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ドラマ8『弁護士ソドム』初回2時間スペシャルレビュー:飽きさせない仕掛けたっぷりの2時間

あらすじ:小田切渉は、詐欺加害者専門の弁護士だ。金にならない仕事は全く引き受けない。刑事弁護を儲からない仕事とけなし、民事弁護を中心に活動している。詐欺加害者を弁護するということは、騙された弱者ではなく騙した側に味方するということ。その人道にもとるやり方や、強引な手法・拝金主義から、法曹界では悪徳弁護士、別名「ソドム」という忌まわしい名前で呼ばれている。渉が詐欺加害者専門の弁護士になったのはなぜか?彼の真の目的とは?

公式サイトより)

正義は一つじゃない。逆転する立場が揺さぶる固定観念

町の法律事務所に所属する人情派の弁護士・若松まどか(玄理)。マッチングアプリ詐欺に遭った友人・水元沙耶(秋元才加)を救おうと弁護を引き受け、法廷で詐欺師専門の弁護士・小田切渉(福士蒼汰)と対峙することになる。
その後沙耶の祖父・啓太郎(前田吟)までリフォーム詐欺の被害者となり、まどかは裁判で二度とも渉に叩きのめされる。
損得勘定のみで行動し、弱者を切り捨てる渉の冷徹ぶりに憤慨するまどかだが……。

リフォーム詐欺の被害者たちで集団訴訟に持ち込もうとしたところ、聞き取りから2つの詐欺事件は連動していることが判明。マッチングアプリ詐欺を束ねていた上野原(池田成志)は、そこから得た家族情報を元にリフォーム詐欺のターゲットを探していたのだ。
自分のせいで祖父が詐欺に巻き込まれてしまったと、沙耶はさらに落ち込む。

……と、ここまではさほどの捻りがあるでもなく「正義と悪の戦いの結果正義に軍配が上がりました」という勧善懲悪ストーリーにもなり得るのだが、その流れは後半に大きくうねりを見せる。
渉は上野原から高額な報酬と受け取る裏で、仲間を使って彼らの情報を引き出していた。上野原のお飾り女(山下美月)は、実は渉側のメンバー・三木天音で、渉の幼馴染である天才ハッカー・八雲カイ(加藤清史郎)とともに、今度は上野原から不動産詐欺で金を騙し取ろうとする。
詐欺の仕掛人の中には、なんと被害者だった沙耶と啓太郎まで加わっているから驚きだ。危ない橋を渡りながらも、なんとか自分たちの力で金を奪い返したことで、彼らは自尊心を取り戻す。そして残りの金はリフォーム詐欺の被害者たちに還元されるという、斜め上行く展開。

被害者と加害者。弱者と強者。敵と味方。分かりやすい対立構造と思わせておきながら、場面によって立場が入れ替わり、善悪が固定化されないのがこの作品の面白さかもしれない。
信念を貫き、真正面から悪に立ち向かおうとするまどかは、決して間違ってはいない。しかし結果的に被害者たちを救ったのは渉の方だ。
ならば一体、どちらが正義だというのだろうか。

渉をソドムたらしめるもの

挟み込まれる回想で、渉の過去が語られる。
14年前の誕生日に弁護士の母を失くした渉。夫が会社の金を横領した罪を償う、という内容の遺書が残されており、警察は自殺と判断する。しかし渉への誕生日ケーキを用意した当日の自死に、渉は納得が行かない。事務所で見つけた手帳のメモから、母が何らかの事件を追う中で脅迫されていたこと、「牧師」と呼ばれる黒幕の存在を知った渉は真実を明らかにすることを誓う。
渉が法曹界で「ソドム」と呼ばれる悪徳弁護士となったのはその目的のためであって、成果のためなら手段を選ばず、非情な判断に徹する渉の行動原理の根底にあるのが愛する人の死というのは皮肉なものだ。
上野原の糸を引いていたのが「牧師」であることを突き止め、渉は母の死の真相に一歩近付く。

渉は渉なりの正義に従ってグレーな弁護に手を染めているが、当然それを許せない人たちもいる。まどかの大学時代の同級生で、現在は新聞記者の青柳孝介(古川雄輝)もその一人。渉のような弁護士がいるから詐欺がなくならないと考える孝介は、渉の正体を暴こうとまどかに持ち掛ける。
渉と、渉を阻もうとする者たちの思惑が今後どのように絡み合い、物語をどこへ運んで行くのかに注目だ。

濃いキャラが織りなすコミカルなパートで深刻になり過ぎない

1話毎の詐欺事件と、全話を通して描かれる渉の「牧師」追及の2軸で進むストーリーを彩るのは、個性豊かな登場人物たち。
天音とカイは、互いに渉への愛を競い合い、渉はそれを煙たがったり手のひらで転がしたり。渉はベッタリの天音をバッサリ斬ったりもするけれど、それは法廷での非情な感じとは違ってじゃれているようでもあり、渉の人間味にホッとする。天音の特技の変装は愛人風から老女まで幅広く、見た目も楽しい。老女の姿のまま素の天音を出して仲間とやり取りするギャップときたら!カイはあり得ないほどのコミュ障で、詐欺現場で発揮する対人スキルの低さには笑っちゃうというよりハラハラ感が強い。キャラも、3人のアジトや小道具もどこかマンガチックで、渉の過去の重さから意識を引き離し、長い2時間に緩急をつけてくれる。

まどかの法律事務所代表・篠崎(でんでん)は加工しまくりの写真でマッチングアプリを登録していて可愛いかよ!だし、偶然再会した大学時代の同級生(元カノ?)のまどかにいきなり結婚願望について質問しちゃう孝介も不器用かよ!だし(ほんのり上手く行かないフラグが見えているのは私だけでしょうか……)、いい塩梅にツッコミどころが用意されていてありがたい。
軽い気持ちで観たい日も、深く考えながら観たい日も、どちらの気分にも合わせられる懐の深さが金曜夜のエンターテインメントにふさわしい。

さて、渉の母は正義感の強い弁護士で、渉はまどかの言動に時折母の面影を見出す。その表情には感情の揺らぎがあって、ソドムになりきれない渉の姿が見え隠れするようにも思える。
第2話、まどかが渉のパートナーとなることでどんな化学変化が起こるのか(または起こらないのか)に期待したい。

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