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「福岡恋愛白書16 クリスマス狂想曲」レビュー

恋に落ちるのは難しい。なのに落ちる時は、あっけないくらいに簡単だ。
主人公・遥香(松井愛莉)は5年間彼氏ナシ。なのにこの年のクリスマス前に限って、気になる人が同時に2人も現れて…
ずっと誰かを好きになることなんてなかった遥香の恋は、ある日突然動き出す。

その恋の相手2人とは同じ日に出会うのだから、タイミングというのは不思議なもの。
友人が呼んでくれたワインパーティーで年上の俊一(古川雄輝)と出会って連絡先を交換したと思ったら、同僚から家飲みに呼び出された先で前の職場の後輩・航(飯島寛騎)に再会。しかも告白までされてしまう。

タイミングは時々、意地悪もする。クリスマスの恋に限って言えば、その対象は俊一だったのかもしれない。
美味しいビールを飲みに行こうと遥香と俊一が出会ってから次の約束まで3週間。それってちょっと間が開きすぎてやしないか。
美容師の遥香と会社員の俊一、休みが合わないのは分かるのだけれど、夜遅くになっても仕事帰りに一杯飲みに行けばいいじゃないか。
遥香は「けど彼、一生懸命スケジュール調整してくれて」と好印象。でも、一生懸命調整しないとタイミングが合わないというのが、既に嫌な予感がする。タイミングの積み重ねは、やがて運命という名で呼ばれるようになるのだから。

会えない3週間、LINEや電話で俊一が恋する気持ちを高めている間、見えない敵・航は着々とジャブを打ち続けている。
航は休みとなればすかさずデートに誘うし、その行先のチョイスがまた、いい。
庶民派な餃子屋とか、景色が綺麗なカフェからの童心に帰って遊べる公園とか、航はいつも日常の延長線上にいる。
デート帰りの車の中で航が歌う自作のホットケーキの歌は、見ているこちらが恥ずかしくなってしまうようなものなのだが、遥香はそれを楽しそうに一緒に歌う。なんだかその時点で、少し答えが見えているような気がしてしまう。

俊一の場合はそうじゃない。ビールを飲みに行くにしたってクラフトビールが美味しい素敵なレストランとか、普段より少し気合いを入れて行かなければならない場所だったりする。
会社員の俊一にはそれが当たり前でも、遥香には違う。だからデートのためにノースリーブのワンピースを新調するし(冬なのに!)、水族館で遅くなったクリスマスプレゼントに…とネックレスを渡されれば「こんな高い物」と恐縮してしまったりする。
「すごく素敵で、勿体ないみたいで」
遥香の言葉は、ネックレスのことではなく、まるで俊一に対して言っているようにも聞こえた。

恋愛に対しては常に受け身だったという俊一。遥香に対しての感情はこれまでにはなかったもので、俊一は誰かを好きになる喜びの方に気持ちが行き過ぎてしまったのだと思う。相手を慮ることを置き去りにして。
舞い上がっているからバーベキューで大学の友達に遥香を彼女として紹介したくて強引に休みを調整させてしまうし、当日遥香に寝坊でドタキャンされればちょっと不機嫌な態度が出てしまう。
どうして一言、短くてもいいから今日会いたいって言えなかったのだろう。
恋が上手く行かなくなった遥香の心の隙間に、航が入り込んでしまうのに。

それでも、自分の気持ちに気付いた遥香にフラれる俊一は、とてもよかった。
そんなの無理だと分かっているのに「気持ちとかまた変わるかもしれんし、俺、変えてみせるけん」と足掻くのにも、目を伏せたまま「もっと、ずっと、大切にしたかった」と口にするのにも胸がギュっと締め付けられて、もうこの瞬間で好きになってしまいそうなほど。

思えば久しぶりの恋が始まる瞬間は遥香も俊一も同じだった。
なのにデートの都合が合わなかったり、告白の肝心な瞬間に邪魔が入ったり、頑張ったのに大切な約束を果たせなかったり。
もしタイミングという歯車が噛み合ってたら、遥香と俊一の間にあるギャップだって解消されていたのかもしれない。航の入る隙もないほど早く恋が進みさえすれば。
遥香は運命の相手ではなかっただけで、きっといつかあなたにもそういう人が現れるよ、と最後のデートから立ち去る俊一に声をかけてあげたくなる。

やっぱり最後も運命の女神は航に味方する。
航が美容師を辞めてしまうのでは、と遥香が駆け回って航を探せば、ちゃんと偶然会えるし、自然と好きだと言えてしまうし。
で、2人であのホットケーキの歌を歌っちゃうのだから。

「福岡恋愛白書」は福岡の視聴者の実体験を基にしたドラマだ。
結ばれた遥香と航が今でも2人…いや子供を入れて3人でホットケーキの歌を歌っていることを、そして俊一にも隣で笑ってくれる人がいたらいいなと願う。

非常に個人的な意見としては、もし水族館でネックレスを俊一が着けてくれたら(後ろからじゃなくて向き合ったまま限定で!)とてつもなく胸キュンで、ワンチャン何か風向きが変えられたような気がします(笑)

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