ドラマ8『弁護士ソドム』第7話レビュー:牧師よりも強いのは、最後に勝つものは
14年間の恨みを越えて
家族の愛。人を信じ、人に信じられること。牧師の正体だけでなく、最後に一番強いものの正体を見せてくれた最終回。
やはり五条(竹中直人)が牧師だった。
五条に捕らえられたまどか(玄理)は、五条の過去を黙っていることを条件に金銭取引を迫られるが、きっぱりと断る。まどかが望むのは、あくまで五条が法律で裁かれること。死の恐怖に直面しながらも信念を貫こうとするまどかは、本当に翔子(高岡早紀)にそっくりだ。だから渉(福士蒼汰)は今度こそまどかの命を守りたいと思う。守りたいのは命だけでなく、きっとその正しさまでも。
渉は五条の会社に向かいまどかを返すよう要求するが、五条はこれ以上自分のことを調べさせないよう、まどかを人質に取ったまま渉を追い返す。
記憶を取り戻し、病院から失踪した宏(勝村政信)は、渉に電話で14年前に起こった出来事について打ち明ける。
宏はある日、突然身に覚えのない横領の罪で懲戒免職を告げられる。翔子(高岡早紀)は牧師の妨害かもしれないと宏を事務所に呼ぶが、事務所に向かった宏を待っていたのはビルから落下し路上に倒れる翔子だった。見上げると、事務所から走り去る曽我(光石研)の姿が……。曽我は五条の息のかかった者だったのか。
五条は曽我にまどかを殺すよう依頼。自殺を偽装するべくまどかをビルの屋上に運ぶ曽我だったが、五条に従うフリをして現場に渉を呼び、まどかは救出される。そこで曽我から語られたのは、14年前の事件の真相。
何者かから独立したばかりの事務所を潰されそうになった曽我は、五条に助けられる。恩返しのため、翔子に五条のことを調べないよう頼む曽我だったが、翔子は聞き入れない。五条が詐欺師の元締めである証拠のUSBを巡って揉み合いになったはずみで、翔子は窓の外に転落してしまう。
翔子からUSBを受け取った宏はその場から逃走し、あかり(真飛聖)にUSBを手渡した後、交通事故で記憶を失ったのだった。
実は曽我の事務所が潰されかけたのも五条の計画だった。正義を貫けず、翔子を守れなかったことを深く後悔する曽我。贖罪の意識から渉を大学に通わせ、弁護士として自分の事務所に迎え入れた曽我は、いつしか渉を本当の息子のように思うように。渉にとってもそれは同じ。母親を殺されたことは許せなくても、どこかでまだ曽我を信じたい気持ちがある。
五条に逆らう勇気を持てなかった曽我は、渉に牧師の真実を暴くことを託す。曽我の頼みを受け、協力を仰ぐ渉。それは14年間抱えてきた行き場のない恨みに、曽我と渉が重ねてきた愛情と信頼関係が打ち勝った瞬間だった。
守りたい希望
USBの中身は五条が詐欺師たちの元締めだったことを示すものだったが、データが破損していて証拠としては不十分。渉はカイ(加藤清史郎)・天音(山下美月)・治(佐藤龍我)に次のアクションを指示する。自分も参加したいと言うまどかだったが、渉は睡眠薬でまどかを眠らせてしまう。
作戦はまどか不在のうちに展開されていく。政治家の秘書に扮した天音が五条に交渉を試みるも、五条は天音と渉の関係を知っており、呼び出された渉と五条の直接対決に。USBをネタに五条をゆする渉だったが、データが欠損していることを見破られ……と、詐欺のプロ同士が緊張感の中で対峙し、優位に立つ者が目まぐるしく入れ替わる様子はなんともスリリング。これでもう終わりか、と思ったところでカイから社内に忍び込んで決定的な証拠を手に入れたと連絡が入る痛快さは、これまで渉たちが仕掛けてきた詐欺師たちへの報復の集大成のよう。五条の警備員と渉・天音が繰り広げるアクションも痛快で、さすが最終回だけあって豪華だ。
それにしても、渉がまどかを巻き込むことを執拗に拒むのはなぜなのか。その理由は渉が眠るまどかに宛てた手紙で明かされる。詐欺師を騙すのも詐欺には違いないから、まどかにはそのままでいてほしいのだと。渉はまどかを希望だと言う。母は正義を貫いて亡くなったけれど、まどかには一部の曇りもない正しさを持ったまま生きていてもらいたいのだ。悪意に屈せず正義を貫ける人が存在しているということが、渉の希望になる。
その希望は、14年前の真相を明らかにし、牧師に復讐することだけのために生きてきた渉のあり方を変えた。五条を真正面から法で裁くため、海外に高飛びしようとする五条に自分を撃たせたのだ。現場を押さえられた五条は、殺人未遂の疑いで逮捕される。
渉が命がけで証明したのは、家族の愛、そして人を信じ、人に信じられることで生み出される力がどれほど強固なものかということだった。
光の差す未来へ
自首し、弁護士資格を停止された渉は行方知れずに。1年後にまどかが渉を見つけたのは、なんと篠崎が新たに構えた事務所だった。
実は篠崎は詐欺事件の黒幕を調べるうちに嫌がらせを受けるようになり、事務所を閉めたのだという。五条と戦って命を落とした翔子の存在を知って勇気をもらった篠崎は、弁護士としてやり直す決意を固める。篠崎は拘置所の渉に会いに行き、頼ってほしいと伝えるのだった。出所後、渉は篠崎の事務所を手伝うことに。正義は時を経て連鎖していった。巡り巡って渉が翔子に助けられるという、不思議な縁。
子供向けの法律教室で教える渉は、翔子が生きていた頃、夢に溢れる高校時代に戻ったような表情をしている。その顔は翔子に似ているような気もするし、まどかに重なるようにも思える。
篠崎の事務所がある海辺。太陽が差し、波が光を反射して輝く光景は、かつて渉がいたアジトの暗さと対照的で、過去を向いていた渉が明るい未来へ向かう象徴のよう。渉やまどかたちのように自分の正義を信じる人々が、どうか正しい方法で正義を貫くことができる世の中であってほしい。そしてそれを実現するのは、彼ら自身の力に他ならない。
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