土ドラ『自由な女神ーバックステージ・イン・ニューヨークー』第3話レビュー:伝えたいと強く思うこと
それは確かに始まりのキスだった。けれどサチとケン、キスをきっかけに2人が走り出した方向はなかなか重ならないようで…
サチにとっては恋を自覚して、我を忘れるのに十分な出来事。
東京ガールズコレクションに参加できる、千載一遇のチャンスが来たというのにそれどころじゃない。あるよねぇ、わかるわかる。恋で他の大事なことが見えなくなっちゃう感じ。
サチはケンの気持ちを確かめるために彼の地元へ。
が、ケンは違う意味でそれどころじゃない。
地元に戻ってケジメをつけてくる、そうじゃないと前に進めないから。
ケンには恋よりも先に方をつけなきゃいけないことがある、のだ。
ケンの高校時代のサーフィン仲間でありライバルだった俊介。
ケンは才能があるのに努力しない彼に対するもどかしさと悔しさから、嘘をついた上にきつい言葉で挑発してしまう。わだかまりを抱えたまま、サーフィンの練習中に亡くなってしまった俊介。自分の嘘が原因で死んだようなものだと、ケンはその傷を今でも引きずっている(だから嘘つけない性格になったんだね)。
サチに出会ってこのままじゃいけないと一歩踏み出そうとするけれど、区切りをつけて新しい生活を送る俊介の元カノ・洋子の姿を見ると、そんなに簡単なものだったのかとやりきれない気持ちにもなる。
ああ、これまで妖精然としていた彼は、内側にこんなにも複雑で醜い感情を抱えて、それに蓋をして来たんだ。
恋に進む前に立ちはだかる心の壁に、身動きが取れなくなるサチ。
サチはケンの事情を知り、キスの理由の追及をするわけにも行かなくなってしまったのだけれど、クールミントと篤史はケンがキスの責任から逃げ回っていると思い込んでいるのがちょっと可笑しい。
勘違いしながらも、クールミントはサチを励ます。クールミントに背中を押されたサチは、TGCにデザイナーとして参加する姿をケンに見せようとする。篤史はサチを喜ばせたいと、自分の恋心を後回しにしてケンをTGCに連れて行こうとする。
篤史がケンに向ける言葉は、連鎖した思いの強さを表しているみたいだった。篤史、ここに来てまさか君に泣かされるなんてな…!
クールミントのステージやサチの作る服が人の心を動かすのは、そこにメッセージがあるからだ。
今回サチがTGCのために用意した衣装にも伝えたい思いがあった。
反発し合いながらもお互いがお互いを高め合える存在であること。クールミントとマカロンの間の、そしてケンと俊介の間にある大事なものを、サチは衣装に落とし込む。
サチの作った衣装を纏ったクールミントとマカロン。二人の関係性をそのまま表現したようなパフォーマンスは、ケンの心に真っ直ぐに届く。
長い間抱えて来た苦しみが、かけがえのない思い出に昇華する。ケンの涙は心の中で輝く日々がこぼれ落ちて来たみたいに、美しかった。
ケン、泣けてよかったね。笑えてよかったね。
さて、TGCでクールミントがマカロンと踊ったのは「ヨワネハキ」。第2話までは劇中で過去のヒットナンバーが使われていたが、今回は現在進行形の楽曲である。
思えばこれまで、サチが、安藤が、ケンが、それぞれ過去の自分と向き合って前に進む覚悟を決めたわけだけれど、肝心なクールミントがどんな「迷い道」を経てここに辿り着いたのかは明かされないままだった。曲が現代に変わり、ついにクールミントにもその契機が来たということなのかもしれない(とか言って最終話で過去曲に戻ったらスミマセン)。
最終話、クールミントを捨てた母は対面するのか。どんな過去に立ち向かうのか。誘拐とか穏やかじゃないんだけど、ていうかなぜタヌキ?
とにかく情報量が多くて本当に最終回なのか不安になるのだけれど、そんな不安もあら不思議、ボードにすら乗れなくなっちゃってる記憶喪失ケンをもう一度観ると消滅します。
…えっと、絶対大丈夫って言ってるけど、全然大丈夫じゃないよ?
サチにエアーリバースを見せる日が本当に来るのか、別の意味で不安です。