員は約1万人、全体の約1%にしかすぎない。USスチールの従業員は買収に賛成したが、USWの声にはならなかった。
マジョリティは他の人(99%)だった。
他の人とはどんな人なのか。USWの構成産業は、鉄鋼業はもちろんだが、他は金属製品、紙、林業、ゴム、エネルギー、化学、ガラスのほかコールセンターや博物館、医療まで入っている。多種多様な産業がUSWに所属しているのだ。
他の人(他人)が口出しをしている、とみえる。
本人(USスチール)は、当事者である経営者はもちろん、株主の99%、従業員が買収に賛成した。ところが、強い他人の口出しで本人は蚊帳の外に置かれたも同然だった。
政治の合理性(集票)がものを言うのは今に始まったことではない。今回もまたか、さもありなんとは思う。しかし、このUSWの「他人の口出し」は腑に落ちないことだ。
「他人」のなかに利を得る人がいるにちがいない。
今のままでは立ち行かないUSWに、だれが、どう手を差し伸べるのか。得をするのはだれか。政治の合理性の裏に隠れた「経済の合理性(利)」をあぶり出すことがまだ残っている。