ドラマ『私の夫と夫の彼氏』第1話レビュー:幸せが壊れる音
思い描く愛の形が違うのに、踏みとどまろうとする切なさ
「人間には愛がありさえすれば、幸福なんてなくたって生きていけるものだ。悲しみの中でさえ、愛さえあれば甘美だ」
愛とは、幸せとは。冒頭に語られるドストエフスキーの言葉が意味するものが何なのかという疑問は、ストーリーを追う間ずっと心にひっかかっる。
高校教師をしている美咲(堀田茜)の夫・悠生(古川雄輝)は友人の誰もが羨むようなイケメン。会社帰りに花を買って来てくれる、優しい人だ。
一見幸せに見える夫婦だが、美咲にはある悩みが。悠生は美咲からいくら誘っても応えてくれず、セックスレス状態になっていた。
夜の寝室で、美咲が帰宅したことに気付いて寝たふりをする悠生。美咲が受け持つ女生徒の妊娠騒動の話をしても、遮って違う話題を持ちかける。
美咲との性的な関係を避けようとしていること、そこに漂う後ろめたさの理由は美咲にも、私たちにもわからない。
花屋の店先で目に飛び込んで来た花に、妻を想うこと。ベランダで一緒にハーブを育てる計画を立てること。髪におやすみのキスをすること。そこに愛がないなんて、決して思えない。
美咲を人として尊敬していると、悠生は言う。美咲はそういう悠生を好きになって結婚したはず。でもやはり女としても愛されたいと思う。矛盾と言われれば確かにそうだけれど、しかし両方が欲しいと願ってはいけないのだろうか。
セックスが愛だとは思えない悠生と、女として見て欲しい美咲の描く愛の形は、もう違ってしまっている。それでも美咲と悠生はギリギリの状態を保ちながら幸せを守ろうとしていて、核心に踏み込もうとする美咲と、注意深くそこに触れないよう振る舞う悠生のすれ違いが切ない。
不安の正体を知る存在
学生時代の友人・真樹(岡本玲)だけは、2人の結婚前から悠生に疑念を持っていた。付き合って一年も美咲に手を出さなかった悠生だが、美咲からのプロポーズを期にようやく性的関係を結ぶ。美咲からその報告を受け、「ちゃんとやれたんだ、悠生さん」と驚く真樹。彼女は悠生がセックスに対して何らかの障壁を抱えていると考えているようで、美咲の結婚に反対する。理由を明言しないまま、結婚を祝福してくれない真樹と美咲はそれから疎遠に。
ゼミ仲間との飲み会で久しぶりに真樹と再会した美咲は、真樹にまた会って欲しいと伝える。美咲はたぶん、真樹が悠生に感じた不安の正体を知りたくて。そしてきっと、誰にも言えない悩みを打ち明けられる相手が欲しいとも思っている。人として大好きな悠生は、今の美咲にとっては安心をくれる、心を預けられる存在ではないのだ。こんなに悲しいことって、あるだろうか。
それにしても、なぜ真樹が悠生への違和感を敏感に受け取ることができたのかは気になるところではある。
衝撃の第1話ラスト!もう以前と同じ幸せには戻れない決定打
どうしても、と懇願する美咲に、悠生は結婚記念日の夜にしようと約束する。結婚記念日で素敵な一夜を過ごせたら……と期待する美咲。
けれど、美咲に対する悠生の愛が恋愛ではないこと、美咲が悠生の性愛の対象ではないことがラストで明らかになってしまう。約束の日の夜、帰りの遅い悠生を待つ美咲は玄関前で大きな音がしたことに気付く。確認のためにドアスコープを覗き込んだ美咲が見たのは、男性とキスする悠生の姿だった……。
ドアを鳴らしたのは、幸せが壊れる音。悠生が買った花は、リビングでだんだんととその色を失い、花びらを落として行った。
ドアの向こうで誰かと唇を重ねる悠生の手には、新しい花束が握られている。けれど幸せは、枯れた花のように入れ替えれば取り繕えるものではないのだ。
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