禁制の不死
「絶望とは死にいたる病である。自己の内なるこの病は、永遠に死ぬことであり、死ぬべくして死ねないことである。それは死を死ぬことである...」
「それ、ひょっとしてキルケゴール?」
祥子は顔を上げた。
「軽快に動けている元気さがあたりまえに感じられるのは、その足元を踏み外して落ちた先の世界に気づいていないからってことかな。つまり、無自覚が健康ってこと」
浩史は本を閉じた。
「でも、健康なつもりが、知らないうちに選別されたり、弾かれたりするかも」
量子力学には選択則と呼ばれるものがある。
2つの量子状態間の遷移は、主量子数や方位量子数や磁気量子数、スピン磁気量子数に関し、一定のルールがある。
それ以外は禁制である。
禁制とは、いわば違法である。
化学結合等によって分子軌道が新たに導入されると、この関係に変化が生まれ、本来は禁制のはずのスペクトルが得られることもある。
「違法の健康って、わくわくする~」
祥子は踊り始めた。
(401字)
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