ドラマ8『弁護士ソドム』第2話レビュー:嫌い、だけどもっと知りたい。気付けばハマっている、渉という沼
崇拝者とアンチ両方を作る、渉の圧倒的な魅力
強いものに、人は本能的に惹かれる。鍛え上げられた肉体と明晰な頭脳。悪徳弁護士と名高い渉(福士蒼汰)に弁護の依頼が絶えないのも、カイ(加藤清史郎)と天音(山下美月)が彼のために行動するのも、その強さに取り込まれてしまったからなのかもしれない。
崇拝する者がいれば、当然アンチも存在するわけで。
現段階ではまどか(玄理)がそうである。第1話、詐欺被害者たちが騙し取られた金を奪い返すために渉たちが暗躍したことを、彼女はまだ知らない(知ったところで、違法行為を働く渉たちを見過ごすことができるとも思えないけれど)。今のところまどかにとっての渉は、金のために悪の片棒を担ぐ、許しがたい弁護士だ。
怒りの対象になるというのもまた、渉にそれだけの力があるということだろう。
しかし巡り合わせというのは面白い。事務所を畳むという篠崎(でんでん)がまどかに転職先として紹介したのは、なんと渉が所属する事務所。相容れない2人だが、まどかが弁護士を目指すきっかけを作った女性弁護士が渉の母親・翔子(高岡早紀)だったとわかる。渉はなぜ詐欺被害者を弁護していた母とは真逆に詐欺師の弁護をしているのだろう……。まどかの中に疑問が生まれる。
孝介(古川雄輝)の情報によれば、翔子は14年前に自殺したという。さらにリフォーム詐欺の元締め・上野原(池田成志)は何者かに消されたという噂があるとも。渉の周辺には謎に満ちた出来事ばかり。渉の秘密を暴くチャンスかもしれないと孝介に背中を押され、まどかは渉とコンビを組むことを決める。
今回も依頼人を華麗に裏切り、奈落の底へ突き落す
最初に2人がペアで取り組むのは被害金額200万円の特殊詐欺。渉が小さい案件を引き受けたことに不審感を抱くまどか。
加害者は大学生・久保寺治(佐藤龍我)。妹・亜美に話を聞くと、親が病気で仕送りできなくなり、金に困っていたと言う。渉が特に珍しくもない事件の弁護を担当するのには何か事情があるのでは……。まどかは孝介の協力を得て渉の身辺を調査する。
渉の邪魔をするまどかを看過できないカイは、極度のコミュ障にも関わらずまどかに直接交渉を試みる。LINE上の文字を介してまどかに伝えられるのは、子供時代の渉の様子。カイが友達にいじめられていると、いつも渉が助けてくれたのだという。現在の渉からは想像もできないが、カイは渉の本質は変わっていないと感じている。
他人と話せないカイが、ただ一つ肉声で伝えたこと。「渉君は、僕のヒーローなんだ」。それは頭で考えて発したのではなく、彼の心からこぼれ落ちたものなのだと思う。まどかが思っている渉とカイにとっての渉の間には、大きなギャップがあるようだ。
渉に治の弁護を依頼してきたのは、マルチ商法まがいの会社を経営している梶原(大高洋夫)だった。何度も被害者から訴えられながら、渉の弁護で裁判に勝訴し続けて来た梶原だが、裏で特殊詐欺の元締めをしているという噂も……。翔子が遺した赤い手帳には、梶原の名前があった。
そう、渉が梶原の弁護をしていたのは、いつかその証拠を掴み「牧師」の正体にまた一歩迫るためだったのだ。
治が特殊詐欺グループについて口外しないよう、裁判で見張って欲しいというのが梶原の要望だった。しかし、渉はカイのハッキングで治と特殊詐欺組織がやり取りした履歴を復元。裁判で治が個人情報を組織に握られて脅されていた証拠を提出し、特殊詐欺グループの存在を明るみにする。
天音は特殊詐欺グループに侵入し、特殊詐欺グループのアジトの映像と首謀者の個人情報を入手。ギャルに変装した天音はルックスも喋りも最高にキュートで、アホな男たちを手玉に取りながら目的を達成していく痛快さは今回も100点満点だ。そのデータはやがてネットにアップされ、梶原の息の根を止めることになる。
敵同士ではなく、運命共同体として
詐欺グループは、治に証言を取り下げさせようと亜美を襲う。亜美とその場にいたまどかを救ったのは渉で、彼の登場のタイミングも戦う姿も、それは鮮やかで美しい。
素手で、しかも一対多で渡り合えるのは、身体的にも精神的にも圧倒的に強いから。渉はきっと、母の死の真相を解明するという使命を果たすために、相当な覚悟で自分を追い込んで来たのだろう(冒頭の筋トレは無駄に鍛えてるんじゃなくて、実用目的だった!)。
その強さには、たとえ悪だとしても人を惹き付けて離さない力がある。
昔カイの目に映っていた渉とは違っても、やはり彼はヒーローなのかもしれない。違法な手段でも、渉は結果的に弱者を救済している。それが本当に間違っていることなのかも、渉の意図も、まどかにはわからない。
差し出されたハンカチや、亜美の頭に置かれた手のひらの優しさは、本来の渉の姿の片鱗なのだろうか。まどかは得体の知れない自分のパートナーのことをもっと知りたいという思いに駆られる。
それでも渉が本当にソドムだとわかったら、自分が渉を滅ぼすのだというまどか。渉とまどかは既にただの敵対関係ではない。まどかは正義の名において、渉の運命の一端を担ってしまった。まどかはもう、渉と同じ渦中にいるのだ。
赤い手帳から、次に渉のターゲットに選ばれるのは誰か。治が渉に伝えたいことの内容も気になるし、渉とまどかを引き合わせた篠崎と曽我(光石研)にも思うところがありそうな……。
「また明日」と渉は言った。渉とまどかが本格的にパートナーとして歩み始めた先には、どんな明日が待つのだろう。