見出し画像

禁制の不死

「絶望とは死にいたる病である。自己の内なるこの病は、永遠に死ぬことであり、死ぬべくして死ねないことである。それは死を死ぬことである...」

「それ、ひょっとしてキルケゴール?」
祥子は顔を上げた。

「軽快に動けている元気さがあたりまえに感じられるのは、その足元を踏み外して落ちた先の世界に気づいていないからってことかな。つまり、無自覚が健康ってこと」
浩史は本を閉じた。

「でも、健康なつもりが、知らないうちに選別されたり、弾かれたりするかも」

量子力学には選択則と呼ばれるものがある。
2つの量子状態間の遷移は、主量子数や方位量子数や磁気量子数、スピン磁気量子数に関し、一定のルールがある。
それ以外は禁制である。
禁制とは、いわば違法である。
化学結合等によって分子軌道が新たに導入されると、この関係に変化が生まれ、本来は禁制のはずのスペクトルが得られることもある。

違法の健康って、わくわくする~」
祥子は踊り始めた。

(401字)


土曜日は、しばらくショートショートを書こうと思っております。
以下の企画に参加させて頂きます。どうぞよろしくお願いいたします。


初めての皆様へ

皆様には、桜井健次のエッセイのマガジン「群盲評象」をお薦めしております。どんな記事が出ているか、代表的なものを「群盲評象ショーケース(無料)」に収めております。もし、こういうものを毎日お読みになりたいという方は、1年分ずっと読める「群盲評象2022」を、また、お試しで1か月だけ読んでみようかという方は「月刊群盲評象」をどうぞ。毎日、マガジンご購読の皆様にむけて、ぜひシェアしたいと思うことを語っております。


ここから先は

48字

本マガジンでは、桜井健次の記事をとりあえず、お試しで読んでみたい方を歓迎します。毎日ほぼ1記事以上を寄稿いたします。とりあえず、1カ月でもお試しになりませんか。

現代は科学が進歩した時代だとよく言われます。知識を獲得するほど新たな謎が深まり、広大な未知の世界が広がります。知は無知とセットになっていま…

いつもお読みくださり、ありがとうございます。もし私の記事にご興味をお持ちいただけるようでしたら、ぜひマガジンをご検討いただけないでしょうか。毎日書いております。見本は「群盲評象ショーケース(無料)」をご覧になってください。