ドラマ8『弁護士ソドム』第5話レビュー:守りたいのに、すれ違う思い
不本意な取引
守りたい、と思う人がいる。まどか(玄理)は、カイ(加藤清史郎)・天音(山下美月)と治(佐藤龍我)は渉(福士蒼汰)を。孝介(古川雄輝)はまどかを。そして渉は……。
それぞれの思いが交差する第5話。
“美のカリスマ“美作あかり(真飛聖)の守りたい対象は「自分」。
あかりは経営する化粧品会社に男性たちから色仕掛けで出資を募り、故意に配当金を出さなかった疑いで訴えられている。どう考えても詐欺に該当するであろう件なのに「男たちが使わないお金を集めて美しくなりたい女性たちに還元している」と悪びれる様子もない。
弁護を依頼された渉は一度は断ろうとするが、あかりは宏(勝村政信)と深い関係があり、14年前に大切な物を預かったと言う。勝訴したら預かった物を引き渡すことを条件に、渉は弁護を引き受ける。
恋は盲目と言うけれど
原告に不利な情報を持ち込んだ渉に有利に見えた裁判だったが、思わぬ刺客が。あかりビューティーの化粧品で肌が爛れてしまったという女性が証人として登場したのだ。その差配をしたのは、どうやら傍聴席にいる孝介らしい。
週刊誌に記事を書き不確かな情報を拡散することも、裁判で片方に有益な情報を流すことも、新聞記者として正規のやり方からは逸脱しているように思える。孝介が言う正義を貫くためなら、それも許されるというのだろうか。
孝介が恐れているのはまどかが正義から外れていくことではなく、まどかの心に占める渉の存在がどんどん大きくなっていくこと。正義という大義名分の下、孝介は自分のために行動している。詐欺をなくす、という本来の目的は既に見失われ、まどかの気持ちを取り戻すことにすり替わってしまった。そもそも新聞記者が守るべきルールを破っている点で、孝介だって正しさの点では渉を真正面から責められる立場ではなくなっている。
まどかを守ることと、まどかを孝介につなぎ止めることは決してイコールではないのに、孝介にはもうそれが見えなくなっている。
そんな風に色々なズレが生じた正義と恋心を「まどかを守りたいんだ」「俺はまどかが好きだから」と言葉だけはストレートにぶつけたところで、まどかは戸惑うことしかできない。
大切な人だから、巻き込みたくない
渉は辛くも勝訴。だが、あかりは宏からの預かり物を渡すことなく去ってしまい、渉は焦りと苛立ちを募らせる。
そんな時、暴漢から渉を庇いまどかが負傷する。自分の身の危険を省みず目の前の人を助けようとするまどかの姿に、母を重ねて涙を流す渉。「もう、あんな思いは二度とごめんなんです」。渉は一言も好きだなんて言っていないのに、まどかを失いたくないという思いが真っ直ぐに伝わってくる。孝介の告白と対照的だ。
渉はまどかを巻き込みたくないが、まどかは自分を犠牲にして母の死の真相を明らかにしようとする渉を救いたい。渉に自分の人生を大切にして欲しいというまどかの願いは、かつての翔子と同じ。それが恋愛感情かはわからないけれど、渉とまどかはお互いを大事に思っている。
あかり行きつけの美容整形外科に手を回して、あかりを詐欺にかけて金を回収した上、彼女の悪事を晒して倒産に追い込んだ渉と仲間たち。
すべてを失ったあかりは、渉に宏から託されたUSBを渡す。
あかりは宏の幼馴染で、宏はブスだとバカにされているあかりをずっと励まし続けてきた。周りを見返すことしか考えず、整形手術を受け高級クラブで働くようになったあかり。そこで出会った男性たちから出資金を騙し取るようになったあかりを、宏は「誰も傷付けない詐欺なんてない」と止めようとする。宏の過去の言葉は、今の渉への戒めに聞こえるようだ。宏に惹かれていたあかりは距離を置こうとするが、何者かから必死に逃げて来た宏にUSBを渡されたのが最後になってしまった。
どうしていいかわからずに14年間仕舞われていたUSBだったが、あかりは孝介の記事によって渉が宏の息子と確信し、コンタクトを取る。孝介は渉を追い詰めることができたとはいえ、あかりと渉を結び付けることにもなったわけだから皮肉な結果だ。
USBの中身には「牧師の正体は津田山賢。」と書いてある。津田山賢の居場所を探し当てると、そこにいたのは既に死んだ状態の男で……。
本当の黒幕は誰なのか
一方的に渉からパートナーを解消されたまどかは、曽我(光石研)によって五条グループ代表の五条紀明(竹中直人)と引き合わされ、五条グループの顧問弁護士を引き受けることになる。
曽我はまどかを優秀な弁護士として五条に推薦したというが、事務所で働きだしてからわずか1ヵ月、しかも渉のパートナーとしての実績しかないまどかに大手企業グループの顧問弁護士を任せようとするのはかなり不自然。渉のパートナーに強く推したことも含め、曽我には何か意図があるような。
しかも五条の声はこれまで詐欺師との電話口から聞こえてきた牧師の声にそっくりで、この采配に大きな力が働いていることを疑ってしまう。
まどがが五条グループの顧問弁護士に就任することは、渉にとってピンチになるのか、それともチャンスになるのか。
「法律で人の心は救えない」と言う渉。警察は母の死を自殺と決めつけ取り合ってくれなかった。渉は詐欺師の弁護をしながら自分も仲間を使って詐欺を主導し、裏から正義を実現しようとしている。けれど、母の背中を見て育った渉は、本当は法律の力を信じたいはずだ。
法律に対する希望を捨てていないまどかには、やっぱり渉に光を見せてほしいと思うのだ。