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ドラマ『私と夫と夫の彼氏』第5話レビュー:新しい始まり

あらすじ:自分と周平(本田響矢)の間で思い悩む夫・悠生(古川雄輝)の姿を目の当たりにし、夫には周平の存在が不可欠だと悟った美咲(堀田茜)は3人で一緒に住むことを提案する。戸惑う周平だったが、美咲が意を決して提案したことに気付き引っ越すことを決意。3人の同居生活がスタートし、穏やかな表情に戻った悠生の姿を見て美咲はホッとする。しかしそんな瞬間も束の間、周平と二人きりになった美咲はなぜだか周平から熱く見つめられ――?

公式サイトより)

生きていくためのリセットとしての「死」

人生で一番美しい夜明けを見ることができたら、その日から新しい自分に生まれ変われる気がする。

「3人で死のうよ」という周平(本田響矢)に連れられ、揃って屋上に寝転んだ美咲(堀田茜)と悠生(古川雄輝)。何も考えず無になった3人を包む静寂を破ったのは、周平のお腹の音だった。生きてさえいれば必ずお腹は減るものだけれど、絶望や悲しみや不安といった精神状態では空腹を感じられなくなることもある。一度無になったことで、周平はお腹が空いていると気付くことができた。食べたいと思うことは、生きたいと思うこと。家で何か温かいものを食べようと誘う美咲に頷く周平と悠生たちの周りから、さっきまで漂っていた死の気配はもう消えていて、小鳥のさえずりが朝の訪れを告げる。

第5話では周平の生きづらさと、悠生との出会いにフォーカスが合わせられる。1年前、悠生が佇んでいたのと同じ橋に座り込んでいた周平。誰にも理解されない、消えたいと思っていたのは周平も同じだったのかもしれない。
複数の人を同時に好きになる周平を理解している、とかつての恋人たちは言う。けれど本当は納得できず自分だけを見てほしいと思っていたり、本命は一人でも浮気していいと解釈されたり。好きな人は一人だけ、というのは大多数の人にとっては普通のことでも、周平にとっては違う。普通の範囲からはみ出した周平は、ルールを守れない人に映る。多数決で正しさが決まる世界は、そうでない者には酷なものだ。
屋上で「初心者はゆっくり寝転がってね」と躊躇なく後ろ向きに倒れる周平は、周りから否定される自分をそうやって何度もリセットしてきたのだろう。

お互いがお互いを必要とする。3人が交わる必然

うずくまる周平に手を差し伸べたのが悠生だった。声をかけずにいられなかったのは、単なる優しさからか、それとも世界に上手く自分を当てはめられない悠生の違和感が周平の孤独に重なったからか。子供の頃、誰にも言えない悩みを頭の中でもう一人の自分と話し合うしかなかった悠生。悠生は周平と語り合ううち、その対話の相手を周平の中に見出す。
悠生が初対面の周平の頬に触れる行為はいささか唐突で不自然に映るのだが、自分の頭の中にだけ存在する「友達」が目の前にいるというのは、悠生にとってそれくらい信じがたいことで、手を伸ばして「友達」の実在を確かめずにはいられなかったのだろう。
周平は何も知らぬまま、思いを寄せてきた美咲の笑顔と悠生の笑顔に似たものを覚えて悠生に好感を持つ。偶然のような、必然のような出会い。

今の悠生には周平が必要だと痛いほどわかっていても、これからも悠生と生きていきたい。美咲が提案したのは、なんと3人で暮らすことだった。戸惑う悠生と周平。美咲は勢いで慣れないビールを一気に煽って眠ってしまう。
周平は悠生と向かい合ってうどんを食べながら、震える美咲の手から勇気を振り絞って伝えてきたのがわかったと言う。周平の言葉を聞いて涙を流す悠生の姿は、家を出た美咲の帰りを待ちながら、捨てられた写真を拾い上げて泣いていた時とは違っていた。今は泣いている姿を見せられる周平が側にいる。悠生のことを大事に思う美咲の気持ちは重荷ではなく、心をほどく温かさとして届いている。よかった、悠生はちゃんと愛に囲まれて生きているじゃないか。悠生がうどんをすする音には、生きる力が宿っているような気がした。

世の中の正解ではなくても、前へ進もうとする勇気

一緒に暮らすことを決めた3人。新たな一歩を踏み出したことで、物事は前に進んでいく。漫画家・仲さとりとして活躍する悠生の姉に、周平をアシスタントとして紹介することを決めたのもそう。自分が同性愛者であることはまだ家族の誰も知らないし、知られることを悠生は強く恐れている。美咲にも言えなかったのは、婚姻関係にある以上、離婚に発展することで家族にも知られる可能性が高いのも理由の一つだったのかもしれない。姉と自分の恋人をつなげるというのはリスクを伴う行動であるにもかかわらず、姉に電話をかけた悠生。周平の夢を後押ししたいという思いが不安に勝ったのだ。

しかし、それは美咲にとって愛し合う2人を間近で見ることになる。切なさを孕んだ生活の始まり。そしてそのことに気を取られて忘れがちだけれど、周平は美咲のことも好きなのだから状況は相当に複雑だ。
「最低なのは本当の気持ちを殺さなきゃ成り立たない世界のほうなんだよ」と周平は悠生に言った。けれど本当にそんなことができるのだろうか。美咲を傷付けないためにもう悠生とは寝ない、という周平の発言は優しいようでどこかいびつな気もする。回想シーンで挿まれるのは、悠生が初めて周平に自らキスをするまでの躊躇と、唇を合わせると堰を切ったように欲望が溢れ出す様だ。それは3人での暮らしの中に持ち込めないものだし、美咲のことを好きな周平を目の当たりにするということでもある。それぞれが燻ぶらせる思いにいつか火がついてしまいそうで心配になる。

それでも、世の中の正解ではないかもしれないけれど、消えたいと思うよりずっといい。冬でも外で咲く花のように、美咲が、悠生が、周平が困難に立ち向かえる強い心を持てるようにと願う。

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