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「猊鼻渓(げいびけい) 知らぬ名に 中国から」
失礼ながら「猊鼻渓(げいびけい)」は知らなかった。そそり立つ岩壁に沿って舟で川下りができるらしい。岩手県の山中にある名勝に中国からたくさんの人がやってきた。春節が近い土曜日だった。
週末は思い立って三陸リアス鉄道に乗りに行った。東北新幹線一ノ関駅で大船渡線に乗り換えて、気仙沼に行くつもりだった。長い跨線橋を越えて3番ホームに下りると2両編成の気動車が待っていた。反対側の2番線には、東北本線下り平泉方面の電車が停まっていた。
ほぼ満席だった。発車15分前だというのに座れないのか。大きなスーツケースを足下に、スマホを見る人、おしゃべりする人、子どもをあやす人。どうやら中国の人のようだ。もうちょっと詰めてくれよ、そしたら座れるのに。
もしかして、乗り間違えているんじゃないの?平泉、中尊寺のキンキラ金の輝きを見に行くんじゃないの?
聞くわけにもいかず、立ったまま発車した。どこで降りるのだろうか。気仙沼でグルメ?それとも、リアス鉄道目当てだったらずっとこのまま一緒なのだろうか。
30分ほどで降りる準備を始めた。一ノ関から気仙沼へは山越えだ。こんな山の中で下りるのか?何があるのか、頭の中で地図を開いても思い当たる場所はない。下りたのは「猊鼻渓」という無人駅だ。読めないし、聞いたこともなかった。
「北上川支流、砂鉄川沿いに高さ50mを超える石灰岩の岩壁が2㎞にわたって続く渓谷。大正4年史跡名勝天然記念物指定、岩手県内第1号、日本百景のひとつ」と公式YouTubeにあった。猊(しし、獅子)の鼻のように突き出た岩が由来だという。
知らなかった。
紅葉が過ぎて舟下りには寒いけれど、天気は良好。「秘境体験」の感動と思い出がSNSで拡散するのだろうなあ。訪日客が増えると大船渡線は車両をひとつ増やさないと。
日本人も知らない名勝に海外の人気が出て人が訪れる。そんな時代なのだ。