見出し画像

巨大重力による七夕廃止

その昔、牛郎織女伝説が、古代中国をはじめ、東アジア諸国に伝わっていた

1年に1度、七夕の日、天の川銀河を渡って会うことをかろうじて許された若い男女の物語である
こと座α星ベガを織女、わし座α星アルタイルを牛郎に見立てている
そのベガとアルタイルはデネブとともに夏の第三角を形成しており、お互いにあまりにも遠い
光の速度で通信したとしても非常に時間がかかるが、それよりも早く、1年に1度、天の神様の許しを得て、七夕の日に当人同士は直接面談をおこなっていた

もしそれが事実であれば、その移動速度は光速よりも速いことになり、この男女は、物理法則に違反していることになる

そこで、天の神様は、これまでの寛大な措置を変更することに決めた
織女は、天の川銀河の超大質量ブラックホールに送られてしまった

ブラックホール内部では、重力によって空間が曲げられ、光は曲がった空間を直進するので結局、光は脱出できない
計算上の脱出速度が、光速を超えるとも言える

いずれにせよ、ブラックホールの内側から外側に向けての光やその他の電磁波による情報伝達はできない
そのため事象の地平面と呼ばれている

牛郎と織女は、天の川銀河の巨大重力の天体の作り出す事象の地平面によって隔てられてしまった

牛郎は、ブラックホールの外側にあって途方に暮れていた
織女は、ブラックホールの内側にあって懸命に叫んでいた

巨大重力によって押しつぶされた空間のなかでは、何を言っても外には伝わらないから、ここにタブーはない
どんな問題発言でも、悪口雑言でも炎上することはない

天の神様は言った
心を入れかえ、罪を認めて告白し、正直に生きるがよい
お前たちには量子もつれ現象が残されている
本当に一心同体なのであれば、生死をともにすることもできるだろう

牛郎と織女は、巨大重力によってつくられた告白水平線によって隔てられながらも、量子もつれ現象によって一心同体を保ち、確率によって未来を拓くことになった

現代のカレンダーから七夕の日が消されたのは、そのためである
(802字)

2022年8月20日以来、以下の企画に毎週参加させて頂いており、ついに1周年を迎えました。そのうち打ち切ることになりますが、今回はとりあえずまだ続行です。今回のお題は「告白水平線」をワードとして含む作品でした。どうぞよろしくお願いいたします。

初めての皆様へ

皆様には、桜井健次のエッセイのマガジン「群盲評象」をお薦めしております。どんな記事が出ているか、代表的なものを「群盲評象ショーケース(無料)」に収めております。もし、こういうものを毎日お読みになりたいという方は、1年分ずっと読める「群盲評象2023」を、また、お試しで1か月だけ読んでみようかという方は「月刊群盲評象」をどうぞ。毎日、マガジンご購読の皆様にむけて、ぜひシェアしたいと思うことを語っております。


ここから先は

540字

本マガジンでは、桜井健次の記事をとりあえず、お試しで読んでみたい方を歓迎します。毎日ほぼ1記事以上を寄稿いたします。とりあえず、1カ月でもお試しになりませんか。

現代は科学が進歩した時代だとよく言われます。知識を獲得するほど新たな謎が深まり、広大な未知の世界が広がります。知は無知とセットになっていま…

いつもお読みくださり、ありがとうございます。もし私の記事にご興味をお持ちいただけるようでしたら、ぜひマガジンをご検討いただけないでしょうか。毎日書いております。見本は「群盲評象ショーケース(無料)」をご覧になってください。