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BS時代劇『大富豪同心3』第6話レビュー:爆発で失われたもの、気付かされること

あらすじ:濱島(古川雄輝)率いる「世直し衆」は夜な夜な暗躍していた。必死に捜査を続ける南の同心・村田(池内博之)たちは、世直し衆を何度も追い詰めるが、ここ一番の所で逃がしてしまい窮地に至る。一方、卯之吉(中村隼人)は、ひょんなことから病で苦しむお登勢(橋本マナミ)を助け、診察し投薬もしてやる。卯之吉のやさしさに励まされ、お登勢は気色を取り戻す。そんな中、南町奉行所に「世直し衆」の正体を告げる密書が届く。

公式サイトより)

笹月の志と諦め

卯之吉(中村隼人)がいつもの卯之吉ではない。江戸に戻って以来算盤をはじき、三国屋の若旦那らしく働く卯之吉。銀八(石井正則)やおカネ(若村麻由美)、菊野(稲森いずみ)はらしくないと心配する。
荒海一家の必死の捜索にも関わらず、美鈴(新川優愛)の行方は一向にわからぬまま。気丈に振る舞う卯之吉だが……。

何度も世直し衆を追い詰めながら捕らえ損ね、苛立ちを募らせる村田(池内博之)宛てに謎の女(橋本マナミ)から文が託される。
女の名はお登勢。結核を患っており、道で倒れたところを偶然卯之吉に助けられる。お登勢は笹月(山田純大)の恋人だという。

やくざの女だったお登勢には、笹月に手助けされ足を洗った過去があった。
お登勢と笹月の出会いは10年前の捕り物。笹月と村田は共にやくざの根城に踏み込み頭を捕らえるが、彼が大大名の祈祷僧の縁者とわかり奉行所は真相をうやむやに。笹月たちの同僚の同心は、逆恨みで頭に斬られ命を落とす。町奉行所の古いしきたりと悪弊を自分たちの手で正すと誓う村田と笹月。
10年が過ぎ、笹月は辰之助の墓前で結局何も変わらない世の中を嘆き、次の夜襲で得た金を持ってお登勢と江戸を離れようと決める。

別人になった濱島と美鈴

生き残り再び坂田(新藤栄作)の元に参じた濱島は、下総での一件を期に人が違ってしまったよう。日光社参を推し進める甘利(松本幸四郎)と、江戸の富を独り占めしようとする三国屋が自分の敵と言い切る濱島。世直しをやりとげると坂田に言い切る目には、一切の迷いがない。

そしてまた美鈴も……。源之丞(石黒英雄)に誘い出され、久しぶりの茶屋遊びからの帰りすがら世直し衆に襲われた卯之吉たち。お約束通り卯之吉が気絶している間に源之丞が刀を交えた相手の正体は、驚いたことに美鈴である。記憶を失い、濱島に卯之吉を仇敵と刷り込まれ、卯之吉を斬ることを使命としている。
自分の名前さえ覚えていない美鈴に、濱島は「あなたの名前は美佐緒です」と告げる。美佐緒とは濱島の母の名であろうか。政治に切り捨てられた「小」であった母と同じ名で美鈴を呼び、美鈴が思いを寄せていた卯之吉を斬らせようとする濱島からは狂気が漂う。あの爆発で堤だけでなく、濱島の心まで壊れてしまったのかもしれない。

自分より誰かを大切に思う力

壊れたものは直さなければならぬ。卯之吉は下総の修復にかかる費用を試算し、甘利に報告する。自分が毎日楽しげにしていられたのは、周りの人あってこそだと気付いた卯之吉。卯之吉は、いつも深刻そうに見える甘利に、課せられた役割とどう向き合っているのかを尋ねる。自分のことはどうでもよい、上様がご機嫌麗しくあればと答える甘利に、卯之吉は自分を支えてくれる者たちのモチベーションを見る。そして卯之吉は自分をはじめ甘利を囲む者たちもまた、同じであるのだと思い至り、甘利にそれを伝える。
卯之吉の言葉に成長を感じる甘利。かけがえのない日常が失われたからわかることもあるのだ。

卯之吉の試算は徳右衛門(竜 雷太)の見積もりと一致。実は徳右衛門は既に江戸におり、費用の算段をつけようとしていた。金策は不可能ではないが、江戸の両替商の力を結集しなければならない額である。両替商たちは誰かのために、という心を寄せ合うことができるだろうか。

笹月にとって世直し衆最後の夜、動きを予測した村田たちの手でついに世直し衆は捕らえられる。そこに現れたお登勢は、自分が村田に情報を流したのだと告げる。お登勢は自分を悪から救い出してくれた笹月には、悪に手を染めてほしくはなかったのだ。長くはない命、同心の笹月を好きなまま終えたいと願うお登勢は、自らの身を世直し衆として捕らえてほしいと差し出す。
お登勢を守るように刃を抜いた笹月。しかしその矛先を向けたのは、笹月自身だった。最期は自分の手で自分という悪を裁いた笹月。二人の結末は悲しいものだったけれど、同心として死んだ笹月はお登勢が好きになった笹月だったはずだ。

大事な人を目の前で失ったお登勢。そのお登勢もまた、卯之吉が薬を差し入れるのを待たず牢の中で亡くなる。知らせを聞いた卯之吉は、命の儚さを想わずにいられない。美鈴が生きているとを信じる心は今にも消えそうで、卯之吉は不安を消し去るように、お登勢のためであった薬を擦るのだった。

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