兵庫県知事選挙について思ったこと
前斎藤知事の再選が決まったあとのテレビ等のメディアは今回の選挙について「従来メディアがSNSに負けた」と表現しました。
ただ、そもそもそこで「SNS」という言葉を使うことを含め、なんとも違和感を感じる人は多いのではないでしょうか?
テレビなどが「SNS」という表現を使うのは、X(旧ツイッター)やらYoutubeといった個別のブランド名を出しづらいということで総称として言ってるのかとは思いますが、「SNS」は単に「インターネット」というインフラの上で利用者同士が双方向でコミュニケーションを図るという目的のSaaSアプリケーションであり、今回の件の本質論を語るのであれば「SNSが」と言うより「インターネットが」ではないのでしょうか?
「インターネット」はそれ自体がなんらかの権力やビジネスなどの目的で成り立っているものではなく、IT技術の発展の中である意味”勝手に”できあがった全世界共通の共同インフラですね。インターネットはインターネットが無い時代の人と人のコミュニケーションの制限を大きく取り除いたインフラなわけです。
インターネットの無い時代では、たとえば、ご近所の人たちとの立ち話で、誰かがどこかで小耳にはさんだ噂話をしたところで、その情報が伝達される物理的な距離には限界があります。まあ、いくら面白いネタでも町内会どまりですかね。よほど興味深いネタなら隣町や市内全域に届くかもしれないですが、所詮、人づてで情報を伝えても日本全国、あるいは世界中にそれが届くことはかなり稀です。ところが、インターネットというインフラのおかげで、テクニカルには自身が発信する情報が即座に世界中に届くことになります。もちろん、その情報が多くの人に閲覧されるかどうかはまた別の話ですが。ただ、興味深い内容だと人々が思えば物理的な距離の制限が無い以上、どこまでも広がる、まさに拡散されるわけです。
今回の選挙で「SNSがどうの」という言い方をする人たちは、SNSの問題として情報の真偽などを挙げがちですが、では、果たしてインターネットが無い時代のご近所の立ち話では真実のみが語られていたのでしょうか。そんなわけはないですよね。噂話好きのおばさんは「ちょっと聞いてよ、なんでもあそこの家のご主人・・・らしいのよ!」とかとか言ったりしてますよね?つまり、SNSだからとかインターネットだからという話ではなく、そもそも人間社会のコミュニケーションは昔から噂話やら誇大表現などはいくらでもあるわけでインターネットだからどうのという話ではないのです。
もちろん、誹謗中傷や意図的に人を落とし込めるためのウソは名誉棄損にあたり、詐欺を目的にした発言は刑事罰にもなりえますが、それはインターネットだからかどうかは関係ないわけです。
たしかに、技術的に拡散しやすいインフラとなっているため、間違った情報があたかも事実のように広がってしまうのは、問題点でもあり、インターネットコミュニケーションの弱点とも言えますが、法規制で対応するというのは甚だ困難なことに思えます。
「コメンテータの〇〇さんがタレントの〇〇さんのことを〇〇だと言ったらしいよと友達から聞きました。本当かどうかはわかりませんが、もし本当だとしたらとても悲しいことだなと感じています」という投稿を読んだ人の中に「あのコメンテータはそういうこと言いそうだな」と感じる人がいれば、それだけで、そのコメンテータの評価が下がる(上がる)ことは大いにあるわけです。でも、こういう投稿をどうやって規制するのでしょう?
個人的には、フェイクニュースなども含め間違った情報が発信されることを合理的に解決するのは、AI技術の発展による対応しか無いのではないかと思っています。
それから「テレビには放送法というルールがあるので選挙期間中などは情報発信に制限があるため発信したくてもできない」という発言も目立ちますが、個人的にはかなり言い訳がましいと感じます。テレビ局も報道機関なのであればジャーナリズムのひとつであり、ジャーナリズムとしてのプライドも持っているはずですが、近年のテレビは視聴者のテレビ離れからスポンサー収入の大幅減少もあり、番組制作費を削り取材費も大幅カットしているのか思います。つまり、報道機関としてずいぶんと手を抜いているのではないかという気がします。ニュースを見ても情報の発信源は政府や自治体や公的機関の公式発表ばかりで、いまや独自の取材や独自の裏とりなどをしてないものばかりのような気がします。
近年の話では、2019年に房総半島を襲った台風15号は東京からもほど近い袖ヶ浦や木更津を含めた半島西部にも大きな被害をもたらし、多くの住宅が損壊し、1週間以上の停電や交通麻痺での食料難などが起こっていたにも拘らず、東京キー局はほとんどこのことを報道をしませんでした。東京に近いけど東京都ではないので東京都は発表しません。千葉県は全県の災害対応にてんやわんやで記者クラブにて発表をする余裕がなかったのかと思われますが、筆者は台風から1週間経ってから、Facebookで木更津在住の友人の書き込みを見て大変なことになっているのを知りました。アクアラインだったら目と鼻の先です。自治体からの発表がなくても報道機関なら、取材ヘリでも飛ばして上空撮影したり、独自に現地に連絡をとって状況を聞いて報道すれば、近隣県含め全国から多くの人がボランティア活動や寄付などの動きをしていたかもしれませんよね。
選挙期間中の報道についても、確かに放送法の制限はあるのはわかりますが、放送できななら、テレビ局の公式アカウントで持論を述べたらよいのではないでしょうか? 放送ではないのですから放送法の範疇外ですよね。各社SNSの公式アカウント持っていますよね? どうしてやらないのでしょう? 答えは簡単です。勉強もしていないし、独自で取材もしていないので、責任をもった発言ができないからです。あるいは、どうしようもない意見を言って炎上するのが怖いのでしょう。
今回の件、多くの国民に「テレビはダメだ」という印象を与えました。実際ダメなので、ダメじゃないと間違って認識していた人にとっては良かったことだと思います。今後ますますテレビ離れは進むでしょう。