茶屋にて
失礼ですが、いま何時でしょうか
大都会の喧騒のなか、街角で見知らぬ人に声をかけられるのは久しぶりだ
まして、時刻を尋ねられることなど、このところは全くなかった
スマホもあればスマートウォッチもあるからね
人々は閉ざされた個人の時間のなかで暮らしている
不思議なことだ
左手首を持ち上げたら、急に腕時計が壊れてしまったようだ
ずっと自分の時計をあてにしていたから、こういう時に困る
本当のところは、何時なんだろう?
そうだ、空を見ればいいのだったか
昼間は太陽、夜ならば星座を見れば時刻がわかる
あくまでアバウトな時刻だ
空を見上げた
そのとき、何か壁のようなものが音を立てて破れた感じがした
さよう、未の刻を少し過ぎた頃のようじゃな
気がつくと、江戸風の言葉で答えていた
大都会の風景は消え去っていた
そこには一軒の店があった
そうじゃ、茶など、いかがかな
娘はうなづいた
秋の空時計には断層がある
そこに迷い込む者が後を絶たない
だが、退屈な現代から飛び出すのもまた一興
(414字)
2022年8月20日以来、以下の企画に毎週参加させて頂いており、ついに1周年、当初予定ではもう打ち切りですが、今回はとりあえず続行。以前は410字前後を大幅に超えることもありましたが、短く収まるようにしたいと思っています。今回のお題は「秋の空時計」をワードとして含む作品でした。どうぞよろしくお願いいたします。
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