ドラマ「ねこ物件」第7話レビュー:世界はそれを恋と呼ぶんだぜ
優斗の目の前にあるのは2つの恋だ。毅と有美の、そして毅が演じるドラマの中の。彼はそれを客席から眺めている。まるで恋など、自分には関係のないことのように。
恋という感情を知らない優斗。
猫は決まった季節になれば発情期を迎えるが、優斗には起こり得ないことだ。起こるわけがないという意味では人間の恋だって優斗には同じだし、恋する気持ちも理解ができない。
だから毅に有美との食事を取り持って欲しいと頼まれた際の対応は非常にデリカシーに欠けている。普通は不動産屋の店舗で、他の社員が聞いているにも関わらず、当事者を目の前にして恋の話なんかしない。事務的に食事の可否を尋ねたりしない。
それはとても優斗らしくもあって、かつて彼が「働いたことがありません」「ボクシングって殴り合うやつですか?」と悪びれずに言った時のことを思い起こさせる。
有美からデートのOKを取り付けたことで、ますますドラマ撮影に向けて熱が入る毅だが、その姿に圧倒され気味の優斗。恋が力を与えてくれるものだということも、優斗にはまだわからない。
待てよ、これは毅の毅の片想いの話…のようでいて、実は有美の優斗への恋の話でもあるのではないか。
猫が苦手なのに、半ば無理矢理用事を作って二星ハイツに立ち寄るのはなぜか。さらにデートを入居者たちもに一部始終を見ていてもらいたいと条件を出した理由は。
それらの全部が「優斗が好きだから」で説明がついてしまう。
けれど、毅の気持ちを聞いても少しの動揺も感じさせない優斗と恋を始めるのは非常に難儀だ。ああ、ままならぬ。
それでも優斗の中には、今まで味わったことのない感情が芽生えている。
毅が有美にフラれてなぜかホッとしてしまうのは、それまで何も感じなかった恋愛ドラマに心が動きそうになるのはなぜなのか。このどうしていいかわからない、落ち着かない感じは一体何なのか。
自分では気付いていなくても、優斗にとって恋はもう、眺めるだけものではない。自分自身が主人公の物語が、既に始まっている。
生まれて初めて出会った気持ちに、優斗はいつ「恋」という名を付けるのだろうか。
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