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ドラマ『私と夫と夫の彼氏』第4話レビュー:「大丈夫」という嘘

あらすじ:美咲(堀田茜)が見知らぬアカウントから受け取ったメッセージに貼られていたのは、自分の元教え子伊奈周平(本田響矢)と繁華街でキスをする夫・悠生(古川雄輝)の写真だった。衝撃的な写真を目にして打ちのめされた美咲は、周平の元を訪れ二度と夫と会わないように告げる。その矢先、美咲は自分と似た境遇の人のインタビュー動画を見つける。旦那を責めた結果旦那が自殺したと話すその動画に動揺する美咲。何時になっても帰宅しない悠生を心配し探しに出るが、悠生は橋の上からぼんやりと線路を見つめていて――?!

公式サイトより)

「大丈夫」と言うたびに自分が追い詰められていく

女が一番よくつく嘘は「大丈夫」。美咲(堀田茜)はそうどこかで読んだというが、嘘をつくのは必ずしも女だけではない。
夫婦としてやり直すと決めた美咲と悠生(古川雄輝)。悠生は周平(本田響矢)に別れを告げ、結婚記念日の前に悠生が言った通り「普通の夫婦みたいに」一夜を過ごす。一緒に朝食を作る2人は穏やかな生活を取り戻したように見えるが、それはやはり作り上げた「大丈夫」で……。

突然の別れに納得できず、何度も電話をかけてくる周平。悠生はちゃんと話そうと周平に会いに行くが、キスされると流されてしまう。
美咲の元に戻ろうとしたのは、美咲を傷付けたくない気持ちはもちろん、周平に自分以外に好きな人がいると受け入れられなかったことも理由の一つなのではないか。もし周平が美咲と悠生に同じだけの愛情を持っていたとしても、一人しか愛せない者にはそれが理解できない。自分に当てはめて考えた時、他に好きな人がいるということは、自分への愛が減ったか、なくなってしまったとしか思えないから。それでも目の前の周平の愛が、少なくともこの場では自分だけに向けられていると思えば、やはり気持ちは揺れてしまう。

見知らぬアカウントから美咲に送られて来たのは、悠生と周平がキスを交わし、ホテルに入っていく写真。裏切られているとわかっているのに、美咲は遅く帰宅した悠生を深く問いただしたりしない。悠生はさっきまで触れていたはずの周平の感触を、嘘を洗い流すように、執拗に手を洗う。これからの人生を美咲に捧げると誓った悠生は、自分で自分の逃げ場を塞いでしまった。もう悠生は美咲にも、自分にも「大丈夫」だと嘘をつくしかない。

「大丈夫」と自分を欺くのは美咲も同じ。周平は美咲に、自分さえいなければ幸せなままだったのかと問う。でも、周平が悠生の前に現れ、2人が愛し合っていることは動かしようもない事実で、もしもなんてありえない。美咲が今幸せではないということがすべてだ。だから美咲が幸せだと言ってみたところで自分を無理矢理に騙そうとしているだけで、それが真実になるわけじゃないのだ。

異なる価値観の共存を受け入れる難しさ

偶然周平と一緒にいる悠生を見掛けた美咲の同僚・三角(しゅはまはるみ)。三角は美咲には何も告げぬまま、悠生に会いに行く。悠生は2人で話し合ってやり直すと決めたと話すが、三角は意外そうな様子。口では心配していると言いながら、美咲に密告したり、悠生を問い詰めたり……。本当は美咲と悠生の関係が壊れるように仕向けているようでもあり。美咲の幸せに嫉妬しているのかもしれないが、「一時の気の迷いでちょっとおかしくなっちゃっただけ」「正気に戻ってよかった」という発言には同性愛の存在を認めたくない、自分と違うものを受け入れたくないという姿勢が透けて見える。「善人」という三角と思われる匿名アカウント名が示す通り、三角は自分の価値観を善だと考えているし、実際にそういう人は多いのではないか。

悠生は三角のような人々から向けられる目を恐れて自分の性的嗜好を明かさないのだろうが、周平は自分らしく生きるためにそれを偽ろうとしない。悠生が三角から責めを受けたように、きっと周平は常に自分を理解しない人たちからの視線に辛さを抱えているはずだ。悠生と美咲という、自分が愛する2人からも複数性愛の本質は理解されておらず、悠生は自分の元を去ろうとしている。三角とは違う形であっても、悠生が周平を受け入れられないという意味においては悠生も周平を苦しめているという点で同じだ。

第三者として三人の関係に目線を向ける登場人物には、三角の他に真樹(岡本玲)と大地(永田崇人)がいる。突然大量のリンゴを持って美咲と悠生の住むマンションにやって来た2人。プライベートに遠慮なく踏み込んでくるところは三角と近いが、美咲と悠生の間に何か問題がありそうだと気付いても見守るスタンスにホッとさせられる。リンゴの香りを胸に吸い込んだ美咲の表情は久しぶりに見る柔らかさで、きっとこれから美咲を待つであろう苦しい展開の中に、2人の存在が救いになればいいと思う。

自分に嘘をついたまま死んだように生きることの終わり

家に帰らない悠生。不安に駆られた美咲は悠生を探して周平の元へ向かう。
そんな切迫した状況でも「大丈夫」と口にする美咲に、周平は自分が嘘をつかせているのだと謝る。そして美咲もまた、自分が悠生に嘘をつかせてしまったのだと気付く。幸せでいてほしいのに、好きだと思う気持ちが相手を苦しめているなんて、これ以上なく皮肉だ。

美咲と周平は橋の上に佇む悠生を見つける。死ぬつもりなんかなかった、ただ消えたいと思ったと悠生は言う。
一緒にいれば自分らしく生きられるはずだった美咲に嘘をつき、自分をさらけだせる周平にも嘘をつき、自分の気持ちまで偽ってしまったら、本当の自分はどこにも存在しなくなる。悠生は逃げ場を失った自分を消して、耐え難い現実から自由になりたいと願ったのかもしれない。

なんなら3人で死のう、と提案した周平。彼らはこの暗い夜の闇を越え、再び朝を迎えることができるのだろうか。

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