2次元の世界
そのホテルは、駅に近い便利なところにある
その上、宿泊費がとても安い
エレベーターが混んでいたので、非常階段を使った
あれ?と思った
エレベーターが止まらないフロアがあるのだ
そのフロアは、とても奇妙だった
完全防音のようで、外部の音が聞こえない
そして天井がずいぶん低い
振り返ると、先ほど通ったばかりの扉は閉まっていた
足元の床を見てぎょっとした
大小さまざまの人体の形の模様のようだ
そうだ、ホテルのロビーの床や壁も全部これだった
痛いと思ったら、頭が天井にあたったので、思わずかがんだ
江戸川乱歩の「白髪鬼」に出てくるコンクリート製の吊り天井を思い出した
こっちはその上を行く金属製プレス機のようだ
息苦しい
床に這いつくばり、頭にも背中にも天井の圧力を感じる
向こうから何か近づいてくる
表面と端面の加工のためのビットの刃だ
ぐしゃっという音がしたかどうか、削る音がしたかどうかは知らない
文学トリマー、そんな経験はしたくなかった
ホテル選びはご用心
(409字)
https://www.aozora.gr.jp/cards/001779/files/57244_74203.html
2022年8月20日以来、以下の企画に参加させて頂いています。当初1年で打ち切りのつもりが、そのまま延長し1年半を楽に超えて毎週続行しています。ふだん全く考えもしない、ありえないことを大胆にテーマにして書いてみたいです。以前は410字前後を大幅に超えることもありましたが、今は、ショートショートらしく短く収めるように練習する機会にしたいと思っています。かつては、サイエンスフィクション風にしたり、釣竿を振り回すおっかなりジュリエットの物語にしたりもしましたが、このところは怪奇ショートに傾いています。毎回月曜朝5時の投稿を予定しています。今回のお題は「文学トリマー」をワードもしくはテーマとして含む作品でした。どうぞよろしくお願いいたします。
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