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真夜中ドラマ「ごほうびごはん」第4話レビュー

「変な奴」
第1話と第2話で磯貝(古川雄輝)が咲子(桜井日奈子)に抱いた印象を、そっくりそのまま彼に返してあげたい。
磯貝がついに本気を出して来た。1秒たりとも登場せずに終わった第3話の後、全古川雄輝ファンが次回予告だけを心の支えに涙で枕を濡らしながら(ウソです)待っていた第4話は、控えめに言ってもやはり神回だった。

昼休み、咲子とかえで(岡崎紗絵)、青柳(未来)、本田(きづき)のシステム物流企画部の面々がお弁当持参でテーブルを囲んでいる(気付いたらこんなに仲良くなってるとは!覚えてます?咲子、第1話でFAXの使い方も聞けなかったんですよ?)。
そこに何やら紙袋を持って現れた磯貝。聞けば取引先から大量にもらったお土産をお裾分けしてくれるらしい。
中身を見てもピンと来ない4人。「かき揚げ…ですか?」と尋ねる咲子に「は?鬼まんじゅうだけど」となぜか磯貝は苛立った様子。
「要らないなら他の部署に持ってくけど」と秒速で拗ねる姿はなんだか子供みたい。あれ、この人確か商品企画部のエースだったはず…?
賞味期限についての執拗なまでのこだわりは、もっと様子がおかしい。
「賞味期限今日中だから、早めに食えよ」
「絶対に今日中に食えよ」
「絶対だからな」
さらにその場を立ち去り割と遠くまで行ってからの振り向きからのダメ押しで「絶対だからな」。
大事な事は2回言う。倍の4回なら、それは磯貝にとって最重要事項ということ。日本史で言うと大化の改新、生物で言うとメンデルの法則レベル。絶対テストに出ますからね!…って、え?鬼まんじゅうの食べ時が?

一人になった磯貝は納得の行かない顔でスラックスのポケットから鬼まんじゅうを取り出す。
ポケットからきゅんです!ポケットから鬼まんじゅうです!そこ、さっきみんなで話してる時にカッコよく手を入れてたのと同じ、右ポケットですね?あそこに実は鬼まんじゅうがいたんですね?あの手の先は鬼まんじゅうに触れていたのか。何それ…秘めた愛なの?リアルにきゅんなの?
そのまま鬼まんじゅうにかぶりつく磯貝。
オフィスの廊下でスイーツ歩き食いはいかがなものかと思いつつ、その幸せそうな姿は人目につかないところで愛しい人とつかの間の逢瀬を楽しんでいるかのようにすら見えたり、見えなかったり。

磯貝の言動の謎はすぐ明らかに。鬼まんじゅうは名古屋の食べ物で、青柳によれば磯貝は名古屋名物の食べ方に異様にうるさいらしい。
磯貝に連れられて台湾まぜそばを食べに行ったことを回想する青柳。
早速食べようとする青柳を前に、台湾まぜそばを見つめ「美しい…」と呟く磯貝。訝しむ青柳に「よく、混ぜてから食べろよ」と深刻そうに伝える。ホワーイ ソー シリアス?
青柳がちょっと混ぜて食べ始めようとすれば「もっと混ぜろ」と何度も制止した挙句、混ぜ方に我慢できなくなった磯貝はついに丼を取り上げて自分で混ぜ始める。何かに取り憑かれたように混ぜる磯貝の表情にはやがて穏やかな笑みが溢れ、そこには何か愛のような感情すら漂って…

「確かにしっかり混ぜた方が美味しかったけど」と振り返る青柳の話を聞きながら、咲子の意識が向かうのは磯貝の偏愛ぶりより、圧倒的に台湾まぜそばの方。
思えば咲子にとって今日のランチは未知の食に対する興味をそそるものばかりだった。青柳に分けてもらった秋田の山菜・ミズの初めての食感と味に触れ、本田が購入してきた韓国の揚げ物セットの一品一品の名前に「知らない名前の揚げ物ばっかり」と感心し。
まだ知らない美味しさの可能性をもっと知りたいという好奇心がしっかり醸成された状態の咲子。トドメに台湾ませそば情報をねじ込まれ、咲子の舌は否が応でも台湾まぜそばを求めるように。

台湾まぜそばを求めて咲子が飛び込んだのは台湾料理屋。だが名古屋名物台湾まぜそばがそこにあるはずもなく。
「最初から磯貝さんに聞いておけばよかった」と後悔する咲子だが「でも聞いたところでな…『断る』ってなるのが関の山だよな」と諦めムード。どうやら咲子にとっての磯貝は取っ付きにくい人というイメージらしい。
だが小籠包とビールの美味しさに改めて感動した咲子はファイティングポーズを取り直し、肉圓、蛋餅、マンゴービール、魯肉飯、デザートの豆花までしっかり堪能。
「これからもっと冒険してもっと未知の食べ物と出会うことにしよう」
咲子は食への好奇心によって、胃袋の限界とともに心にあったハードルを軽やかに飛び越えたのだった。

翌日、咲子はエレベーター前で遭遇した磯貝に美味しい台湾まぜそばの店を教えて欲しいと頼む。彼女の中で、断られるリスクよりワンチャン美味しい台湾まぜそばのお店情報をゲットできるかもという気持ちが勝ったのは、昨日のごほうびごはんの経験があったから。
しかし磯貝は断るどころか、咲子が引くほどにそのルーツから長々と台湾まぜそばについて語り出し、仕舞いにはエレベーターに乗り込もうとする咲子を「おい、話はまだ終わってないぞ」と引き止める始末。急ぎの仕事だと言う咲子に「じゃこれで最後にするけど」とまだまだ話は終わる気配がない。
このシーン、どこかで見たことがあるような…そう、第1話で足早に会議に向かう磯貝が手にした新商品のサンプルに食いつく咲子だ。私たちは磯貝と咲子が時を経て、お互いに変な奴として認識し合う光景を見ているのだった。さて、これは2人の運命?歯車が嚙み合ったと言えるのでしょうか(笑)

古川雄輝演じる磯貝の、細やかな表情の変化と雄弁な手は磯貝というキャラの表面と内面を理解させてくれる。
大きな手のひらで相手を制止する仕草から伝わるのは磯貝の警戒心や頑なさ。かと思えば台湾まぜそばの丼を包み込む両手からは慈しみが感じられるし、鬼まんじゅうを頬張る時、台湾まぜそばを混ぜる時の笑みからは溢れる愛がこぼれ落ちるよう。
特に鬼まんじゅうを褒められた時の反応は素晴らしい。一度は咲子から鬼まんじゅうの話を振られても「ああ、あれね」と平静を装うのに「優しい甘さで、美味しかったです」と聞けば「だろ?」と得意さと嬉しさを入り混じらせる。ああ、この人は一見冷たそうでも本当は愛情深くて、愛する者を守りたい気持ちが強い人なのだな。
そんな磯貝をもっと知りたい、笑顔をもっと見てみたい、と私は思う。咲子にもいつかそういう気持ちになる日が訪れるのだろうか。

当の古川はインタビューで、このドラマに「飯テロ」という言葉を使いたくない、と語った。その意味が今ならよく分かる。これはテロではなく、美味しい物が食べたいという「グングン、グングン、グングン、グングン」湧いてくる、内なる欲求から起こる革命、いわば飯レボリューションだからだ。
胃袋の限界を突破し、心の壁を壊し、未知なる食の扉を億すことなく開けて行く咲子。
その姿を見て、私たちも思うのだ。
「明日の食事はちょっと冒険してみよう」と。

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