見出し画像

天皇杯 ラウンド16 vs浦和レッズ 〜萎縮した前半とリスク覚悟の後半〜


1.試合情報

2021年8月18日(水) 18:00 KickOff
たけびしスタジアム京都
天皇杯 4回戦(ラウンド16)
京都サンガ(J2) 0-1 浦和レッズ(J1)
得点者:岩波拓也(15分・浦和)

【スタメン】


【選手交代】
◆京都
62分 中川寛人→イスマイラ、中野克哉→川崎颯太
69分 李忠成→曽根田穣
80分 黒木恭平→荻原拓也、福岡慎平→松田天馬

◆浦和
65分 大久保智明→田中達也
76分 伊藤敦樹→柴戸海、江坂任→興梠慎三
89分 関根貴大→汰木康也、明本考浩→アレクサンダーショルツ


2.萎縮した前半

京都はリーグ戦と同じような入り方を試みた。
前線からのプレスで制限をかけ、中盤あるいは最終ラインで奪ったのち縦に速い攻撃を仕掛けていくものだ。

しかし浦和の技術レベルと後半の勢いを見るに、若干の様子見があったように思える。ここはわりとよくある話だ。

後半のようなフルパワーを最初から出していれば立ち上がり5分くらいは京都が押し込む一方的な展開になっていたかもしれない。体力面を考慮すると限定的な作戦であり机上の空論なのでここは言及しないでおく。


前半10分までは京都がボールを握ってたが、浦和の特殊なブロックと慣れない寄せの早さに戸惑いむしろ持たされていたという印象だ。

ボールを失ったあとも、ネガティヴトランジション(攻→守の切り替え)で食い下がったことで大きなピンチこそ免れたものの、ひとつ飛ばすパスでプレスをかわされると対応が曖昧になって撤退守備を余儀なくされるなど守備でも主導権を握れておらず。


J1で見るような縦に速い攻撃こそ封じたものの浦和のパスのテンポや正確さにこちらがついていけない場面が出ていた。


「ボールを持っても良くてクロスまでしか行けない」
「奪われるとゴール前まで来られる」
というシーンがいくつかあり、その中でコーナーキックから先制点を許す。

心が折れたり下を向いたりする選手はいなかったと思うが、京都の11人に「どうやればうまくいくのか」という思考を放棄させるには十分な15分間と1点だった。


その後は相手の守備ブロックの隙のなさ、球際のデュエルの強さなどが醸し出す"強さ"をプレッシャーとして受けた感じだ。

メンタルで一歩引いてしまったところが監督や選手がコメントで口にしているような「後ろ向きなプレー」となり攻守における前へのエネルギーの枯渇・前半の停滞感に繋がったのだろう。



3.リスク覚悟の後半

前半終了間際に負傷してひと足早くピッチを後にした白井が戻り、両チームともメンバー交代無しで後半開始。


前半よりも―特に前線が―攻守でアクションを仕掛けていき高い位置でボールを奪えるようになったことで、速攻・遅攻の使い分けを含めて攻撃の選択肢が増して浦和陣内でのプレー時間が増えた。

イスマイラ投入後はほぼ全員が敵陣でプレーする時間もあり、良い連携・崩しを見せるなどゴール対する手応えを掴むほどに。


清水、長井、本多ら守備陣が何度もピンチに晒されたが、前半と違いリスクを負った結果生まれたものであり、これは京都が許容している範囲内のものだ。
それでもJ1のレベルの高さに多少は肝を冷やしたが…


受動的なサッカーから京都サンガが追究する能動的なサッカーに変わったのは皆が受けた印象通りだと思う。

コメントではあまりでてないが、監督がハーフタイムにメンタルの部分で立て直しを図り後半頭から選手がそれに応えたことは、プレーをみれば想像にかたくない。


何度も言ってきた、耳にしてきた「リスクを負って前に出る」を地で行った結果があの内容に結びついた。
あれだけ攻めて無得点と見ると味気ないが、停滞感満載の前半を思えば、監督の采配も含めてよくぞ持ち直したという感じだ。




前後半トータルすると、結果を見るか内容を見るかで評価は分かれるし、内容の見方によっても評価が変わってくるような試合であった。
つまりみんな意見バラバラの難しい試合。


評価軸の中で押さえておきたいと思うポイントがひとつある。
「格上相手にやりきるメンタル」が問われた一戦であるという点だ。"超攻撃的"と評されるフットボールにリスクはつきものであることは誰もが承知してるところ。チャレンジ精神旺盛なJ2とは違う相手に対して、リーグ戦と変わらぬメンタリティ・モチベーションをもって挑めたかどうか。

個人的には、1度は躓いたものの後半立て直して「勝てただろ」と思わせてくれる内容に持っていったメンタルとプレーは素直に評価したい。



正味「いや、勝てとまでは言わんが同点にくらいしてくれや」っていう評価。




4.興味深い采配

このパートは全くの余談である。

個人的に「おっ!?」と思う興味深い采配があったので紹介したい。



京都の曺貴裁監督は80分、黒木に代えて荻原を投入した。これは一見何の変哲もない左SB同士の交代である。

だがピッチでは右SBに荻原が入り、右SBを務めていた白井が左に回った。

(荻原拓也選手と白井康介選手を左右入れ替えて起用した理由を教えてください。)
「練習でもあの形にチャレンジしてきましたし、自分たちがこれからJ1昇格を目指してリーグ戦を戦って行くには、既成の概念にとらわれず、自分たちの最大値を出せるようにしていかなければならないと思っています。」(曺貴裁監督)



https://www.sanga-fc.jp/game/1123/comment.php)

試合後のインタビューではこのように答えていた。
また以下のようにも語っている。





「今日は先制点を許して逆転を狙いに行かなければいかないということもあって、後半、真ん中でテンポをつくれる選手と裏に抜ける選手をうまく組み合わせたり、左右を入れ替えたりを、少し目線を変えてやらないと得点に結びつかないなと思っていました。」(曺貴裁監督)



https://www.sanga-fc.jp/game/1123/comment.php)


今後のリーグ戦を見据えた上でゴールが必要な中で何か変化や工夫がほしい、そうなった時に練習で試していた形をこの場を使ってチャレンジ(試した)したのだろう。

その時間は特に京都右サイドからの攻撃が多くなっており、ドリブラーが入ればさらに良くなるという見込みが監督の中にあったのかもしれない。



前置きが長くなったが、この采配を深堀りしていきたい。
とその前に、ここでもう一つ前置きがある。


ポジショナルプレーがどうたらグアルディオラ監督がこうたら言われるモダンフットボールにおいては、ことさら433というフォーメーションが主流になっている。

その中でもWG(ウイング・3トップの両サイド)は極端に外側にポジションを取ることが多い。
役割としては相手を外側に引き付けて中央にスペースを作ったり、ボールを持った際にはドリブルで仕掛けたり味方との連携でサイドを突破することなどだ。

「右利きの選手を右サイド・左利きの選手を左サイド」に配置するのが一般的だが、このWGというポジションはその逆の配置つまり「左利きの選手を右サイド・右利きの選手を左サイド」に置く場合がある。
これを利き足・逆サイドと呼んだり呼ばなかったり…


例えば左利きのWGが右サイドでボールを持つ。
すると縦方向の突破・オーバーラップするSBとの連携はもちろん、横方向のドリブル(カットイン)も選択肢に増える。カットインをすることでよりゴールが近くなり、シュートやゴール前でのスルーパスも狙えるようになる。


要は利き足と逆のサイドに選手を配置するとゴールに向かう新たな選択肢が生まれるということだ。



ようやく本題の京都の采配に入る。


京都もまた433を基本フォーメーションとしているが、外側の高い位置でプレーするのはSBの役割であり、WGは少し中央に入ってプレーする。一般的な433のWGの役割を京都ではSBが担っているということだ。


SBでありながらもWGの役割を任されていた白井と荻原。
その2人の位置を入れ替えるというのは、まさしく「京都における利き足・逆サイドのWGが爆誕したのと同義」と言えよう。(言っていいのか不安だが)


戦況は次の通り。残り10分・1点ビハインド・京都が攻勢。
SBに求められてるのは、サイドを駆け上がって攻撃参加する本来のSBよりむしろゴールに直結するWGのプレーである。

当然監督の指示を受けたであろう荻原はこれをよく理解してプレーしていたと思うし、イスマイラ、ウタカの2トップに次ぐ新たなオプションとして使える可能性が高まった。



というだけのお話。


もしかしたら外から中央に切り込んでいけるドリブラーがほしかっただけかもしれないし、意図があってる自信はない。
状況的にそれに近いなと感じただけ。



5.最後に

スカパー未加入ゆえ現地観戦とTwitterの皆さんのツイートと両クラブ公式サイトの選手・監督コメントより成り立ってる観戦記です。

わたし個人の印象や超雑感になってしまうことをお許しください。


読んでくださったみなさん、最後までありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?