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マスク、はずしてもいいですか

裕子は踵を返して舞台から観客席を見おろした。

誰もが口や鼻を覆っている。
マスクではなく面をかぶっている者も少なくない。
般若、童子、小面、鬼の面だ。

演目は敦盛だった。
小鼓の音が弾む。

源平合戦で熊谷直実は若武者の平敦盛を討った。
直実は悔いて、弓矢を捨てた。

思へば、この世は常の住処にあらず…
人間五十年、化天の内を比ぶれば、夢幻の如くなり…

厭戦の歌である。
織田信長は桶狭間への出陣の決意で舞った。

人の存在は宇宙に比べればあまりに小さい。
戦など取るに足りないと悟ると、両者は究極で重なる。

一同は場外に出た。
厚生労働省の新しい発表を知った。
屋外で互いの距離が離れていればマスクはしなくてもよい。
例として、鬼ごっこなど密にならない外遊びが挙げられていた。

一同はどよめいた。
やがて鬼ごっこが始まった。
勝てば、暑苦しい面もマスクもはずすことができる。
負ければ、いつまでも鬼だ。

初めての鬼、これはもう真剣よ、もう1回敦盛を舞うわ」

(406字)

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